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    ★    ★    ★
 
「さあ、どんなカレーがでてくるか楽しみデース!」
 案の定、鑑定士控え室では、携帯用カセットコンロでカレーを煮立たせているアーサー・レイス(あーさー・れいす)の姿があった。
「うん、やっぱりパラミタではカレーが大人気だよね」
 ラピス・ラズリ(らぴす・らずり)が、陰でうなずいた。
「まったく、所構わず……」
 漫画原稿用紙の束をかかえた土方 歳三(ひじかた・としぞう)が、軽くアーサー・レイスを睨みつけた。あわてて火を消すと、アーサー・レイスがカレーセットを持って土方歳三の視界から移動する。
「あ、絵を描く紙だ。僕も絵を描こうっと」
 土方歳三の原稿用紙に触発されたラピス・ラズリが、椅子に座るってキョロキョロとモデルを探した。
「いい絵がでてくるといいですね。できれば、ミュドリャゼンカ画廊で売らせてもらえるとなおいいのですが」
「えっ、お姉ちゃん、絵を売ってるの? 僕も絵を描いてるんだよ。見る?」
 イグテシア・ミュドリャゼンカ(いぐてしあ・みゅどりゃぜんか)の言葉を耳にしたラピス・ラズリが椅子から立ちあがると、自前のスケッチブックを持ってきた。
「まあ、どんな絵ですの?」
「待って、あたしが先に……うっ……」
 ちょっと嫌な予感がして先にスケッチブックを開いた筑摩 彩(ちくま・いろどり)が呻く。そこには椅子の上にのたくるように座った変な生き物が描かれていた。人間を描いたものであるらしいが、このかわいそうな犠牲者はいったい誰なのだろうか。
「こ、これは、すばらしい前衛芸術だよね」
 遠くなりかけた意識をなんとか呼び戻しながら、筑摩彩が言った。
「でも、画廊で扱うにはちょっと難しいと思うんだもん」
 イグテシア・ミュドリャゼンカに絵を見せないで、やんわりと筑摩彩がラピス・ラズリにスケッチブックを返す。
「あら、残念ですわね。また、何か描いたら見せてくださいませね」
「うん。今度は、お姉ちゃんを描いてあげるね」
 そう答えるラピス・ラズリに、それだけはやめてと筑摩彩は心の中で悲鳴をあげていた。
「なんだ、あのスケッチブックは? まさか、魔道書じゃないだろうな」
 ちょっと興味を覚えたイーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)が、部屋の隅でスケッチを再開したラピス・ラズリを見た。
 一方のラピス・ラズリの視線の先には、南 鮪(みなみ・まぐろ)がいた。
「ヒャッハァ〜! この空京大分校一のスーパーエリート様が協力してやるんだ、生半可なパンツなんか持ってきたら承知しないぜ」
「おぬし、いつになくやる気満々であるな」
 今にも後ろに倒れそうにかたむけた椅子にふんぞり返って足を組む南鮪に、赤い天鵞絨のマントで身体をつつんでたたずむ織田 信長(おだ・のぶなが)が言った。
「あったりまえじゃねえか。俺ぁ、いつだって本気全開よ。さあ、早く鑑定させやがれ」
 鼻息も荒く南鮪が言った。
 「嫌ねえ」と、遠巻きにしている女性陣からのささやきが聞こえる。
「いっそ撃つか?」
 携帯用のレールガンをシリコンクロスで磨いていたジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)が、銃口を南鮪にむけながらつぶやいた。
「よせ、弾がかわいそうだぜ」
 さりげなく、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が止める。うんうんと、朝野 未沙(あさの・みさ)も隣でうなずいていた。
「ええ。つまらぬものでなければ、刀で真っ二つにするところですが」
 伊吹 藤乃(いぶき・ふじの)までもが、変な同意の仕方をする。セシリア・ナートという偽名を使い、変装擬体?の中に身を隠して変装用衣類セット24種の衣装を着た姿は、まったくの別人と化していた。
 もっとも、そんなふうに見られても、南鮪にとってはいつものことなので、動じる様子もない。
「まったく、みんな面白い人たちですね」
 感心したような呆れたような口調で、プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)が言った。
「そんなことよりも、俺の肩書きはなんで『陰陽師』なんですか。本当は『陰陽拳士』なんですが」
 配られた名前のおき看板をつつきながら紫月 唯斗(しづき・ゆいと)がぼやいた。
「あんみつけんし?」
「陰陽拳士! 分かってて言いましたね」
 軽く揶揄するエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)に、紫月唯斗が言い返した。
「いいじゃないですか。私なんか『骨董巫女』ですよ。なんだか、すっごく古くさい女みたいじゃないですかあ」
「違うのか?」
「違います!」
 紫月唯斗に聞き返されて、紫月 睡蓮(しづき・すいれん)がぶーっと頬をふくらませた。
 ♪〜これが見えない力です〜♪
「あ、おにーちゃんからメール来てるよ」
 ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)が、着信音を鳴らしたエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)の携帯を指さした。着信音から、影野 陽太(かげの・ようた)からだということが分かる。
「どれどれ、ええと、『実は、空京に来ています。今日は一緒に御飯でも食べませんか?』だそうですわ」
「わーい、近くに来てるんだあ」
「じゃあ、帰りに合流しましょうね」
 喜ぶノーン・クリスタリアに、エリシア・ボックがそう言った。