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とりかえばや男の娘

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とりかえばや男の娘

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 それより少し時間は戻る。
 竜胆達が温泉につかっている間、アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)は皆より少し離れたところで見張りをしていた。
 温泉に入っている者以外は既に眠っている時間帯だ。アリアは【不寝番】のスキルを使い、忍び達の襲撃を警戒していた。
 突然、何者かの気配を感じた。
 かなりの人数のようだ。
 アリアは、息をひそめて【光条兵器】を展開し、辺りの気配を窺った。
 右前方に衣擦れの音がする。
「そこっ!」
 アリアは、近づいて来た賊に向かい、カウンターで攻撃……しかし……
 どさあ!
 慣れない夜間戦闘でアリアは木の根っこにつまずいて転んでしまう。その拍子に手にしていた光状兵器を落としてしまった。さらに、隙をつかれたアリアは、もう一方の剣も弾かれてしまう。
 丸腰になったアリアの腕を賊が掴んだ。賊達はアリアの松明でアリアの顔を照らすと驚いて言った。
「おい、こいつアリア・セレスティだ」
「ああ、あの、アリア・セレスティか……!」
「まさか、こんなところでお目に書かれるとは……」
 アリアは、とあるイベントで活躍して以来、その美しさから邪な者達に付け狙われれててしまうようになったのである。
 賊達はいやらしい目つきでアリアの体を眺め回すと、アリアの手足を押さえつけ、その衣服をズタボロに引き裂いた。灯りも武器も無く全く状態で、アリアは羽交い絞めにされ、抵抗もできない。
「きゃあああ」
 悲鳴を上げるアリアの口を賊の一人が塞いだ。
「しずかにしろ」
 そして、ゆっくりとスカートの裾をまくり上げる。
(……そんな……私、また……)
 暗闇で助けを呼ぶことも出来ず、アリアの瞳から涙が零れだす。

 そこへ……。
「何の騒ぎだ?」
 竜胆と、和葉と緋翠が、駆けつけてきた。
「や……夜盗です!」
 アリアが叫ぶ。
「他にもたくさんの者が……潜入したようです」
 あられもないアリアの姿を見て、竜胆達は青ざめた。
「お主ら、何をしている?」
 竜胆が叫ぶと、
「ヤバい! 見つかった」
「殺せ!」
 と、夜盗達が襲いかかってくる。
「ここは、ボク達にまかせて!」
 和葉が叫んで怯懦のカーマインをぶっ放した。
「う!」
「ぐはぁ!」
 夜盗達は胸から血を噴き出しながら倒れて行く。
 和葉の背後で、緋翠がライトニングブラストを唱える。機晶石から稲妻がほとばしり、夜盗に襲いかかる。

 バリバリバリ!

「うわああ!」
 夜盗達は黒こげになってその場にその場に崩れ落ちた。

「アリアさん、ご無事ですか?」
 盗賊達を倒してしまうと、竜胆はアリアに駆け寄り抱き起こした。
「大丈夫です。それより、他にも賊が……」
 アリアは涙で潤んだ顔を上げて告げる。
「他にも?」
 竜胆は和葉達を見た。二人はうなずくと、眠っている仲間達の元へ向かう。竜胆は温泉の方に向かった。異常はないようだ。いや……異常はあった。
「小太刀が……いつも肌身離さず持っていた小太刀がない……」
 そう。先ほど風呂場に忘れたきりにしていた竜胆の小太刀が、置いたはずの場所から消えてなくなっている。
「どうしよう。両親にもらった大切な物なのに……」

 小太刀を無くしたという報告に、十兵衛が血相を変えた。
「あの小太刀を無くしただと?」
「はい。私がうっかりとして風呂に忘れて来たのです。貴重な刀なので肌身離さず持っているよう言われていたのですが……ああ、なんという事をしてしまったのでしょう……」
「きっと、高く売れると思って持っていったんだろうね」
 和葉が気の毒そうに言った。
「でも、命が奪われなかっただけ、良しとしなくちゃ……」
「そうですね……」
 竜胆がうなずくと、
「違う!」
 と、十兵衛が叫んだ。そして、十兵衛は思いもよらぬことを言った。
「あれは犬飼家の家宝などではない! 日下部家に伝わる神刀『珠姫の宝刀』だ」
「『珠姫の宝刀』?」
 聞いた事も無い名前だ。
「なんですか? それは?」
 尋ねる竜胆に十兵衛は答える。
「珠姫の大いなる破邪の力が込められたもので、竜胆ぎみの存在を、邪鬼から隠すための結界の役割をしていた刀なのだ」
「……!」
「それを無くしてしまったという事は……」
 不吉な予感がする。その予感に答えるように、どこからか不気味な声が聞こえて来た。

『結界が解けた。その姿、その顔、しっかりと我が目に焼き付けたぞ……』