蒼空学園へ

イルミンスール魔法学校

校長室

シャンバラ教導団へ

夏合宿、ひょっこり

リアクション公開中!

夏合宿、ひょっこり

リアクション

 

バーベキュー

 
 
 なんだかんだと騒いでいるうちに、そろそろ日も沈みかけている。
お、お待たせしました。健闘君のために選んでみたんですけど、この水着似合いますか? そ、そうですかあ。よかったあ。ありがとうございます、今日も思いっきり遊びましょ。うふふっ
 大胆な貝殻ビキニに着替えた天鐘咲夜が、健闘勇刃に言った。もちろん、見立てた健闘勇刃としては、べた褒めである。
「じきに、ミネストローネができあがるよ。もう少し我慢してね
 同じように貝殻ビキニに着替えさせられた文栄瑠奈が、健闘勇刃たちにむかって呼びかけた。
「なんだか、結構人数が少ないんですけど、皆さんどこに行ってしまったのでしょうか」
 天鐘咲夜がキョロキョロと周囲を見回す。
 この場にいるのは、バーベキューで盛りあがっているクロセル・ラインツァートたちと、先ほど海でひどい目に遭った者たち、それから森や川で食料を集めてきた者たちだけである。
 山にむかった者たちの姿は、ここにはなかった。
「なんでもいいから早く食べようよ。お腹が空いたよ」
 枸橘茨が急かしたので、さっそく夕餉となった。量はたっぷりとあったので、周囲の者たちも御相伴にあずかる。
「はいはーい、注目ー! バーベキューをしたい人はこちらですよー。あ、ちなみに、俺は炎の調理人、クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)ですよー。アーレキュイジーヌ!」
 パンパンパンと手を叩きながら、クロセル・ラインツァートが言った。
 今回、クロセル・ラインツァートの提案で、本来持ち込み禁止である食べ物を石化して、漬け物石の名目でそれぞれが密かに持ち込んでいた。
 チェックをしたのは大谷文美であるが、あっさりと「変わった漬け物石ですねえ」と許可してしまったのだ。おかげて、後で大谷文美はジェイス・銀霞にお説教されることになるのだが……。
「はーい、食材はちゃんと整理して、危ないのは避けておいたよー。よいしょっと。安心して調理してよね」
 自分を始めとする有志が島のあちこちから集めてきた食材をより分けていたミルディア・ディスティンが、食べられる物だけをエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)に渡した。
「うむ、よかろう。そこにおいてくれ。明倫館の厨房を預かる身として、すべての食材をさばいて見せよう」
 光条兵器を取り出すと、エクス・シュペルティアはその特性を遺憾なく生かして、不必要な皮や骨や鱗や種などをみごとに取り除いていった。
 あっという間に、食材の数々が一口大の食べやすい大きさに切りそろえられていく。もちろん、見た目がそのままの方が豪華な海老やホタテなどは、そのままの形で豪快に丸焼きだ。
「はーい、どんどん運んでいきます。どんどん焼いてください」
 紫月睡蓮が、下ごしらえの終わった食材を次々に運んでいった。
 エレオノール・ベルドロップ(えれおのーる・べるどろっぷ)が、持ち込んだ調理器具やバーベキューコンロの前で、受け取った食材を焼いていく。火力調整はシュリュズベリィ著・セラエノ断章がこまめに行っている。
「早く食べたいなあ……」
「火力強すぎです。もう少し押さえてください。お願いいたします」
「ううっ……」
 ついつい早く食べたくて火を強くしてしまうシュリュズベリィ著・セラエノ断章に、エレオノール・ベルドロップが注意した。
「お肉……焦がさない……ように……」
 石を肉にで、石化して持ち込んだ食材を解凍……いや、解除しているネームレス・ミスト(ねーむれす・みすと)がボソリと言った。
「人を……電子レンジのように……言わな……い……」
 読まなくていい空気を読んでネームレス・ミストが言った。
「まあまあ、炭になった肉も、それはそれで乙なもので……」
 石化食材担当として石化させて持ち込んだ肉を、エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)が珍しく水着を着ているネームレス・ミストにひょいと手渡した。
「あんたらは、炭でもいいだろうけど、あたしはジューシーなお肉が好きなんだよー。はい、これ」
 肉が焼けるのが待ちきれない泉椿が、エッツェル・アザトースにギャザリングヘクスで作った秘薬を手渡した。
「それ飲んで、どんどんお肉作ってくれ。あたしがそれをどんどん食べる」
「ありが……とう。だが、私が解除しているわけではないので。はい、ミスト、さしあげよう
「うむ……主君。ごきゅ……ごきゅ……ごきゅ……。うーぐ……、不味い、もう一杯……」
 もらった秘薬をごきゅっと飲み干したネームレス・ミストがお代わりを要求した。
 SP補給が終わると、快調に石化を解除していく。
「本当にいろいろな食材を揃えたんだねえ」
 手近な肉をバチーンと鉄板に叩きつけながら、エレオノール・ベルドロップが誰にともなく聞いた。
「それは兎肉ですよ。いろいろなバリエーションがあった方が、食べでがありますから。他にも、牛肉、豚肉、桜肉、牡丹肉などいろいろとりそろえておりますよー」
「えっ!?」
 解説してくれるクロセル・ラインツァートの言葉を聞いて、ちょっとエレオノール・ベルドロップが引きつった。思わず、超感覚で兎に変身しかけてしまう。
「香草入り兎肉シチューなんか最高ではありませんかあ」
「た、食べないでください。お願いします」
 我知らず、エレオノール・ベルドロップがクロセル・ラインツァートに哀願するように潤んだブルーアイズをむけた。
「ええと、そう言われましても、俺としても、ここは腹一杯食べたいと……。なにしろ、今回のバーベキューの主催ですから。アーレキュイジーヌ?」
 いや、それは言葉の使い所が間違っている。
 何やら勘違いのやりとりを交わしている二人のそばでは、ルイ・フリードが豪快にカジキマグロを火の上に渡して丸焼きにしていた。
「早く食べたいなー」
 今度はこちらに遠慮なく火をつけて、シュリュズベリィ著・セラエノ断章がちょっとよだれをこぼした。
 魚介類も、現地調達で、品なら豊富に揃っている。
「みんな、私のおかげです」
 逃げそこねて猫パンチの直撃を受けたお尻をしきりにさすりながら葉月可憐が言った。
「ひょほだよねへ」
 まだ赤いほっぺをさすりつつ、鬼龍白羽が相づちを打つ。
「それなのに……」
 二人が、紫月睡蓮をちらーんと見た。
「こーら、あれだけ犠牲者も出しておいて何を言います」
 紫月唯斗が、そんな二人の頭をペチッと叩いた。
 砂浜には、まだカレン・クレスティアたちがへにょっと横になったままである。
「しゃかにゃとれたからいいにゃん」
「はいはい、無駄口叩いてないで、焼きあがった魚を皆様に配ってくるのじゃ。ほい、これをつけてからな」
 そう言って、医心方房内が鬼龍白羽にエプロンを手渡した。
「なんで、こんひゃのつけるのよほ」
「もちろん裸エプロンじゃ。見よ、月夜もすっぽんぽんにエプロンだけで頑張っておるぞ」
 ちょっと嫌がる鬼龍白羽に、医心方房内が常闇夜月の方を指して言った。
「ちゃんと水着は着ておりますでございます!」
 裸じゃないと、常闇夜月が叫び返した。
「うむ、御苦労じゃ」
 常闇夜月から焼き魚を受け取ったルシェイメア・フローズンが、それにかじりついた。
「夕日のばっきゃろー!」
「ばかやろーですー」
 なんだか、波打ち際で、アキラ・セイルーンとヨン・ナイフィードが、今度は青春ごっこをして走り回っている。
「まったく、あ奴らときたら……。それにしても、夕日の位置、はて、さっきとずれてはおらぬか?」
 まさか、島が回転しているのか、もしかして回転ジェットかと、ルシェイメア・フローズンがちょっと目を輝かせた。
「さあ、皆さん、遠慮なく食べましょう。今日は俺らの勝利です。お肉バンザイ!」
「お肉バンザイ」
 クロセル・ラインツァートの音頭に、その場にいた多くの者たちが唱和した。
「それにしても、後の人たちはどこへ行ってしまったのでしょうか……。その分、一人頭のお肉は増えましたが……」
 この場にいない者たちをちょっと心配して、クロセル・ラインツァートがつぶやいた。