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ザナドゥの方から来ました

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ザナドゥの方から来ました

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                              ☆


「さあて……どうにかして奴さんの出し抜かないといけないねぇ……」
 レティシア・ブルーウォーターは呟いた。
 フレデリカ・レヴィとミスティ・シューティスのい連携で、ほとんどの自動トラップは解除して最後の大広間まで来られたものの、肝心の『鍵水晶』の在り処が問題だった。
「あれがグレーターワイバーンのワムワ……やっかいですね……」
 フレデリカは呟いた。見ると、大広間は天井がかなり高く、ワイバーンであるワムワが飛び回るのにも充分な自由度を持っている。
 ドーム状の天井の中央、もっとも高い所に鳥カゴのようなものがあり、その中に『赤水晶』が入っているのが見えた。

「しかし……あれはねぇ……」

 さすがのレティシアも躊躇する。
 ワムワはワイバーンとは言うものの、さすがにグレーターの名を冠するだけあり、大きさもさることながら、硬そうな鱗や凶悪なフォルム、赤い皮膚や鋭い爪など、強敵の匂いがするのだ。
 と、そこに後ろから物音が聞こえてきた。

「これは……チャンスかもしれないねぇ……」

 レティシアはミスティとフレデリカに目配せをして、ひとまず姿を隠した。
 自分たちの背後から騒がしくなったということは、先ほど後ろで戦闘を行なっていたグループが追いついてきた可能性が高い。
 もちろん、ワムワを倒してくれればそれに越したことはないが、相手の凶悪さを考えても隙を突いて赤水晶を入手できれば一番いい。

「待つがいい、この私のツッコミから逃れられると思っているのか!!」

 頼もしい台詞と共に駆け込んで来たのはレイコールだった。
 手に持ったハーフムーンハリセンも勇ましく、数多のモンスターを蹴散らしながら大広間に到達したレイコールとライカは、大広間を揺るがす大音響の洗礼を受けることになる。


「グウオオオォォォオオオォオォォォ!!!」


 それは、特に攻撃力を持つものではなかったが、調子の乗ったライカとレイコールの勢いを削ぐには充分なものだった。
 さすがに竜族の祖を主張することはある。ただの威嚇であっても、並みの人間であればその咆哮を耳にしただけで身体の自由を奪われてしまうだろう。

「……あ……」
 その場で立ち尽くしてしまうレイコール、そしてライカ。
 まだまだコントラクターとしては経験の浅い二人、雑魚相手であれば充分に戦えたが、このクラスの相手ではどうにもならない。
 ましてや、今はザナドゥ時空の影響で自分を見失っていたところだ。今はワムワの咆哮で正気に返ったところだったが、それゆえに彼我の実力さを正確に認識してしまったのだ。

 もう一度、ワムワは大きく息を吸い込んだ。だが今度は、ちりっとした火花と硫黄の匂いを感じる。
 次は立ち尽くすレイコールとライカに向けて炎の息――ドラゴンブレスを吐くつもりなのだ。

『――身の程知らずが――燃え尽きるがいい』

 ワムワの言葉と共に、巨大な炎が吐き出された。先ほど通路を多い尽くした炎よりも更に勢いの強いブレスが二人を襲う。
 だが。
「――魔装、変! 身!!」
 ライカとレイコールをかばうように、人影が飛び出てきた。


「うおおおぉぉぉ!!!」


 蔵部 食人だった。
 またも巨大な盾、魔装大盾ヴェイダーシールドを構え、ライカとレイコールを炎から守る。
「――何をぼんやりしてる!!」
 食人の叫びに、ライカとレイコールはようやく我を取りもどした。
 ワムワの咆哮には畏怖の効果もあったのだろう、正気を取り戻したライカとレイコールの瞳にようやく生気が戻る。
「あ、危ないところだったよ、ありがとう!!」
 ライカの礼を受けて、微笑む食人。

「ああ……だが……ここからどう出たものか……」
 ワムワが炎を吐き続けている間は、身動きが取れない。歯噛みする食人に、ライカは言った。
「大丈夫っ!! 勝つための秘訣、その一は……希望を捨てないことだよ!!」
 底抜けに明るいライカの笑顔に、つい噴き出してしまう食人。
「なんだよその一って……その二とか三もあるのかよ?」
 大きく頷くライカ。
「もっちろん!! その二は……仲間を信じること!!
 そしてその三は……」


「絶対に諦めないこと……だろ?」


「え?」
 それは、武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)の声だった。パートナーの龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)と共に通路からあわられた牙竜は、ブレイズに肩を貸す格好で歩いてくる。

「カード・インストール!!」
 牙竜の掛け声と共に灯は魔鎧形態に変身し、牙竜に装着される。
「ケンリュウガー、剛臨!!」

「チャンス!!」
 牙竜が現れたことを好機とみなしたフレデリカとミスティは、同時に歴戦の魔術と氷術をワムワに放った。

『ギュムッ!?』
 物陰からの攻撃に不意を突かれたワムワは、たまらずブレスを停止させた。
 その隙に、食人はライカとレイコールの二人と共に牙竜に近づく。
「助かった……だが、どうする!?」
 食人の言葉に、ブレイズと牙竜は大きく頷いた。
「大丈夫だ、先輩の助けで気分は最高――今なら空も飛べる気がするぜ!!」
 ブレイズは、先ほどのワムワの咆哮を受けていない。未だザナドゥ時空の影響を色濃く受けているので、自分が飛行能力を得たような気分になっているだけなのだ。
「そうか……俺もだブレイズ!! この懐かしい空気……このザナドゥ時空の中では俺とこの魔鎧のパワーは3倍にまで跳ね上がる!!」
 ような気がする。
 牙竜は牙竜で、ザナドゥ時空を自分の故郷と勘違いして、時空内では3倍のパワーを出せると信じ切っているのである。

 だが、この状況下ではいちいち突っ込んでもいられない。
「……やるんなら、手を貸そう。俺だって、助けが必要な誰かのために――戦うぜ!!」
 その食人の手を取って、ブレイズはニヤリと笑った。
「よし――それなら俺達は、仲間だ。なあ、先輩!!」
 その二人の様子を見て、眼を細める牙竜。
「当然だ……俺達トリプルヒーローで、あの怪竜ワムワを倒す!! そのために……お前の飛行能力を役立ててもらう!!」
 宣言と同時に、牙竜はブレイズの手を取り、ジャイアントスイングの要領で振り回し始めた!!

「おおおぉぉぉっ!?」
 回転しながら、牙竜は解説した。
「いいかブレイズ!! 俺と魔鎧のフルパワーでお前をブン投げる!! お前はその回転パワーを利用して敵を討て!!
 俺のパワーが3倍!!
 魔鎧のパワーが3倍!!
 お前の回転力で2倍!!
 これで8倍のパワーが出せる計算だ!!」
 言ってることは無茶苦茶だが、牙竜がブレイズを振り回すパワーはただものではない。
 食人は、一か八かの賭けに出ることにした。
「いいだろう……!! なら俺はそれに合わせて則天去私を撃つ!!
 その力で更に2倍!! きっと10倍のパワーが出せる!!」
 牙竜に勢い良く振り回されながら、ブレイズは食人に声をかける。
「それはすげえ!! やってくれ!!」

 ライカとレイコールは、牙竜と食人が準備をしている間に、ワムワの注意を引いていた。
「こっちこっち!! こっちだよーっ♪」
 驚きの歌でワムワを引き付けながら、ライカは牙竜と食人の逆方向にワムワを向かせるために走る。

「――え?」
 そのライカの身体が、ふわりと浮いた。
「まったく……あちきが言えた義理じゃなけどねぇ……無茶しすぎだよ」
 レティシアがライカを宮殿用飛行翼で拾い上げたのである。
 それによりスピードアップしたレティシアとライカは、次々に吐き出されるワムワの炎を回避していく。
「うわー、すごーい!!」
 こんな状況でありながら、わくわくが止まらないライカだった。

 その様子を見たレイコールが、ワムワが完全に背を向けた瞬間を見つけ、牙竜に合図した。
「――今だ!!」

「行くぞ、ブレイズ!!」
 牙竜の回転がフルパワーに達したその時、最高の勢いでブレイズを武器に見立てた『正義の鉄槌』を発射した!!
「行けえええぇぇぇ!!」
 それと同時に食人のブレイズにかけられ、光輝属性の光に包まれながらブレイズはワムワに向かって飛んでいった。


「スーパー!! ロケット!! ダイナマイト!!!」


『グギャアアアァァァッッ!!!』

 猛回転して突っ込んだブレイズのキックと、牙竜の正義の鉄槌と、食人の則天去私で、さすがに10倍のパワーとはいかないが、必殺の一撃としては充分なパワーが得られたようだ。
 ブレイズの必殺キックは空中のワムワに見事にヒットする。
 そのまま、ドーム状の天井にワムワごと突き刺さり、ブレイズ自身の爆炎波も放たれ、爆発を起した。

「――よし、この隙に」
 レティシアは、ライカを片手で抱えたまま空中を飛び、天井近くの赤水晶が入ったカゴをもう片手のヴァジュラで落とした。
「よっと!!」
 そのカゴを、下で待ち構えたフレデリカが受け取る。

 ワムワと共に下に落ちてきたブレイズは、牙竜と食人に向けてニヤリと歯を見せるのだった。


「へへ……やった!! さすが先輩たちだぜ!!」
 と。