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ザナドゥの方から来ました

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第12章


 混沌の通路が崩落し、中にいたコントラクターが逃げ出してきた。
 それと同時に、他の通路からも鍵水晶を入手したコントラクター達が集まってきた。
 通路を抜けると、そこはブラックタワーの内部のはずである。

「……何だ……これは」
 と、武神 牙竜は呟いた。
「ブラックタワーの内部……というよりも……これは……」
 高い天井を眺めて、プリムラ・モデスタも驚きの声を上げる。

 ブラックタワーの内部は、塔としての構成を持っておらず、中身はまるでがらんどうという状況だった。
 7〜8階建てくらいに見えた塔の中はすっかり何もなく、ひたすら真上に向かっている。


「……だが、考えていても仕方ない。とりあえず、各人が持ってきたこの『鍵水晶』でブラックタワーの扉を開けるべきだろう」
 前田 風次郎が他のコントラクターを促す。
 段差で転げて死んだはずの風次郎だったが、スペランカー魂で復活したのである。

 見ると、外へと繋がるであろう扉の前に、台座が置いてある。
 そこに、フレデリカ・レヴィが持ち帰った赤水晶が置かれた。
 そして、前田 風次郎の黒水晶。
 さらに、朝霧 垂が鉄水晶を置く。
 榊 朝斗が持ってきたのは金水晶。
 虹水晶を置いたのは、霧島 春美。
 そして、最後に緑水晶を置いたのが、リリ・スノーウォーカー――Aトゥルーだった。

「だ、誰か解毒を……」

 息も絶え絶えなリリであるが、とりあえず水晶を置いたことでブラックタワーの扉が開放されていく。

 そして、タワーの扉が開いたとき、そこにいた一行が見たものは、激しい光だった。


                    ☆


「何じゃこりゃーーーっ!?」

 カメリアは叫んだ。
 小さな身体に強大な光を宿して、カメリアが発光している。
「おお、さすがお兄さん達の妹でさぁ!! パワーが違う!!」
 と、クド・スストレイフが叫んだ。
「そうとも、ワイらの理想の妹があんなヤツに負けるもんか!!」
 と、七刀 切も喜びの声を上げた。

 イイ感じにザナドゥ時空とシンクロしてしまったクドと切の二人は、カメリアをすっかり理想の妹と思い込み、その結果として世界に影響を与えることに成功した。
 つまり、二人の思い込みが逆に現実になったのである。


 ところで、理想の妹と超パワーとの関係を誰か説明してください。


 そこに、こちらもザナドゥ時空の影響でカメリアの実の両親と思いこんでしまった小鳥遊 美羽とコハク・ソーロッドも並ぶ。
「さあ、カメリアをいじめたやつをやっつけるわよ!!」
 美羽が、ギガントガントレットを振り回した。
「そうとも――大事な娘を傷つけるヤツを、許しはしないよ」
 と、普段は線の細いコハクも、この時ばかりは父親の貫禄を見せ付けた。

 その二人をカメリアは眺めた。二人とも、思い込みの内容はともかく、自分のために駆けつけてくれたのだ。
 もちろん、自称二人の兄達も。
 今は時間稼ぎをしてくれている地祇のライバルも、英霊の相棒も。

「ああ――そうじゃな……もう、一人になどはなれぬよな」

 何かを吹っ切ったように、カメリアは笑った。
 自分は何をしていたのだろう。何に意地を張っていたのだろう。
 結局、誰も一人で生きることなどできはしない……判っていたことではなかったか。

「ああ、もういい。家族なら何人いてもOKじゃ。いくぞ、父上、母上、兄上ども!!」
 カメリアは岩陰から、Dトゥルーの前に出た。
 光り輝くカメリアを見て、天津 麻羅と南部 ヒラニィは相好を崩す。

「ふ……遅いぞ、椿!!」
 麻羅の呼び声と。
「まったくだ……待ちくたびれたぞ」
 ヒラニィの言葉にカメリアは笑った。
「――すまぬな、ちと……寝起きが悪くての」

 その様子を見て、クローラ・テレスコピウムは呟く。
「いくらザナドゥ時空を逆手にとったからと言って……元は相手の秘術……通用するのか?」
 と、眺めた視線の先で、ブラックタワーの扉がゆっくりと開こうとしていることに気付いた。
「扉が!!」
 そこにクローラが良く知った顔を見つける。
 パートナーの、セリオス・ヒューレー(せりおす・ひゅーれー)である。

「セリオスッ!? 調査中にはぐれたと思ったら、そんなところにいたのか!?」
 驚きの声を上げるクローラ。正直言って直接の戦闘ではそこまで自信のないセリオスは、ブラックタワーの調査をしていたところで、Dトゥルーと宇都宮 祥子たちが戦闘を始めてしまったので、出てくるタイミングを逸してしまったのだ。

「――ほう……そんなところにもまだ、ネズミが隠れていたか」
 と、Dトゥルーは緑色の血に濡れた触手を伸ばして、振り向きもせずにセリオスに放った。
「――うわぁ、助けてクローラ!!」
 セリオスが叫んだ瞬間、激しい稲光が走った。
「……え……」
 それは、クローラが咄嗟に放ったサンダーブラストだったが、その威力に自分が驚いている。
 なぜなら、クローラが放った雷はセリオスを狙った触手を一瞬にして焼き尽くしてしまったのだ。
 だが、先ほどからの戦いを見ている限りでは、自分の術の一撃で退治できるような触手ではなかったはず。

「ど……どうなってるんだ……?」
 クローラは、自分の身体の変化に気付いた。そこに、セリオスの叫び声が響く。
「クローラ、僕のクローラはすごいんだぞ!! いつも僕を助けてくれる!!」
 確かに、セリオスは強化人間になった際に、精神の安定を図るためにクローラへの帰属意識を強化されている。
 だから、普段からクローラのことになるとやや思い込みが激しくなったりはするのだが、今の興奮状態は常軌を逸していた。

「――まさか!!」
 クローラは、自分の身体が光り輝いていることに気付く。その光が、カメリアを包んでいるものと同質のものであると。
「やめろセリオス、俺のことを考えるな!!」
 だが、そのクローラの叫びはもう遅かった。
 そう、セリオスはザナドゥ時空の影響を強く受けて、カメリアと同様に何か間違った理想像をクローラに重ねようとしているのだ。
「だって、クローラは雷の勇者だから!!」

 空から雷が落ち、クローラを直撃した。
「――!!」
 それを間近で見た緋桜 ケイは驚いた。だが、落雷したはずのクローラは、金色の光を放ちながらゆっくりと立ち上がった。
「だ……大丈夫ですか……? あと、あの人は勇者とかなんとか……あなたは、一体……?」
 ソア・ウェンボリスの問いかけに、クローラは答えた。

「そうだな……俺のことは、電撃の魔導師とでも呼んでくれ」
 と。


                    ☆


 それは色々とすごい光景だったよ。と、後にライカ・フィーニスは語る。
 何しろ、理想の妹であり娘である姿を体現したカメリアと、何だか成り行きで電撃の魔導師になってしまったクローラが、激しく雷を飛ばしながら、Dトゥルーと戦っているのだから。


「とうっ!!」
 クローラが放ったサンダーブラストが、再びDトゥルーの触手を焼いた。
「ほう……なかなかやるではないか!!」
 細かい触手ではすぐに焼き払われてしまうと悟ったのだろう、Dトゥルーは剣を構えなおし、クローラへと攻撃を放つ。

「――させるか!!」
 だが、そこにずっとDトゥルーの様子を観察していたレン・オズワルドの歴戦の必殺術による銃弾が放たれた。
 その銃弾は、恐るべき正確さで、Dトゥルーの鎧と触手の隙間を縫って、身体の中心部へとヒットした。

「ぬうううぅぅっっ!?」

 今まで、どのような攻撃にもたいしたダメージを受けていなかったDトゥルーが、初めて苦悶の声を上げた。
「やはり……強力な触手と鎧の中に、核になる部分があるのではないかと思っていたんだ」
 レンの援護を受けて、美羽のギガントガントレットがうなりを上げた。
「母の愛、思い知れ!!」
 そこに、コハクはアクセルギアを駆使した怒涛の疾風突きを繰り出す!!
「僕の妻と娘は、この手で守ってみせる!!!」

「ぐあああぁぁぁっ!!」

 レンが切り開いた鎧と触手の隙間を、二人は見逃さなかった。強力な攻撃を受けて、Dトゥルーはうめき声を上げる。
 そこに、カメリアとクローラが高く飛び上がった。

「よし、いくぞクローラとやら、その勇者の力見せてみよ!!」
 カメリアの怒号に、クローラも答えた。
「よかろう、見るがいい、この俺の真の実力を!!!」
 ちなみに、普段のクローラはまったくこういう性格ではない。どちらかというと地味で、実直で効率よく動くタイプで、自分ひとりで目立ちたいほうではないのだが、今は勝手なセリオスの理想像を被さられたため、やたらと大仰な喋り方になってしまっている。

 ともあれ、ザナドゥ時空にシンクロしたクローラの放つ雷の威力は高く、Dトゥルーの動きを完全にその場に縫い付けた。

「さあ、いくぞ!!」
 カメリアの合図に、クドと切の二人が叫んだ。
「ああ、お兄さんたちの妹の力!!」
「あいつみ見せ付けてやるんだ!!」
 今、カメリアの力の原動力となっているのは、あくまでクドと切の思い込みパワーである。
 その力の後押しを受けて、カメリアは渾身の力を込めた光術を放った。

「魔界とやらに帰るがいいーーーっ!!」

 カメリアの絶叫を受けて、Dトゥルーの姿が光の中に消え去っていく。
「……勝った……のか?」

 Dトゥルーの姿は消滅した。肩で息をするカメリアは、開かれたブラックタワーの扉を見た。
「ふん……何がブラックタワーじゃ……本人が倒れては何にもならぬではないか……」

 その開いた扉から、リリ・スノーウォーカーは言った。
「ふ、ふふ……Dトゥルーなどは所詮我らがトゥルー四天王の面汚しなのだよ……」
 その横に並んだララ・サーズデイも呟く。
「ま、まあ仕方あるまい……ヤツは所詮小物にすぎないのだからな……」
 そうして、最後にユノ・フェティダは言った。
「ククク……ヤツは四天王の中でも最弱……」
 いいから誰か治療してやってください。


「まだよ!! 上!!!」


 祥子が岩陰から叫ぶ。そこには、ブラックタワーの前に浮かぶ秋葉 つかさがいた。
「ふふふ……Dトゥルー様も口ほどにもありませんねぇ……」
 つかさの着物の裾からまだ触手が覗いている。
「おかしい……Dトゥルーが倒れたなら、ザナドゥ時空は解除されるはずよ、どうしてあの力がまだ残っているの!?」
 祥子のその叫びにカメリアはつかさを振り返った。

「まさか……」

 カメリアと目が合ったつかさは、薄く、目を細めた。

「はい、その通り……こちらが、Dトゥルー様の本体ですわ。皆様、本当にご苦労さまでした……」
 くすくすと笑いながら、つかさは解放されたブラックタワーの中へと飛んでいった。
 タワーの中は空洞になっている。まるでそこに何があるか知っているかのように、つからは天井近くまで一気に飛び上がった。
 塔の内部、もっとも高いところに、禍々しい光を放つ球がある。それが『愚者の石』だろうか。

「あらぁ……面白いのがいますねぇ……」

 つかさが触手の絡まった手を動かすと、気を失ったローザマリア・クライツァールが台座の前に現れた。
 そして、それと同時にマリオン・エーディン・ノイシュバーンの身体を取り込んでしまった魔族6人衆の一人、ラウネの姿も。
 ふわりと、ラウネが浮かび上がるとつかさのほうへと引き上げられていく。

「これはDトゥルー様……面白い者を手に入れられましたな」
 ラウネは言った。つかさの着物の襟元が動き、中から触手の塊のようなものが這い出て来た。
「うむ……体は失ったが、8本の足のうちの1本を失ったに過ぎん……一度、宮殿に戻るとしよう」
 Dトゥルーの言葉に反応するかのように、愚者の石が眩しく輝き始めた。
 つかさとDトゥルー、そしてラウネの姿がそこに吸い込まれたかと思うと、突然塔の頂上から雲の中へと魔力の光が放たれた。

「あれは……」
 レンはその光景を見て呟いた。
 黒雲の向こうに浮かぶ、巨大な建造物のようなものが見える。
 地上に建設されたブラックタワーは、空中の浮かぶ天上宮殿への入り口にすぎなかったのだ。
 しかも、倒したと思われたDトゥルーはあくまで操り人形のような存在。
 ブラックタワーの開放という目的は達成したものの、勝利とは言いがたい状況だった。


 Dトゥルーが姿を消したことにより、とりあえずザナドゥ時空の影響からは解放されるコントラクター達。


「だが……悪い条件ばかりではない」
 と、ジークフリート・ベルンハルトは機晶姫 ウドを引き連れて、空を睨んだ。
「まぁねぇ……やり方次第ってことじゃないかな?」
 混沌の通路から脱出した、最後のギギは茅野 菫になんだか懐いてしまったようだ。
「……まだ、戦うつもりなのでしょうか……Dトゥルー様は」
 バルログの魂は、葉月 可憐と共にある。彼女の呟きが、雷鳴に飲み込まれて、消えた。


 そして、ザナドゥ時空から解放されたことにより、今までの自分の言動を振り返った一部のコントラクター達は、激しく身もだえしながら、言った。


 どうしてこうなった、と。


『ザナドゥの方から来ました』<続く>

担当マスターより

▼担当マスター

まるよし

▼マスターコメント

 みなさん、こんばんは。広げた風呂敷がたためないまるよしです。
 これが12作目のシナリオになりますが、相変わらず本編に関係ないスキマ産業で申し訳ありません。

 さて、初の冒険シナリオとなりました『ザナドゥの方から来ました』はいかがでしたでしょうか。もし、少しでも楽しんでいただけましたら、幸いです。
 しかも、今回初の連作ということで、次回へと続かせていただきます。

 ここで、今回の情報を纏めておきたいと思います。

・魔族6人衆
 グレーターワイバーン ワムワ……肉体を失って死亡。次回登場はありません。
 ザナドゥの地祇 メェ……魔力のほとんどを失って封印。今はただの山羊です。次回登場はありません。
 マンゴドラゴラの花妖精 ラウネ……マリオン・エーディン・ノイシュバーンさんの身体を乗っ取って生存。次回登場します。
 破壊の機晶姫 ウド……コントラクター側につきました。ある程度の意始疎通ができます。次回登場します。
 バーサーカー ギギ……コントラクター側につきました。あまり意思疎通ができません。今は大人しいですが、突然に襲い掛かられる可能性も否定できません。増殖能力はありません。強さは元に戻っています。次回登場します。
 バルログ リッパー……肉体を完全に失って死亡。魂はフラワシ状態で葉月 可憐さんに同行予定です。フラワシ状といっても、うっすらと見ることができるので、意思疎通は可能です。戦闘能力はありません。

 以上です、鍵水晶は全部揃えることができました。
 今回もとても楽しいアクションが多く、まとめるのに苦労しました。まとまってない、とも言います。

 いつも掲示板にて感想など、本当にありがとうございます。いつも嬉しく思いながら拝見しています。
 また、感想以外にも注意点などございましたら、運営様へとメールを送ってくださいますよう、お願いします。
 特に口調や容姿、年齢や名前のミス、正確の食い違いなどは、運営様へと送っていただかないと、こちらも公式に対応することができませんので、よろしくお願いします。

 では、次回の『ザナドゥの方から来ました』でお会いいたしましょう。8月中旬を予定していますが、決定しましたらマスターページでお知らせいたします。

 ご参加いただきました皆さん、そして読んで下さった皆さん、本当にありがとうございました。