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ザナドゥの方から来ました

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第9章


 『鉄の通路』では、魔族6人衆のウドとの激戦が続いていた。

「あうっ!!」
 ニケ・ファインタックのパートナーであるはずのメアリー・ノイジーはすっかりザナドゥ時空に飲み込まれ、ウドの味方になってしまっていた。
 そのニケは、メアリーの攻撃に倒れ、闘技場の隅に転がされている。

「くっくっく……機晶姫の起源であるウドさまとこの俺の最強コンビは誰にも止められないぜーっ!!」
 棒祖うの影響だろうか、メアリーの口調は徐々に乱暴になっていき、彼女が本来内包している狂気を象徴しているかのようだった。

 しかし、そんなことでひるむコントラクター達ではなかった。

 通路のトラップを解除しながら闘技場までやってきた、朝霧 垂は叫ぶ。
「ふざけんなぁっ!!
 お前みたいな炎の中でむせ返ってるようなヤツが機晶姫のモデルなワケあるかぁっ!!
 基本的に機晶姫は可愛くて綺麗なもんだろうが!!」

 そこに、トラップが解除された通路を通ってやって来た茅野瀬 衿栖(ちのせ・えりす)が意見を述べた。
「そうなんですかっ!?
 そういえば……私が今まで出会った機晶姫はみんな良い子でした。
 それなのにどうして、魔族に味方してるんでしょう?」
 衿栖の言葉に、垂も頷いた。
「そうとも……それこそがヤツが機晶姫の偽モデルである証!!
 大体……全ての機晶姫のモデルとなったのは……あいつだぁぁぁ!!!」
 垂は、闘技場の観客席のある一点を指差した。


「たるる〜ん」


 そこにいたのは、以前とある騒動で誕生した垂の偽者『垂るぱんだ』であった。
 そのあまりに場違いな空気に、その場の全ての者の動きが止まった。

「今だあああぁぁぁっ!!!」

 その隙を縫って、垂の『仕込み竹箒【無光】』と『仕込み竹箒【朝霧】』から真空波が発せられた。
 チェインスマイトによる連続攻撃で、ウドとメアリーを巻き込んで大量の真空波を撃ち続ける。

「でええりゃあああぁぁぁ!!!」

 真空波の特性上、味方に攻撃が当たらないことにするのは容易だ。
 それを知っている衿栖も、自らの人形にドリルやハンマー、ノコギリやドライバーを持たせて真空波が巻き起こした煙の中に突進させた。

「悪いヤツに協力しているなんて……きっと故障してるのね、かわいそう!!
 でも安心して、私がきっと修理してあげるから!!」


 それ改造ですよね。


 だが、これで倒れるほど甘くはない。
 すぐに、煙の中から機晶レールガンが発射され、垂と衿栖へと銃撃が浴びせられる。
「くうっ!!」
「きゃあっ!」

「衿栖に、何すんのよっ!!!」
 その隙を縫って、衿栖のパートナー、茅野瀬 朱里(ちのせ・あかり)がウドに接近戦を挑んだ。
 メアリーは、垂の真空波によってすでに倒れてしまっている。
 レプリカ・ビックディッパーを振り回して迫る朱里だが、ウドはその大剣の一撃を左手の鎧でガードしてしまう。
「うそっ!!」
 朱里が驚いた隙に機晶爆弾がオリジナルの機晶レールガンから発射される。

「やっば!!」
 辛うじて直撃を背駆る朱里だが、至近距離で爆発した爆風にあおられてバランスを崩す。

 追い討ちをかけようとしたウドに、レオン・カシミール(れおん・かしみーる)のスナイパーライフルが火を噴く。
「やれやれ……手間のかかることだな」


 次々に発射される機晶爆弾。今度はこちら側に爆風が巻き起こり、視界が塞がれた。
 そこに、容赦なく機晶レーガンが掃射される。

「きゃあああぁぁぁ!!!」

 だが、衿栖の悲鳴の縫って、通路から煙の中を飛び出した一団があった。
 ジークフリート・ベルンハルトと東 朱鷺、そしてそのパートナー、第七式・シュバルツヴァルドだ。
 『彗星のアンクレット』で素早さを上昇させたジーク達は、次々に煙の中をウドに襲い掛かる。

「ふっ……闇よ在れ!!」
 絶対闇黒領域で攻撃力を上げたジークのサンダーブラストが炸裂する!!
「行きますよ!!」
 同様に、ジークのパートナー、メフィストフェレス・ゲオルク(めふぃすとふぇれす・げおるく)もライトニングブラストを放った。
 たまらず退こうとして機晶爆弾を放り投げたウド。しかし、それをジークの魔鎧、クリームヒルト・ブルグント(くりーむひると・ぶるぐんと)がサイコキネシスでウドに跳ね返す。
「――!!」
 その爆弾はウドの眼前で爆発を起し、スコープの一つを大きく損壊させた。

「こちらも、行きますよ」
 ジークと共に接近した朱鷺は、至近距離から轟雷閃を放つ。
 そして、シュバルツヴァルドがその巨体を活かしてウドの機晶レールガンを押さえつけた。

「今だ、右肩を潰すのだ!!」

 ウドの右肩は、かつての永い戦闘の歴史の内に、赤く血塗られていた。
 シュバルツヴァルドは、どうやらザナドゥ時空との相性が良かったらしく、ウドの本質を見抜いていた。
 戦いのために作られた機晶姫。戦いに明け暮れるうち、戦いのためだけに戦うようになり、戦いと殺戮にしか目的を見出すことができなくなった。
 ウドも、そうした兵器の成れの果てであった。
 血塗られた右肩は、ウドの兵器としての歴史そのもの。

「行くぞ、これが――魔王の第2形態だ!!!」

 ジークもまた鬼神力を解放し、身体を2倍の大きさに巨大化させる。それと同時に展開した『地獄の天使』による影の翼の姿は、まさに悪魔のシルエットだった。
「ふんっ!!」
 ジークはウドの右腕を巻き込むように絡め取り、右肩を固定する。そのまま関節を逆手に捻り上げ、赤く染まった右肩にダメージを与える。

「とりゃあああっ!!!」
 と、そこに朱里が大剣を振り回して参戦した。
 ジークによって固定された右肩に、朱里の大剣がヒットし、ウドの右肩――血塗られたアーマーを破壊する。


「――」


 その瞬間、ウドの動きが停止した。
 まるで電気機器のヒューズが飛んだように、ぷっつりと動きが止まったウド。
「――よし、シュバルツヴァルドの狙いは正しかったようだな」
 ジークが満足気に頷くと、メフィストフェレスは一歩前に出て、言った。
「――それじゃ、せっかくですから、ウドくんを修理してあげましょうね」

 そこに、朱里と共に衿栖が駆け寄ってくる。
「あ、私もやりますーっ!! 故障を直せばきっと良い機晶姫に生まれ変わるはずですから!!」
 張り切る衿栖に、朱里は尋ねた。
「――衿栖、機晶技術とかの知識は?」
 それに対し笑顔で答える衿栖。
「愛でカバーよっ!!」
 その衿栖を押しのけて、レオンが前に出た。
「まあ待て……愛も結構だが、後は私に任せておけ。
 安心しろ……この機晶姫は必ず直してやる」

「じゃあ、部品はこれから取ったらいいのではないですか?」
 何となく、メフィストフェレスとレオンの二人でウドを修理する流れになったようだ。
 メフィストフェレスの提案で、ウドが持っていた機晶レールガンを分解してウドの修理が行なわれた。
「……何だ、そいつ修理するのか? まあ、危なくないならいいけどよ……ところで、ブラックタワーの開放はどうするんだ?」
 垂とライゼ・エンブが近づき、ウドを修理している面子に話しかける。
「ああ……我々はまだこのウドに用がある。何ならこれを持って行くがいい」
 と、ジークは懐から『鉄水晶』を取り出した。
「おっと――いいのか? 随分気前がいいこったな」
 垂の呟きに、ジークは答えた。
「ふん……元々そんなものにはさほど興味が無い……俺が狙っていた宝は……こいつよ」

 ジークの視線は追うまでもなく、レオンとメフィストフェレスが修理しているウドに注がれている。

 垂は、鉄水晶を受け取ると軽く肩をすくめ、ブラックタワーへと向かうのだった。

「さて――聞こえるか、ウドよ」
 ジークは、修理が進むウドへと声をかけた。
「――」
 ウドは、答えを返さない。だが、今までウドが喋らなかったところを見ると、もしかしたら言語の機能がないのかもしれない。
「語る気がないならそれも良かろう……。
 だが、俺にはお前のような強き者が必要だ。
 魔王軍として、俺に従え!!
 破壊と殺戮だけの生涯など、取るに足らぬほどつまらぬものだということを教えてやろう!!」
 ぴくりと、ウドのスコープが動いた気がした。
 修理を続けながら、メフィストフェレスも語りかけた。
「そうですよウドくん……破壊と殺戮の人生なんて面白くありません……。
 どうせなら私達と一緒に味の世界を極めましょう!!
 貴方は魔王軍の味将軍となるのです、私のためにラーメンを作ってください!!」

「……無茶な説得もあったものだな」
 と、レオンは苦笑いを浮かべた。
「まあね……言ってることは無茶苦茶だけど……でも、良い機晶姫として生まれ変わるなら、私はそれでもいいかな」
 と、衿栖もレオンを手伝いながら、微笑んだ。

 そして、やがてウドの修理は終わり――。

 もし、ウドが喋れたのなら、再起動の後、こう言ったかもしれない。


「もう好きにしろ」
 と。