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リアクション
白竜が手に持ったウイスキーを飲み終わると同時に「もう帰ろうぜ?」と声をかける、そのタイミングを見計らっていたのは羅儀である。
一息に最後の一滴まで飲み干した白竜。
「もう……」
羅儀の言葉を遮って、円が口を開く。
「あちらのお客様からです」
ヒュッと、グラスをカウンターに滑らせる。
「ん?」
白竜が見ると、白色の液体が波々と注がれたグラスが自分の前……。
を、通過して、カウンターの端へと消えて行く。
ガシャアァァァン!!
そして、何かが砕ける音がした。
羅儀が床を見ると、割れたグラスとミルクがぶちまけられている。
「ミルク……?」
羅儀の声に、歩がパッと円を見る。
「……あ、あれ、円ちゃん、あたしミルクなんて頼んでないよ?」
「間違えた。あれはボクのだった」
そして、羅儀が呟くと同時に荒くれ者達の一部が立ち上がる。
「オイオイオイ!! 今、禁断のメニューが聞こえた気がするぞ!?」
「ヒャッハー! パーティの時間にしちゃあ、ちょいと早いが、殺るか!?」
周囲を見渡した歩が焦る。
「……あ、あれ? 何かすごく怒ってる?」
「歩ちゃん。ミルクは禁断の裏メニューなの」
「円ちゃん! そんな自慢は今はいいよッ!!」
そこに雑巾と箒、チリトリを持って駆けてくる店員。
「連続シフトだけど、これって頼りにされてるって事だよね!」
しかし、同時に荒くれ者達も集まってこようとしていた。
羅儀がすかさず席を立ち、店員に何かしようと手を伸ばした男の手を掴み、「はーい。彼女困ってるからねー」と明るく引き離す。勿論、警告的な力を込めて。
「お客さん、手切るから危ないわよ?」
「いやいや、貴方の綺麗な手を汚すよりは……って!?」
羅儀が店員の顔を見て、ズズズッと後退りする。
「どうしたの?」
顔をあげた店員は、『タフさのみ!』で二連続シフトぶっ通し数時間働いていたなななであった。
「(何で少尉がここに……)」
「あれ? その赤い髪の人と……そこのターバンの人……どこかで見た気がする……」
「気のせいだよ! な、なぁ、白竜?」
「……白竜?」
と、なななが反すうする。
「あ……」
思わず口を抑える羅儀。
コテンと白竜が顔をカウンターにぶつける。
「お……おい! どうした?」
羅儀が慌てて起こすと、そこには穏やかな顔で眠りにつく白竜がいた。
「あー、ゴメン! 相方が寝ちゃったから、もう帰るよ! マスター、お代は幾ら?」
上ずった声で羅儀が円を見る。
バーカウンター傍のレジを弾いていた円がレシートを見て、
「最後のサービスを入れて、1200Gです」
「……最後のは違うだろう?」
「じゃあオマケします」
割れたコップ代が自分持ちになった事を円は悔いる。
「悪いな。オイ、白竜、起きろ! って……こうなったら無理だよなっと」
と、羅儀が白竜を背負う。
「毎回すんごい迷惑なんだけど……じゃあな、マスター!」
「待ってよ。なななが今記憶を呼び起こしているところなのに!」
「(そんな長い間顔を会わせてなかった訳じゃないだろうが!!)……いや、それは」
だが、なななの脇では、円のDSペンギン達がなななから箒等を奪い、素早く清掃業務に取り掛かろうとしていた。
「あー、それはなななの仕事よ! 今度は『割れた食器やグラスを片付けるだけ』ってバイトなんだからぁぁ!!」
ななながそちらに気を取られている間に、白竜を背負った羅儀が店を足早に去っていく。
店の外を行く羅儀が、心地良い夜風に吹かれて、ふと背中で穏やかな寝顔をした白竜を見返る。
「白竜、結構あの店気に入ったのかな……素直に楽しく飲めばいいのに」
と、夜空に浮かぶ月の灯りの下を歩いて行く……が、急にその顔色が変わる。
「……て、待て! 帰りの足はあるとか言ってたけど、ひょっとしてオレの事? オイ! 白竜!! 起きろ!!」
「……流石にもう一杯は遠慮しておこう」
「馬鹿野郎! 夢の中でまで酒を飲んでるんじゃねえッ!!」
羅儀の叫びが荒野に響く。
一方、なななが割れたグラスを処理する間、カウンターにはエモノを狙うような目つき鋭い猛者達で溢れていた。目的は無論、ミルクを注文した人間探しである。
そして、そんな中、歩と円はカウンターの後ろに避難していた。
「どうして、こうなっちゃうのーー!!」
「歩ちゃん。イケメンをゲットするには困難が伴う。また一つ勉強したね?」
「ああ、あたしの王子様はどこなのよーーー!!」
歩の理想。白馬が似合う王子探しの旅はまだ続きそうである。
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