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リアクション
ルカ・アコーディング(るか・あこーでぃんぐ)は、本日のメインイベントのため董卓を蒼木屋まで送り届けるのが仕事であった。
メイド服姿のルカアコが乗った格安の自動車は、董卓の体重にサスペンションを凹ましながらも軽快にシャンバラ大荒野を駆けていたはずであった。
「女将もアルバイトだから経営者は別にいるはずね」と言ったルカルカのため、董卓の送迎前に、経営者に経営方針聞いておくのもルカアコの役目だった。最も経営者との対談は形式的なものに過ぎなかったので、ここでは割愛する。
「独楽鼠、独楽鼠ぃー」
と口ずさみながら、シャンバラ大荒野を格安の自動車でかっ飛ばしていたルカアコ達に異変が起きたのは、丁度お店まで残り少しに迫った時であった。
「あー、あそこの木の実、美味しそうだなぁ」
ふと自動車から外を見ていた董卓が、ルカアコに車を止めるよう要求する。
「董卓、もう少しで蒼木屋だから我慢して、ね?」
「……食べたい」
「ほら、もうちょっとでラードたっぷりのステーキとか、油野菜ニンニク辛めマシマシマシのラーメンとか食べられるからさ?」
「食べたい食べたい食べたい食べたい!!!!」
董卓がジタバタと暴れ、車が左右に蛇行する。
「うぁわわわッ!? ちょ、ちょっと董卓暴れないでぇぇ!?」
ほぼ自動車の車体と同じ体重を誇る董卓のジタバタ行為により、完全にコントロールを失う自動車。
そして、道を外れたルカアコの自動車は、そのまま崖下へと転落するのであった。
「うーん、このままじゃぁ、僕は餓死しちゃうよぉー」
「……董卓、それは絶対無いから安心して」
と、でっぷりとした董卓を見るルカアコ。
車内の時計が、とっくに846プロのライブの終了時間を示している。
「まいったなぁ……携帯電話を持ってくるべきだったわ」
と、ポケットから虹色のサイリウムを取り出し、溜息をつくルカアコ。
「出られないの?」
「車が逆立ちして変な罠にかかってるし、扉は落ちた時の衝撃で開かない」
「窓を割って出ようよ?」
「……董卓? ルカアコだけ出てもいいの?」
「どういうこと? 僕も出るよ?」
ルカアコが董卓の突き出たお腹を見て、もう一度、深い溜息をつく。
「うーーん、このままじゃ僕は本当に餓死しそうだね。せめて死ぬ前にもう一度ラードたっぷりの料理を食べたかったなぁ……あぁ、夢に見そうだよ」
「ま、何とかなるわよ……て、待って! 何か足音が聞こえる……これ、イコンの?」
「董卓! 助かりそうよ! ……て、何? その目は?」
「うわぁぁ、よく見たら君っておいしそうだよねぇー……ジュル」
「と……董卓?」
「その白い肌とか、あの伝説の食材、白い巨豚にそっくりだよー」
「……は? 豚?」
ルカアコの額に血管が浮かび上がる。
「いただきまーす!!」
「ちょッ!! 董卓!! あんた、たった3時間食べてないだけでしょうがぁぁ!!」
ズシーンッ、ズシーンッという足音が二人の乗る自動車を揺らす。
「馬鹿な!!」
猛が光学モニターに映った風景を見て愕然とする。
巨獣狩りのために前もって設置したトラップに、車がかかっていたからである。
「猛! あれはどういうこと?」
「こっちが聞きたいくらいだ……仕方ない、ルネ! 作戦を変更するぞ!! ビームキャノンで陽動をかけ、麻酔弾を込めたアサルトライフルで仕留める!!」
「了解です!!」
「淳二は陽動を頼む!」
「わかった。芽衣! やるぞ!!」
「人使いの荒い人らやで、ホンマに……」
手短な作戦会議の後、ネレイドがターンしてビームキャノンをパラミタマンモスに放つ。
勿論、威嚇であり、光線は巨獣の傍をかすめていく。
「ほらほら、こっちだよ!」
淳二のクェイルがパラミタマンモスの注意を引こうとする、が。
「パオォォォォォーーッ!!」
クェイルに見向きもせず、アサルトライフルを構えるネレイドを襲うパラミタマンモス。
「おまえ、頭いいな!」
淳二がそう感想を漏らす中、照準を定めたルネがアサルトライフルを放つ。
―――ドンッ!!
短い音が荒野に響く。
「パオォォォォォーーッ!!」
「しまった! 外れました!!」
「ルネ!! 来るぞ!! 回避しろ!!」
「!?」
パラミタマンモスの突進を受けたネレイドが尻餅をつく。
「パオォーッ!!」
吠えたパラミタマンモスが前足を振り上げ、倒れたネレイドを踏みつける。
―――ドゴォォォ!!!
「ぐっ……」
「きゃあッ!!」
モニターに映るパラミタマンモスの怒りの瞳。
―――ドンッ!!
再び、短い発射音が荒野に響く。
「猛さん」
「ああ、間に合ったな……助かったよ、淳二」
ネレイドが落としたアサルトライフルを拾った淳二のクェイルが、至近距離でパラミタマンモスへと撃ち込んだのである。
―――ズズゥゥゥゥーーンッ
即効性の麻酔が効いたため、パラミタマンモスが倒れていく。
「はぁはぁ……本当、武装はちゃんとつけておくべきだったよ」
ふぅーと淳二が額の汗を拭う。
「せやね……ところで、あの車、一体何やろうか? ん? 今、光ったで!?」
芽衣が虹色のサイリウムを振るルカアコと董卓の乗った車を見つめる。
この後、二人は淳二と猛により救出された。
余談であるが、ルカアコは救出時にこう漏らしたそうである。
「危ないところだったわ……もう少しで、取り返しのつかない事をしそうだったの」と。