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冒険者の酒場ライフ

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冒険者の酒場ライフ

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 3番と書かれた料理が董卓の前に運ばれてくる。
ポークソテーか……至ってシンプルだね」
 董卓の感想にあるように、卑弥呼の料理は、鉄板にポークソテー、付け合せにジャガイモ、人参という極々普通のファミレスで目にするようなものであった。
「ふむ……味付けは多様だね。塩胡椒系、デミグラソース系、香草にメープルシロップやコンデンスミルクを併せたもの……か」
 董卓は器用にナイフとフォークを使い、肉を切り分ける。切り分けると言っても分厚い肉を半分にしただけである。彼にとってはポークソテーなど二口でペロリなのだ。
「じゃあ、まずは塩胡椒で……あむっ」
 モグモグモグ……。
 菊と卑弥呼が祈るような目で董卓を見つめる。
―――カランッ
 董卓の持っていたナイフとフォークが落ちる。
「え……」
 卑弥呼が小さな悲鳴をあげる。
 ワナワナというか、プルプルと震えた董卓が椅子から立ち上がる。
 そして、ポークソテーの皿を持ち上げ、
「この料理を作ったのは誰だぁぁぁぁ!!!」
「ひ、ヒィッ!!」
 そのプレッシャーだけで、押しつぶされそうなオーラが董卓の体から滲み出る。
「あの……董卓? 落ち着いて……?」
 ルカアコが直ぐ様董卓の元へ止めに入るが、董卓は「女将を呼べぇぇ!!」とノシノシと歩いていく。
「いや……だから、それを今決めているところなんだけど」
 ルカルカも突っ込むが、暴走の肉弾頭と化した董卓の突進は止まらず、調理場で待つ女将候補者達の元へ行く。
 ポークソテーの皿を持ち、現れた董卓に、卑弥呼の顔が強張る。
「これを作ったのは、誰?」
 菊が卑弥呼を見るより早く、卑弥呼が一歩踏み出す。
「あたいだよ!」
「ほう……」
 董卓の眼光が卑弥呼を捉える。
「この料理……他の2品とは決定的に違うね! 僕はそのズルさに腹を立てたんだ」
「え……」
「料理としてはとても美味しい。でも、君は……」
と、卑弥呼の前にやってきた董卓が顔を覗き込む。
「食材に、あの幻の巨獣『白い巨豚』を使った! これがズルい一つの理由だよ」
「はい……」
 菊が反論しようと口を開くより早く、董卓が続ける。
「もう一つのズルい理由。君はわかるかい?」
「え……いいや、あたいには……」
「他の候補者達も、僕のためを思って心を込めて料理を作ってくれたんだ。だけど、君は……」
と、董卓が卑弥呼の手を取る。
「君は……君だけは、この僕に愛を込めて料理を作ってくれた。それがもう一つのズルさだよ」
「なっ……」
 卑弥呼の顔が真っ赤に染まっていく。
「料理は人の心そのものだ。あんな素敵な料理を作る君に愛を告げられたら、僕は君以外選べなくなっちゃったじゃないか……」
「……それって……まさか?」
と、菊が董卓に尋ねる。
 董卓が卑弥呼の腕を上げ、宣言する。
「この酒場の女将は、親魏倭王 卑弥呼だ!!」
「「「おおおおおおぉぉぉぉ!!!」」」

「嘘……嘘でしょう?」
 卑弥呼がポロポロと涙をこぼす。
「嘘なんかじゃねぇよ! 卑弥呼。あんたが女将で、ここが『卑弥呼の酒場』ってなるんだ」
「菊……おまえ、ありがとう!!」
 菊と卑弥呼が抱きあうのを、麻羅と緋雨、菊とローザマリア、そして董卓に大勢の観衆が拍手で祝福する。
「うんうん……でもあのポークソテー、本当に美味かったよ。中でも、一番気に入ったのはラードを肉の上にまでかけていることだったんだよ」
 董卓の言葉に首を傾げる菊と卑弥呼。
「ラードを上に……?」
「知らないぞ、そんなのは?」


 女将誕生で盛り上がる店内から、ルカルカとルカアコは裏の事務所に退避していた。
「アコ、色々ご苦労様」
「本当! 大変だったんだから!!」
 拗ねたようにプンとするルカアコにルカルカが苦笑する。
「あれ、ルカ? 何か落ちたよ?」
と、ルカアコが書類を拾い上げる。
 それは『極秘』と赤い判子が押された書類であった。
その内容は、
『女将選出への意見:
料理も大切だが料理以外の要素も大切
・やる気
・経営方針との合致
・大荒野だから、パラ実に顔が利きトラブルを度量で収められる者
(四天王や生徒会長。ただし風紀委員は交戦国である帝国の尖兵なので不適格)
・繊細な地域なので、常勤可能な者(マホロバ等他国の役職がない者)
・営業的意味で名士(例:ロイヤルガード)』


 目を通したルカアコがルカルカを見る。
「なるほどネ……卑弥呼でぴったりだったわけか!」
「ええ。菊とローザマリア、麻羅と緋雨じゃあどちらも帯に短し襷に長しって感じだったから。あ、その書類貰える?」
と、ルカアコから渡された書類をシュレッダーへ放り込むルカルカ。
「……ルカ? まさか、最後の卑弥呼の料理にラードを塗ったのって……」
 ルカアコが聞こうとするが、ルカルカは一本立てた人差し指を唇の前にかざし、ウインクするのみであった。