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ルペルカリア盛夏祭 ユノの催涙雨

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ルペルカリア盛夏祭 ユノの催涙雨
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雨では流せない


 本格的に降り始めた雨に、庭園の散策を楽しんでいたカップル達は、手を取り合い急いで屋根の下を求める。
 けれど、二人は濡れるままにその場を動こうとしなかった。
 彼らの表情は沈鬱で、まるで今の空模様を映したようだ。
 どちらも普段着姿のところを見ると、デートしに来たというよりはふつうに散歩に来ただけなのかもしれない。
 もっとも、二人を取り巻く空気はそんな呑気なものではないが。
「ねぇ、どうなの?」
 純白の杖を見せ付けるように突きつけ、パートナーを鋭く問う皆川 陽(みなかわ・よう)
 問われたテディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)は、答えようとして、しかしまとまらない思考に口を閉ざす。
 それを陽は質問への肯定と受け取った。
「……やっぱり、キミはボクを下に見てるんだね。自分より弱いって思ってるんだ。だから、二言目には『守る守る』って言うんだ。そういうのって……」
「それは違う。陽を下に見てるなんて、それは誤解だよ」
 自分を拒絶する杖に悲しくなりながら、テディは気持ちをわかってもらおうと必死に言葉を紡ぐ。
「陽も知ってる通り、僕は騎士だ。騎士の家に生まれて、騎士となるべく育てられ、古王国で騎士として戦って、騎士として死んだ。騎士であることが僕の一部だし、僕であるということは騎士であるということだ。そして、今世の主君は陽だ」
 だから、陽に永遠の忠誠を誓った。
 それなのに、目の前の彼はテディの気持ちを理解してくれるどころか、ますます表情に憂いを増していく。
 出てきたのは、失望のため息。
 陽は皮肉と自嘲の笑みを浮かべた。
「人とまともに話しもできないボクのことをかばって、何でも代わりにやるのはさぞ気分が良かっただろうね。……騎士っていうのは、自分より弱いお人形を欲しがるものなのかな」
「陽、僕の話しをちゃんと」
「聞いてるよっ」
 陽の悲痛な叫びに、テディはたじろぐ。
「ボクはイエニチェリに選ばれて、頑張って魔法の勉強もしたんだ。この杖がその証だ。それでもキミはボクを守ると繰り返す。何度も何度も呪いのように! ボクを主と立てながら、結局は見下しているんだ! ──ボクは、守られていればいいだけのお姫様じゃない」
 降り注ぐ雨よりも冷たい陽の言葉に、テディはただ目を見開いて凍りつくことしかできなかった。
 契約し忠誠を誓った相手は臆病な子供だった。安全な日本からシャンバラに来てからは、劇的な環境の変化に慣れなかったためか、いつも何かに怯えたような顔をしていた。
 そんな彼に、笑ってほしくて。
 陽が何も心配しなくてすむように、ひたすら修行に打ち込んだ。
 どんな危険からも守れるように、鍛錬に明け暮れた。
 すべては陽の、心の平穏のために。
 なのに、それは必要ないと言う。
 それはつまり、陽にとってテディはもういらないということ──?
 そんなはずはない、と主の目を見つめて真意を探ろうとするが、そうすればするほど、己への否定の意志ばかりが見えて、ついにテディは目を伏せた。
 もう、自分の役目は終わってしまったのだろうかと思う。
 陽の目は、守る人など必要ない、自分を認めろと叫んでいる。
 それなら、騎士としての生き方しか知らない自分にできるのは、己を殺して沈黙のまま仕えることだけか。
(いや、それでも見下していると言うかもしれないな……)
 それなら、どうすればいいのか。
 いらないと言われても、テディには陽しかないのに。
「……主君になってくれる人なら、誰でもよかったわけじゃない。パートナーだから守りたいというのも、一番の理由じゃない。陽だから、守りたかったんだ」
 搾りだすに胸の想いを告げるテディだったが、陽の瞳は冷えたままだ。
 テディは伏せていた目を上げると、陽としっかり目を合わせて決意を言った。
 ともすれば弱気になり声が小さくならないように、強くなった雨にかき消されないように。
「もし、僕の武器は心にしまって陽の盾になるなら、騎士の誓いも破らず、恋人として接してくれる?」
 これが今のテディの精一杯だった。