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リアクション
「ラムネをくださいな。とりあえず1ケース」
そう言って入ってきたのは千鶴 秋澪(ちづる・あきれい)。それに合わせたかのように、パートナーのリファ・ロレイラー(りふぁ・ろれいらー)はアイスクリームを食べまくる。
ただしもう1人のパートナーの天屋 涼二(あまや・りょうじ)は、そんな2人を呆れつつ、ちまちま駄菓子を食べていた。
彼らとほぼ同時に入ってきたのが冴弥 永夜(さえわたり・とおや)とメルキオテ・サイクス(めるきおて・さいくす)。
冴弥永夜は「おばちゃーん、アイスを買うよー、とにかくたくさん」と言ったかと思うと、次々に食べ始めた。メルキオテは、そんな永夜を眺めつつ、駄菓子に手を伸ばしている。
千鶴秋澪、リファ・ロレイラー、冴弥永夜の3人の内、最初に脱落したのが、リファ・ロレイラーだった。
突然アイスを持っていた手が止まったかと思うと、ガタガタ震えだす。天屋涼二がホットミルクを頼む始末だった。
ただし千鶴秋澪と冴弥永夜の手は一向に止まる気配が無かった。もちろんラムネをアイスクリームでペースこそ異なるものの、2人とも同じペースで食べ・飲み続けている。そして一体どこに入っているのかと思うくらい、体型が変わらなかった。
「おぬしのマスターか、凄いな」
「いやいや、そっちの方だって」
1時間、2時間を過ぎてもペースを緩めず食べ・飲み続ける2人だったが、同時にその手が止まる来た。ただし限界が来たからではなかった。
「へぇ、そうかい。盆踊り大会の賞品は、ラムネとアイスクリーム1年分なんだねぇ」
大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)が自腹で賞品を購入しに来たのが、彼らの耳に入った。
「帰るぞ」
「帰ります」
2人はほぼ同時に席を立つ。それぞれのパートナー達も、急いで追っかけた。
帰宅の後、2人が盆踊りの特訓を始めたのは言うまでも無かった。
2人の健啖家の背中を眺めつつ、ミーナ達は普通のラムネをそろって手にしていた。
「いただきまーす!」
すんなり飲めたのはミーナと恵美と胡桃。フランカは間のガラス玉に手こずっていた。
「これはこっちのくびれを使うと良いんですよ」
ミーナがコツを教えると、フランカも美味しく飲み干した。
「さっきのもおいしかったけど、普通のも良いね」
ミーナの言葉に3人がうなずく。飲んでしまうと気になるのが、中に入ったガラス玉。フランカや胡桃の小さな指でも取り出すのは不可能。
「ガラス玉の方が、ビンの口より大きいもんね。割っちゃおか」
「おっと、そいつぁー、聞き捨てならねぇな」
いなせな格好のエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が立っていた。
「ガラス玉が欲しいのはわかるが、そのビンはもう新しく作ってない貴重なものなんだ。割っちゃまったら、それっきりなんだよ」
最初こそ口上口調だったものの、最後は優しく諭すように変わっている。
「そうなんですね。ごめんなさい」
「いやいや、分かってくれれば良いのさ。ここにはビー球もあるから。そっちを買ったらどうだい?」
「はーい」
七瀬 歩(ななせ・あゆむ)はレティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)とミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)と一緒に、球場で売り子を務めている。
ラムネもアイスクリームも売り上げは順調で、3人は休む間もないくらいに働いた。
「ふぅ、汗だくですぅ」
「あたしも汗びっしょり」
「レティも七瀬さんも、ひと休みしてください。ちゃんと水分を取らないと、熱中症で倒れちゃいますよ」
そんなミスティも2人と変わらないくらいに働いている。
「じゃあ3人で」と“休憩中”の張り紙を出して、裏に引っ込んだ。
「これ、あたしからってことで」
七瀬がラムネを2人に差し出す。
「じゃあ、こっちはあたしが持ちますねぇ」
レティシアがアイスクリームを七瀬とミスティに渡した。
「私だけ貰ってばかりでごめんなさい」
すまなそうにするミスティだったが、七瀬とレティシアの活躍も、ミスティあってのこととして納得させられた。
「働いたせいかなぁ。普通のラムネとアイスなのにー、一段とおいしく思えるよぉ」
七瀬もミスティも「ウンウン」と首を振る。
「そろそろ再開しましょうか。蒼空学園で盆踊りが開催されるそうです。それも宣伝していきましょう」
ミスティに促されて、七瀬とレティシアが腰を上げる。
「誰かが企画したんだろうねぇ。そんな考えもあったのかぁ」
「売りながら盆踊りと駄菓子屋さんの宣伝もすれば、一石三鳥ですよね。頑張りましょう!」
そして「ラムネいかがですかー!」の元気な声が、また球場で聞こえるようになった。
公園では東條 カガチ(とうじょう・かがち)と椎名 真(しいな・まこと)の引っ張る謎のアイス屋台が好調に売り上げを伸ばしていた。特に女性客が多い。
「ママー、アレかってー」と子供がきっかけになるが、「仕方ないわねぇ」と母親が近づいてくる。そこで東條カガチと椎名真が笑顔を見せると、母親の財布の紐が緩んだ。
「子供と2つずつ。お土産にも、もうちょっともらおうかしら」
「ありがとうございまーす」
ラムネとアイスの袋を抱えて帰っていく。
「なんでこうも売れるんだ?」
戸惑う椎名真に東條カガチが自信たっぷりに答える。
「言ったよねぇ、椎名くんの笑顔には、それだけの魅力があるんだ、ってー」
童顔ながら体格の良さを気になっていたが、それはここではアピールポイントになっている。子供や母親に警戒されにくく、それでいて頼りがいのありそうな雰囲気。売り子としては高ポイントだった。
そう語るカガチの方にも、端正な顔立ちに引かれて女性客 ── やはりお母さん方 ── が後を絶たない。カガチはそれを最大限に利用して、笑顔を見せたりお釣りをそっと手渡したりしていた。
「そんなものか……あ、のどを潤すラムネ、冷えてますよー! アイスも懐かしい味、いかかですかー!」
しかし公園の反対側では、もう一つの母親集団が形成されていた。核となったのは佐野 和輝(さの・かずき)達だった。
小型飛空挺にラムネとアイスクリームを乗せて公園に運び込んだのは他と同じ。好青年を装った売り方でそこそこ売れていたものの、ひと休みした際の和輝の自分語りが、更に母親達の心を揺さぶった。
「あの頃の俺は外面は良かったけど、年齢に不釣り合いなほど腹に一物抱えた人間で……」
いつの間にか、和輝の周りには母親と思わしき女性達が集まっている。そんな彼女達にアニス・パラス(あにす・ぱらす)とスノー・クライム(すのー・くらいむ)はラムネとアイスクリームを販売していた。
「そう言えば和輝と最初に会ったの公園だったね」
アニスがどこか遠い目をする。
「嫌な思い出が多かったけど、和輝と出会った思い出だけは良い思い出だよ」
「私だって……」
スノーも和輝のことを思うと胸が熱くなる。最初は『守らなければ』の義務感が強まったものと思っていたが、そうでないことは明確に自覚していた。
── 考えてみれば、子供を除けばこの近辺にいる男性って和輝だけですわ ──
和輝が一人語りが終えて顔を上げると、大勢の母親が彼を取り囲んでいた。
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