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リアクション
第二章 おまけで売り込め
駄菓子屋を訪れた佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)は、店横の駐車場に積まれたコンテナを見上げる。
「電気代だってさー、馬鹿にならないだろうねぇ」
「もんじゃを食べて味の研究をする……どころじゃないみたい」
パートナーの真名美・西園寺(まなみ・さいおんじ)も同じように上を向く。フィン・マックミラン(ふぃん・まっくみらん)は、『中にいっぱい入ってるの?』とばかりに、コンテナを軽く叩いた。
「とりあえず入ろうよ。見てても仕方ないし」
西園寺にうながされて店内に入る。掲示板を見たのか、噂が広まったのか、駄菓子屋には客が集まりつつあった。
「この調子なら売り切ることができるかもしれないなぁ。数年かかるかも知れないけどさぁ」
「いらっしゃい。私の死ぬ前に売れれば良いよ」
駄菓子屋の店主である村木お婆ちゃんが出迎える。
「山葉君から聞いたみたいで、お手伝いを申し出てくれた学生さんも来てくれたし、なんとかなりそうだよ」
「あー、そうなんですねぇ」
3人はもんじゃを注文する。フィンはちょっとでも飲んで減らそうと思ったのか、お小遣いでラムネを5本も頼む。
「ワタシの屋台でも限定カクテルとかで使えそうだけどー、この量は厳しいかなぁ」
「手伝いがあったとしても、これだけの量を一本一本売るのは、祭りとか無い限り難しいよね。セット販売なら何とかなるかも」
西園寺と弥十郎で、もんじゃの焼け具合を確かめながら考える。
「セットにして、値引きってのはありがちだなぁ。おまけでもつけようかー」
「おまけ? ラムネ10本で駄菓子をプレゼント……とか?」
「うーん、店の出費になっちゃうよねぇ」
2人が話し合うそばで、フィンはもんじゃを食べながら、ラムネをクピクピと飲んでいる。2本目までは勢いが良かったが、3本目となるとペースが落ち始める。
「話題になってー、皆が欲しがってー、お金のかからないものがあれば良いんだけどねぇ」
パタンと倒れこむ音がする。弥十郎と西園寺が見ると、満腹したフィンが仰向けになって「ふぅふぅ」言っていた。3人分のもんじゃは、すっかり無くなっており、ラムネの瓶が5本とも空になっている。
「頑張ったねぇ。とりあえず、お腹が納まるまで、そこでゆっくりしておいでー」
苦笑いしながらも、弥十郎がフィンのお腹を撫でる。
「本当になんとかしないとね。このままじゃ、フィンが毎日でも同じことをしそうだもん」
追加のもんじゃを口に運びながら、いろいろ案を出し合う。多少の手間はかかるが、各校の校長の写真や一言を添えては、との案がまとまった。
「ファンが多そうですしー、これなら売れそうですねぇ」
「限定販売にして、あおるってのもあるかも。どの校長が売れるか、売り上げを競わせても面白いかな」
「山葉さんを始めとして、各校長への許可などは、ワタシが根回ししておきましょうねぇ」
「じゃあ、私が売り上げサイトの立ち上げなんかをやってみるね」
大まかな案をまとめて帰ろうとする。そこでフィンの寝息に気がついた。シャツの裾がめくれ上がり、呼吸に合わせておへそが出たり隠れたりしている。
弥十郎と西園寺は顔を見合わせると、再び苦笑いした。
駄菓子屋の横では、売り手を申し出た生徒達がそれぞれ荷造りや出張店舗の準備を行っている。
「こんなに大丈夫かい?」
「平気、平気」
村木お婆ちゃんが心配そうに見つめる中、小型飛空挺にクーラーボックスを積み込んでいるのが小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)。開催準備が行われている万博会場で、ラムネとアイスクリームを売る計画を立てている。これで3回目の往復だった。
こちらも小型飛空挺にクーラーボックスを積み込んでいるのが、セルマ・アリス(せるま・ありす)とミリィ・アメアラ(みりぃ・あめあら)。ただし美羽とは異なり、小型飛空挺で売りまわる計画。
「無理しないで良いからね」
今朝から何十回ともなく、同じ言葉を言う村木お婆ちゃん。
しかしセルマもミリィも、他の生徒と同様「任せて」と答えた。
「ラムネとアイスを売りながら、ここの宣伝もしてくるよ。効果があれば客がたくさん来るかもな」
「その時はお婆ちゃんこそ無理しないでね」
セルマとミリィは手を振って飛び出していった。
「どこか変わった屋台だねぇ」
東條 カガチ(とうじょう・かがち)と椎名 真(しいな・まこと)が準備する屋台では、氷を詰め込む真っ最中。
「普段は別のことに使ってるんですよー。でもこうすればラムネもアイスも大丈夫ですからねぇ」
「やっぱり山葉さんから頼まれたの?」
「それもあるかなぁ、でも俺」と東條カガチは小声で「駄菓子屋ファンですからぁ」
用意が終わると、2人は屋台を引っ張って行った。
「下調べはしておいた。地図にチェックしてあるよ」
「とりあえずは公園だなぁ、夕方は駅前にまわってみようかぁ」
「あなたはリヤカーなの?」
セシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)は格好こそ涼しそうにしていたが、引いて行くのはリヤカーでは、ほぼ帳消しになっている。
「はい、これで販売と宣伝を行って参りますわ」
「あんまり無理しないでね。お店で売ってくれても良いんだよ」
「実は……」と村木お婆ちゃんの耳元でささやく。
「キャンペーンガールみたいなことをしてみたかったんです」
それを聞いた村木お婆ちゃんの心配そうな表情が変わる。
「それなら良いけど、休みはしっかりと取るんだよ」
「はーい、行って参りまーす」
桜葉 忍(さくらば・しのぶ)はミルクソーダ・メロン味を、織田 信長(おだ・のぶなが)はドロリンクを売り出していた。もちろんどちらもラムネをベースにしたオリジナルドリンクです。
忍は信長が掲示板の張り紙を見て以来、いろいろ試みていたのを思い出す。
「少し聞きたいんだけど、信長は一体どんなドリンクを作る気なんだ?」
「そうじゃな〜、私は誰よりもすごーいドリンクを作るつもりじゃ」
それを聞いた忍は、信長1人で行かせてはまずいと思い、自らも参加することに決めた。それを自分への対抗と見た信長に、「忍よ、お前の作った物より美味い飲み物を作ってやるからな!」と言われてしまったが。
サラリと「そうか、まあ無茶をしないように頑張れよ」と流した。
そして作り上げたのがミルクソーダ・メロン味である。
手持ちの材料を生かして、ヤギのミルクを使用。メロンを使おうと思ったが、メロンがなかったために、レインボージュースからメロン味を抽出した。
オレンジ味やストロベリー味なども作ろうと思ったが、まずはメロンのみにとどめておいた。
朝からの売れ行きはまぁまぁだった。普通のラムネを飲み飽きた購買層に人気があった。
「ひとつくださいますかぁ」
アイスクリーム目当てのノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)に連れられた、神代 明日香(かみしろ・あすか)が注文した。
「はい、どうぞ」
一口二口飲んで「おいしい」と感想を口にする。
「そうでしょう」
忍は嬉しそうにうなずいた。
「そちらは何ですの?」
「ああ、これはなんでもないんです。まぁ飾りみたいなもので」
信長がいないことを幸いに、ドロリンクが売れそうになるのをことごとく阻止してきた。そのために、ほとんど売れなかった。
しかし忍が被害者を減らすためにはそれが限界だった。店頭に並べられたドロリンクを恨めしそうに眺める。こうなっては被害者が1人でも少なくなるように願うよりなかった。
明日香は普通のラムネも注文したが、アイスクリームに夢中なノルニルは、全く関心がわかなかった。ラムネの飲み方などを説明しても、他の子供が食べているアイスクリームに視線が行ってしまう。
返事が上の空でしか返ってこないのを見て、仕方なく明日香は2本目のアイスを買った。
すぐに食べ終えて「明日香さん、もう一本良いですか?」と目を輝かせる。
「3本までですよ。それ以上は、お腹痛くなっちゃいますのでダメです」
などと諭しながらも、明日香はお土産に1本だけ買っていった。
蒼空学園の校長室では、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)がポーズを決める山葉涼司と花音・アームルートにカメラを向けていた。カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)は上から、夏侯 淵(かこう・えん)は下からレフ板を支えている。
「はーい、涼司ー、ラムネを持ってー」
シャッターを切る。
「花音さんはアイスを咥えてー」
再びシャッターを切る。
「笑って笑って、いいよいいよー、花音さん可愛いよ〜♪」
涼司の10倍ものシャッター数が室内に響く。
ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は特設サイトの作製に熱がこもっていた。
「ああっ、拭いちゃダメ! その溶けかかったところ、頂くよ〜♪」
一段と早くシャッター音が重なった。
そこに校長室の扉を開けて入ってきたのは、佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)達。
「お待たせー、これで他の学校の分は揃ったよぉ」
データの入ったメモリーをダリルに渡す。すぐに写真と座右の銘を加工したダリルは、さらにシリアルナンバーを付け加えて印刷の準備をする。
「涼司と花音さんもこれでOK!」
ダリルが最後の加工を行った。各校長とパートナーの写真が仕上がる。
「やっぱりこれを使うんですか?」
花音が少し恥ずかしそうに写真を見る。半開きの口に溶けかかったアイスクリームが、なんともなまめかしい。
「こう言うのが“そそる”んだって、ダリルや弥十郎も、そう思うだろ?」
ダリルはチラと視線を移したものの、何も答えず作業に戻る。佐々木弥十郎は「まぁ、そうかもねぇ」と苦笑いした。
「ま、村木お婆ちゃんのためなんだしさ」
その名前がでると、花音も承知せざるを得なかった。
「じゃあ、こっちは3人で売りに出るとしようか。ダリルは司令塔を頼む。ネットでも、あおってあおってあおりまくってよ」
「了解だ」
「弥十郎達はどうするの?」
「ワタシは自分の屋台で使おうかなぁ。フィンにも手伝ってもらうけど、西園寺はどうするぅ?」
「私はダリルさんと通販を強化しようと思ってるんだけど。どの校長が人気になるのか興味あるんだよね」
ダリルは「了解した」とうなずいた。
ルカルカ達と弥十郎達は、すぐに校長室を出て行った。残された4人は自然とダリルの向かうパソコンの前に集まる。
「最初の注文が入ってきたぞ」
西園寺が、そして山葉も花音も「どれどれ?」と覗き込む。
「花音セット1ケース、……あっ、また花音セットだ」
「私?」
「やはり写真の効果かな」
西園寺の言葉に、花音は小さくため息をついた。
鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)とパートナー達は2人ずつに分かれて、出張販売を行っていた。
一組目は貴仁と常闇 夜月(とこやみ・よづき)。早々と公園を本拠地に定めて、ラムネとアイスクリームを売り歩いた。
── 貴仁様が自ら人様のお手伝いを買って出るとは……少しはまともになったんでしょうか? ──
などと夜月が考えていると、目の前にラムネが突き出される。
「これは?」
「んー、夜月が飲みたそうにしてたから。違った?」
「違いませんけど、商品に手を出すのはいけません。それに今は仕事中です! 真面目に売らないと」
怒りかける夜月をよそに、貴仁がシュポンと栓を開ける。
「貴仁様、何勝手に開けてるんですか?」
「ああ、俺が買い取ったから」
「わたくしに……ですか? 大変嬉しいのですが、わたくし初めてなんですけれども……」
貴仁がビンの中を指差す。
「こっちの窪みにガラス玉を引っ掛けるんだ。そうすれば上手く飲めるから」
説明されたようにビンの向きを変えて口をつける。夜月の唇から喉にかけて清涼感が通り抜けた。
「どう?」
「…………クフッ」
感想を言おうとして、不意にしゃっくりがこみあがる。とっさに口を押さえたが、それくらいで収まるものでもなかった。そんな夜月を見て笑う貴仁。
「笑うなんて……ケフッ」
またもしゃっくりで上手く話せない。そんな2人だけの時間が過ぎていった。
鬼龍 白羽(きりゅう・しらは)と医心方 房内(いしんぼう・ぼうない)はあちこちを売りまわっていた。
白羽は「エロ本(医心方房内)と一緒かぁ」と思ったけれども、売りまわるのなら構わないかと同意した。
そして行き先が水辺と決まる。プールや海や川に出かけて、ラムネとアイスクリームを売りまわった。
「ああん、こぼしちゃったー」
医心方房内、実年齢1036歳。普段の老人口調はどこに行ったのか。外見そのままに幼い口調に切り替わる。
「ああん、こぼしちゃったー(いくらか棒読み)」
白羽もマネをする。それに目を付けた男達や、こっそり写真を撮ろうとした者達に、容赦なく売りつけて行く。強引な手法ではあったが、瞬く間に売り上げは伸びていった。
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