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リアクション
ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)を司令塔として、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)、カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)、夏侯 淵(かこう・えん)はエアカーで売りに回っていた。
「あつ〜い夏。ひんやりラムネにアイスはいかが? 懐かしい駄菓子は本日限りの限定移動販売。駄菓子のMURAKIが只今お近くに参りまーす」
オリジナルの塗装を施したエアカーで、ダリルの分析を元にした指示を受けて動き回る。
ルカルカはおまけの写真をアピール、カルキノスはドラゴニュートの体躯を生かして客を呼び、夏侯淵は普段は文句タラタラの女の子の格好で売り子を務めている。
「一緒にセイカチョコもどうだ? 冷蔵庫で冷やすのもいいし、浅いグラスでラムネに沈めても美味いぞ」
「可愛い!」と歓声が上がる中、『これも馬舎のためだ』と懸命に笑顔を崩さない。
駄菓子屋の話を聞いて、4人が協力することはすぐに一致した。しかし目的は大きくことなる。
「涼司の頼みとあれば、一肌も二肌も脱ぐわよ」と、どんとこいで参加を決めたルカ。
「竜族に親しみを持ってもらいたいものだ」と、志を持って賛同したカルキノス。
「モニター相手ばかりではつまらんな。たまには実践もよかろう」と、経済学の一環で協力を惜しまないダリル。
「でも俺は馬舎なんだよなー」
購入予定の軍馬のために、馬舎を作ってもらう約束をした。
「そのためなら、ウサギエプロンの一つや二つ……嫌だけど」
「お嬢ちゃん、アイスいただける?」
「はーい、ただいまー」
愛想良く応対した。
「ルカ、予定していたオフィス街は変更だ」
「何で?」
「似たような出張販売店がいくつもあるらしい。考えることは同じなのだろう」
「あー、そうか。ルカ達の他にも、お手伝いに来た人がいたよね。で、どうするの? 野球場にでも行ってみる?」
「いや、そこも別口が入っているとの情報がある。ここは三手に分かれよう。ルカは空京大学。カルキノスは子供の多い公園に行ってくれ。淵は繁華街を順次移動だ」
ダリルの指示に従って、3台のエアカーが動いた。
セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)とセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は、駄菓子屋横に積みあがったコンテナを見上げる。
「ここまでの物とはね。これが全部ラムネとアイスだと思うと、ちょっとブルッと来るね」
「とりあえず入りましょ。少しでも買えばお婆ちゃんも助かるわよ」
ラムネとアイスを2つずつ買うと、店先に腰掛けて食べ始める。
「駄菓子屋の夏って、やっぱラムネとアイスクリームよねー」
「そうね」
「ねぇ……」
「良いけど、お手伝いするなら、最後まできちんとやるのよ」
「あたし、何も言ってないんだけど」
「言わなくてもわかるわよ。このくらい」
「さっすが、キスしちゃう!」
「やめなさいよ、子供達が見てるでしょ」
唇を寄せてきたセレンフィリティを、セレアナはグイッと押しのける。
「えっ! 人が見てないトコなら何をしても良いの? セレアナ・ミキアスって、そんな人だったんだ。あたし勘違いしてた!」
「意味が変わってるじゃない。寸劇でも始めるつもり? ならトコトン付き合ってあげても良いわよ」
「トコトン“突き”合うなんて…………エッチ」
「私、先帰るね」
セレンフィリティが平謝りに謝って駄菓子屋の手伝いを決める。どこからかセレンフィリティが調達してきた軽トラックをそれなりに飾り立てて、空京の町を行商に出た。
「ここね」
森田 美奈子(もりた・みなこ)とコルネリア・バンデグリフト(こるねりあ・ばんでぐりふと)が駄菓子屋にたどり着く。
── 天国のお父様お母様 美奈子です 本日は、庶民の生活を知りたいとおっしゃる向学心旺盛なコルネリアお嬢様のお供をして、ツァンダの駄菓子屋に来ております ──
「正直、どうでも良いんだけどね」
「美奈子、どうしたんですの? 早く行きますわよ」
「はい、コルネリアお嬢様」
美奈子にとっては既知のことでも、コルネリアにとっては刺激が一杯だ。
「駄菓子屋はリーズナブルを売りにする菓子店と認識していたのですが、パンとか焼き物とかまで売っているのはどういうことでしょう。もしや、庶民ではパンもお菓子の一種?」
大量のラムネとアイスクリームを見つける。美奈子が「店主の村木お婆ちゃんが引き受けてしまったんだとか」と耳うちする。
「この大量のラムネとアイスクリーム……私が思うに、これだけの在庫を掃くには、少し値引きした上で、新聞に折り込み広告を入れるのがよいのではないでしょうか?」
「新聞に折り込み広告とは、さすがコルネリアお嬢様です。ですが、駄菓子屋の折り込み広告というのは、私の15年の人生において一度も御目にかかったことがございません。おそらく売り上げより広告代の方が高くつくからだと愚考する次第です」
「確かにそうですわね。でもまずは品質を調べてみましょう。よい物は売れますし、リピーターも期待できますもの」
これも経験とコルネリア自らが買いに行き、美奈子が座席 ── 長椅子を確保した。
「なんということでしょう! このラムネという商品、不良品ですわ。途中にガラス球が詰まっていて中身が出てきません!」
不思議がるコルネリアだったが、村木お婆ちゃんがガラス玉を押すと、プシュッと音がして泡が噴き出した。
「悪くない味ですわ。シンプルだけど、飽きない味です。これはお父様に頼んで引き取ってもらえば早いのでは?」
コルネリアの提案を村木婆ちゃんは丁寧に断った。
「気持ちはありがたいけど、学生さん達も手伝ってくれてるし、なんとかなりそうだよ」
「では、私にできることはありませんか?」
「そうだね、ちょくちょく寄って遊びに来てくれれば十分さ」
「お任せください。これから週3回は通わせていただきますわ」
コルネリアが悩みの種の胸をポンと叩く。
「そう言うものでもないんだけどねぇ」
村木お婆ちゃんと美奈子は苦笑いした。
キャロ・スウェット(きゃろ・すうぇっと)の「ひまわりの種味のラムネがあるといいのー♪」の言葉には龍滅鬼 廉(りゅうめき・れん)も陳宮 公台(ちんきゅう・こうだい)も困っていた。
廉は「さすがにそんな味のラムネはないと思うが」、陳宮は「キャロ殿が作ればあるかもしれませんな」と答える。
駄菓子屋に付くと、積み上げたコンテナが3人の目に飛び込んできた。
「これは?」
物陰に腰掛けて休んでいたエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)に事情を聞く。
「俺も手伝おうと来てるのさ」
「じゃあ、ボクも手伝うー」
キャロが手を挙げると、廉と陳宮も手伝うことにした。
「あら、あなた達も、本当にすまないねぇ」
申し出を聞いた村木お婆ちゃんが客の相手を終えて出てくる。
「ああ、俺達で良ければ手伝うぞ」
「人手は多い方が宜しいでしょう」
「お婆ちゃんの役に立てるよう、頑張るのー!」
当初は駄菓子屋近辺で呼びかけをしていたが、より多くの客を求めて店の外に出ることにした。
「あんまり無理しないで良いからね」
「心配ない。道行く人に片っ端から声をかければ売れるだろう」
「それは良いけど、押し売りなんかしちゃ駄目だよ」
「…………分かるのか?」
村木お婆ちゃんが微笑んだ。
「伊達に長生きして、いろんな人を見てきた訳じゃないからね。無理をすると、もっと無理になって返ってくるもんさ」
「……まだまだ修業が足りないということか」
「……私もですな。これは失礼しました」
廉と陳宮は村木婆ちゃんに頭を下げた。
そして看板を首から下げたキャロを廉の頭の上に乗せ、3人でいろいろ練り歩く。
長身の廉と可愛らしいキャロのキャラクターで、ラムネもアイスクリームも売れていく。
「無理せんでも売れるものだな」
「そうですな。私にとっても意外です」
不思議そうに足を進める2人をよそに、キャロは「美味しいラムネ、いかがなのー!」と呼びかけていた。
数時間の後、駄菓子屋に戻ってくる。
「普通に売れたぞ」
廉達を村木のお婆ちゃんが迎える。
「それで良いんですよ」
一通り遊んだミーナ達は、駄菓子屋を後にした。フランカの手にはビニール袋に入ったビー玉が握られている。
「おーい!」
そんな彼女達をエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が追っかけてきた。
「はい、これ」
取り出したのはラムネのビン。ただし売っていた古いタイプではなく。新しい形式のものだ。
「最近のは、こう……」とビンの口をひねる。するとネジのように回って中のガラス玉が転がり出た。
「出てくるようになってるんだ。持っていきな」
「ありがとう!」
ミーナと恵美とフランカがお礼を言う。胡桃はホワイトボードに「ありがとうございます」と書いた。
「またなー」
エヴァルトは駄菓子屋に帰っていった。
フランカがラムネビンに入っていたガラス玉を光にかざす。他のビー玉よりも、どこかきれいに輝くように見えた。
謎のアイス屋台も駄菓子屋に戻ってくる。
「婆ちゃーん。今戻りましたぁ」
東條 カガチ(とうじょう・かがち)と椎名 真(しいな・まこと)が売り上げを渡す。屋台にはラムネもアイスクリームも残っていなかった。
「駄菓子屋も宣伝しておきましたよー」
汗だくな2人に、村木お婆ちゃんがラムネを差し出す。
「お疲れ様。よかったら、もんじゃでも食べてくかい?」
「助かったー。俺達、お腹ペコペコ」
「あら、途中で何か食べてこなかったの?」
「なんかお客さんが途切れなくって、だからって売る俺達がへばったら話にならないからね」
「椎名くんの魅力がわかったろー」
「うーん」
今になっても半信半疑だったが、もんじゃの香りに意識が向くと、食欲の赴くがままに食べ始める。
「お婆ちゃーん、明日も来ようかぁ?」
「ありがたいけど、他にも手伝いを申し出てくれる人がいるから大丈夫だと思うよ。それに蒼空学園で盆踊り大会があるんだって。そっちでも売り出すみたいだしねぇ」
2人はヘラをくわえて考え込む。
「むー、そんな方法があったんですねぇ」
「そっちでも屋台を出してみるか」
ラムネとアイスを売り切った佐野 和輝(さの・かずき)とアニス・パラス(あにす・ぱらす)、スノー・クライム(すのー・くらいむ)も駄菓子屋に戻ってくる。
「……ひどい目にあった」
半ば服装まで乱れた和輝は深くため息をついた。
「そうとしか思えないのですか?」
スノーがとがめるような視線を向ける。
「いや、分かってるさ。ただあそこまで大勢に囲まれたのは……、戦場でも感じない恐怖と言うか、畏怖と言うか……」
「それを聞いて安心しました」
スノーが笑顔を見せる。
「アニスも楽しかったよー。全部売れたし、お婆ちゃんも喜んでくれるよね」
「ああ、もちろん。……ところで、スノーはどう思ったんだ?」
「さぁ、ご想像にお任せします」
笑顔が思わせぶりなものに変わった。
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