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第三章 海に咲く華


ビーチバレーから離れた場所では、たった今海に着いたばかりの芦原郁乃(あはら・いくの)秋月桃花(あきづき・とうか)荀灌(じゅん・かん)がいた。
「わぁ〜! 海だぁ〜っ!」
テンションマックスな郁乃が砂浜めがけて走り出したい衝動にかられる横では、
「いい景色。久方ぶりの海ですね」
と海風に目を細める桃花、
「これが……海……なんですね」
初めて見る海に圧倒される荀灌が並んでいた。
「んじゃ、まずは着替えて出陣だっ!」
郁乃の言葉に従ってあとの二人も更衣室で着替えながら、桃花は外の日差しに目を細めた。
「今日は日差しも強すぎませんから、たっぷり遊べそうですね」
「そだねぇ〜。海といえば水着。水着といえばポロリもあるよぉ〜」
郁乃が荀灌に顔を向けて「くししっ」といたずらっぽく笑いかけると、
「そそそ、そんなぁ〜!」
真面目に受け取った荀灌は悲鳴を上げた。
紺色のスクール水着を着て恥ずかしがる荀灌を拝み倒し、ちょこっと実物を拝ませてもらった郁乃。
「うう…お姉ちゃん、やっぱり恥ずかしいよ」
「そう? 似合ってると思うけどな〜。ね、桃花?」
「そうですね、可愛いですよ。他にも似合うデザインはあるんですけどね……」
と小声で続く言葉を郁乃はあえて聞かなかったことにし、
「荀灌の魅力を最大に引き出すデザインの水着を選んだんだよ」
桃花はピンク色のビキニで、腰にパレオ、頭に麦わら帽子という令嬢チックな出で立ちをしており、きゅっとくびれたウェストに豊かに揺れるバスト。
その見事なプロポーションに思わず見とれてしまいそうである。
(むぅ……不特定多数の不逞な男どもに見せるのが惜しいなぁ)
白のビキニでトップはホルターネック、ボトムはひもパンに着替え終わった郁乃を先頭に三人ははしゃぎながら砂浜に出た。
とりあえずパラソルを立て、飲み物を入れたクーラーボックス置き終わると。
「ふふふ……、かわいい妹に身をもって海を体験してもらっちゃおうかな」
優しい声で郁乃は告げると、ひょいと荀灌を担ぎ上げ、海へと向かって歩き出した。
「わっ? わっ!?」
傍から見ると俗に言うお姫様抱っことなってしまい、恥ずかしがる荀灌に、
「息止めてないと水飲んじゃうぞ」
抱えたまま一言注意する郁乃。
しゃがんで海の中に潜ると、荀灌はぎゅーっと目を瞑り、必死になって郁乃にしがみついた。
海面に出ると、息を切らし、ちょっと涙目になっている荀灌に、
「海って、こんな感じなんだよ」
と言い、郁乃は荀灌の背中を撫でた。
砂浜に戻ると、苦笑した桃花に
「もぉ、びっくりさせちゃダメじゃないですか。郁乃様」
と注意され、
「テヘヘ、ごめんごめん」
謝りながら、その後も海で戯れる三人。
その姿をアリス・テスタイン(ありす・てすたいん)が用意したパラソルの下で、秋葉つかさ(あきば・つかさ)葉月可憐(はづき・かれん)は並んで見ていた。
「可愛らしいですね、可憐様……。あら? それはなんでしょう……白衣と聴診器?」
「はい。覗きがつかさ様の生き甲斐だというのは知っていますが、折角の海ですし外に視野を広げるべく、お医者様ごっこなんていかがでしょう?」
「面白いかもしれませんね」
その言葉を了承と受け取り、可憐の目は輝いた。
「じゃあ、まずはつかさ様からですね」
聴診器でつかさの呼吸音を聞き、次いでつかさに聴診器を当てられ、可憐はくすぐったそうに身を振った。
「お互い異常がなくてよかったです! あ、つかさ様、喉かわいていませんか? アリス」
「はい、ジュース買って来たよ。私は向こう行ってるから〜」
「ありがとう」
手渡されたフルーツジュースを受け取り、ストローをさした可憐はにっこり笑ってつかさに差し出した。
「はいっ、どうぞ♪」
「あら……ストローが一本しかありませんね? ふふっ、そういうのがいいなら、言ってくださればいいのに」
つかさは艶やかに微笑むと、途端に可憐の頬は朱に染まった。
「つ、つかさ様……」
「間接よりも、直接の方が……刺激的ではありませんか?」
「はうっ」
この後の二人がどうなったかは、神のみぞ知る……である。