蒼空学園へ

イルミンスール魔法学校

校長室

シャンバラ教導団へ

勇者、募集します ~大樹の不思議な冒険?~

リアクション公開中!

勇者、募集します ~大樹の不思議な冒険?~

リアクション


第4章(2)
 
 
 妖精の島から帰還した勇者達はクレアニスの王城を訪れていた。貴重品である妖精の果実を持参した勇者達は目通りを許され、謁見の間へと続く長い廊下を歩いている。
「こちらに聖王シオン陛下がいらっしゃいます」
 案内をしているサリエル・セイクル・レネィオテ(さりえる・せいくるれねぃおて)が重厚な扉の前で立ち止まる。執事服に身を包んだ彼は王お付の有能な家臣である。
 ――ただし、一部を除いて。
「謁見の前に一つ。王のそばに仕える近衛兵には決して失礼の無いように」
「近衛兵に? 王様にじゃ無く?」
 当然のごとく篁 大樹が疑問に思う。対するサリエルは至って真剣な表情だ。
「えぇ構いません。というか王なんてどうでも良いです。いいですか? 絶対に、絶対に、ぜ・っ・た・い・に! 近衛兵に無礼な真似はしないで下さいよ」
「わ、分かったって!」
「ならばよろしい。では、私はこれにて……ふふっ、早く部屋に戻って可愛いリズの映像を観なければ……」
「……何なんだ、あれ」
 
「ようこそいらっしゃいました。私が国王のシオンと申します。まぁ楽にして下さい」
 謁見の間に勇者達が入ると、玉座にいる月詠 司(つくよみ・つかさ)が出迎えた。その姿はいかにも国王といった格好なのだが、如何せんどうにも腰が低い。
「あなた達の事は先ほどライザくんから連絡を頂きましたよ。魔王軍に対抗する為に旅を続けているそうですね」
 どうやら妖精の島に行っている間にグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)が便宜を図ってくれたらしい。お陰でこれまでの事を説明する手間は省けそうだった。ならば話は早いとばかりに相田 なぶら(あいだ・なぶら)が妖精の果実をそばにいるメイドに手渡し、再び国王に向けてひざまずく。
「はい、陛下。我々はこの世界に平和を取り戻す為、様々な地を渡り歩いて参りました。願わくばこの東方大陸でも同様に魔王軍の脅威を退ける為の活動をお許し戴きたく存じます」
「そのように畏まらなくても大丈夫ですよ。私としても皆さんがこの国の民を救ってくれるのなら非常に助かりますからね。ところで……」
 メイドから妖精の果実を受け取った司がなぶら達へと近づく。そして周囲に聞かれないよう、声を落として尋ねた。
「この果実以外になんですが、何か珍しい物は持っていないですかね? 具体的にはいつも酷い事をする相手に仕返し出来るようなのを」
「は?」
「あぁいえ、別に珍しく無くてもいいんです。とにかく狙った相手を懲らしめられるアイテムがあれば――」
 
「陛下」
 
「!」
 玉座の横で待機していた近衛兵が口を開く。すると途端に司の表情がこわばった。口をつぐんで玉座へと戻った司に対し、近衛兵はこっそり――のつもりだろうが勇者達にはバレバレの状態で――剣の柄で何度もつついた。
「不用意な事は、謹んで下さいと、言ってる、でしょう」
「わ、私は別に何も――痛いですよリズくん! 言いながらつつくのはやめて下さい!」
 結局リズと呼ばれた近衛兵、シオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)の気が済むまで攻撃は続けられた。ようやく解放された司は身体の後ろ側をさすりながら改めて勇者達に向き直る。
「え〜っと、とにかく皆さんがこちらの大陸で好きに動く事は許可します。それから、献上してもらった妖精の果実の代わりに何かご褒美を上げないといけないですね……」
 何が良いか考え込む司。その時、サリエルが新しい客人を連れて謁見の間に入ってきた。後ろにいるのは港で別れた壬生狼のメンバーだった。その中に九条 風天(くじょう・ふうてん)の姿を見つけ、大樹が尋ねる。
「あれ? 壬生狼の皆は分かるけど、風天さんまで来たのか?」
「えぇ。元々ボクが傭兵をしながら各地を回っている理由は最強の剣を探しているからなんですが、この街に腕の良い鍛冶師がいるという噂を聞きまして。それでせっかくですから壬生狼の方々と一緒にここまで来た訳です」
「海はまたリヴェンジを使わせてもらったからな。思ったよりも早く戻って来られたぜ」
 大石 鍬次郎(おおいし・くわじろう)が銀貨の入った袋を見せる。どうやらハイラウンドの町長にこれまでの報酬をしっかり払わせる事が出来たらしい。
「鍛冶師ですか。なるほど……」
 勇者達のやり取りを見ていた司が名案とばかりに頷く。
「恐らくそちらの方の言う鍛冶師とは天津 麻羅(あまつ・まら)くんの事ですね。工房自体はあまり有名では無いのですが、麻羅くんともう一人、腕の良い鍛冶師がいるんですよ。先ほどのご褒美に、私の方からあなた達の為に剣を作ってもらえるよう、こちらから頼んでおきましょう。小夜子くん、皆さんを工房まで案内してあげて下さい」
「畏まりました、陛下」
 扉のそばに控えていた冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)が一礼をする。
「そうそう、もしあなたが良いのであれば、そのまま皆さんの旅に同行しても構いませんよ」
「よろしいのですか?」
「えぇ。大国を名乗る身としては援助だけで人材を出さないのは憚られますからね。その点小夜子くんなら我が国の騎士として自信を持って送り出せます。どうでしょうか?」
「陛下のお言葉、恐悦至極にございます。この冬山 小夜子、クレアニスの誇りにかけて勇者の一矢とならん事をお約束致します」
「はい。それではよろしく頼みましたよ」
「はっ」
 顔を上げた小夜子が勇者達の前に来る。国王に信頼されているだけあり、その顔つきは騎士として誇れる物だった。
「囚われの姫を助け出す為に魔王に挑もうとする勇気、見上げたものだ。私も騎士としてその勇気に応え、必ずや皆の力になろう。どうか、よろしく頼む」
 
 
「ふぅ、これで今日のお仕事は終わりですかね」
 勇者達が工房へと向かい、人気の少なくなった謁見の間。身体をほぐすように伸びをした司を労うようにメイドの強殖魔装鬼 キメラ・アンジェ(きょうしょくまそうき・きめらあんじぇ)が笑顔を見せる。
「お疲れ様、司にぃさまっ」
「ありがとうございます、アンジェくん。すみませんが何か飲み物を頂けませんかね」
「は〜いっ、今取って来るね〜♪」
 気品といった言葉とは無縁の軽やかさで走り出す。彼女が扉を閉めたと同時に『本物の王』である近衛兵の姿をしていたシオンが笑みを浮かべた。
「ふふっ、残念だったわね。お目当てのアイテムが無くて」
「な、何の事ですか?」
 司が冷や汗をたらす。仕返しをしたい本人から言われたのだから当然だろう。
「まぁいいわ。それよりワタシ達も準備をしないとね」
「準備、ですか?」
「えぇそうよ。何も持たずに旅をする訳にはいかないでしょう?」
「……あの〜、まさかとは思いますが、勇者の皆さんについて行くつもりで……?」
「当然よ。勇者様方の道中の支援に、魔王を討伐出来るかの確認。国の為に必要な事でしょ♪」
 ――嘘だ、どう見ても自分が楽しみたいだけだ。
 そう言いたくなった気持ちを司は必死に抑える。そもそも自分が影武者を務めている事も含めて、シオンのやる事は自分が面白いかどうかだけなのだ。口にしたらまた精神的にいたぶられるだけなので何も言わないが。
「さ、早く準備なさい。急がないと置いて行かれるわよ」
「はぁ、分かりましたけど……私とリズくんがいなくなると政務が困った事になるのではありませんか?」
 王様用のマントなどを外しながら尋ねる。それに答えたのはシオンではなく、そばに控えるサリエルだった。
「安心したまえ。私が用意した替え玉が三人がいない間の影武者を担当する」
 彼の後ろには司とシオンの姿をした使い魔がいる。シオンの方は細部まで余す所無く似せられていて、よほど親しい相手で無い限りは気付けそうも無い出来だった。
 ――それに反し、司の方は顔がへのへのもへじになっているのだが、そこは無視する事にする。
「三人という事は、私とリズ君と……?」
「アンジェに決まっているだろう。君に私の可愛い妹達を二人も同行させるのは誠に遺憾だが、リズと二人きりにさせる訳にはいかないのでな」
「いえ、勇者の皆さんも一緒なのですが……」
 司がぼそっと突っ込みを入れるが無視される。
 ちなみにサリエルはシオンの腹違いの兄だ。そして現クレアニス国王のシオンの妹がお付のメイドをしているアンジェ。そのさらに下が現ゾートランド大公のグロリアーナという事になる。
 サリエルは三人の妹を愛する兄だが、その中でもシオンには病的なまでの愛情を注いでいた。それはシスコンというレベルを超えて、もはやストーカーと言うべき物だ。
 その為シオンの幼馴染である司には妬みといった感情が向けられ、それは使い魔を利用して本来の近衛兵としての司の評判を落とす方向で発散されていた。
「これで私の準備は完了ですね。やっぱり王様の格好よりはこっちの方が落ち着きます」
「司にぃさまっ♪ お待たせ――」
 司が本来の近衛兵の姿に戻った所に飲み物を持ったアンジェが帰って来る。アンジェは司の変装前と変装後の姿をそれぞれ別人だと思っていた。そして近衛兵の司はサリエルの策略で覗き魔や痴漢の容疑がかけられている訳で――
「あー! 野獣くん! リズおねぇさまに近づいちゃダメぇ〜!!」
 と、突撃を喰らうのであった。
「はぁ……国の平和だけではなく、私の平和を護ってくれる勇者はいないものですかねぇ……」
 
 
「いらっしゃい。あなた達が王様の行ってた勇者の皆ね」
 クレアニスの片隅にある工房。そこの鍛冶師である水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)が勇者達を出迎えた。工房の手前側は武器屋として様々な武器が飾られてあり、それを一目見た風天が感心する。
「これは……確かに王様が勧めるだけの事はありますね。置いてある武器だけでも普通の武器とは違う物を感じます」
「あら、少し見ただけでそこに気付くなんて凄いわね。そこにある物は神の一品でもあるのよ」
「神……?」
 その声が聞こえた訳では無いだろうが、奥から麻羅が姿を現す。彼女は同業者の間では、鍛冶の神として崇められるほどの腕の持ち主だ。
「どうした緋雨――む、珍しく大盛況じゃな」
「連絡のあった勇者御一行よ」
「あぁ、魔王討伐に役立つ武器をと言っておったな。じゃがさすがに全員の分を作るには時間がかかり過ぎるぞ?」
 既に勇者とその仲間達は15人以上に膨れ上がっていた。手間暇を考えるならば、せいぜい一人か二人くらいが限度だろう。すると、武器強化イベントを逃してはならないとばかりに相田 なぶら(あいだ・なぶら)が手を上げた。
「ならば俺のを! 魔王を打ち倒せる勇者としての武器を俺に!」
「……という事じゃが、他の者は良いのか?」
 麻羅の問いかけに皆が頷く。一部の者は苦笑しているが。
「ではおぬしの武器を作るとするかの。姫神、その対神刀を貸せぃ」
「これですか? 別に構いませんが」
 工房のお手伝いとして働いている櫛名田 姫神(くしなだ・ひめ)が自身の武器を手渡す。呪いや瘴気が凝固して作られたその刀は、文字通り神と対峙しても怖れる事の無さそうな輝きを放っていた。
「ふふふ……神たるわしが神を殺す剣を鍛える。面白いではないか。見てるが良い、たちまち魔王すらも滅する武器へと昇華して――」
「持てないわよ」
「え?」
 刀を持って妖しい笑みを浮かべている麻羅に緋雨が突っ込む。
「だから、その刀じゃせっかく鍛えてもその人には使えないと思うわよ」
「なん……じゃと……!?」
 対神刀は扱いが難しく、よほど熟練した刀使いでなければ装備するのは不可能だった。残念ながらなぶらはその域に達していない。と言うよりも、剣を基本とするなぶらは刀を得意としていないと言うべきか。
「ちなみに緋雨よ。メタ的に言うと?」
「装備条件、刀レベル100」
 
 結局なぶらの武器は、自身が持つシュトラールを強化するという方向で纏った。武器を受け取った麻羅と姫神は早速工房の奥へと戻って行く。
「ところで、強化にはどのくらい時間がかかるんだ?」
 大樹が素朴な疑問を投げる。長時間かかるようなら最悪なぶらだけ待機させて、他は先に進まなければならないだろう。
「さすがにすぐって言うのは難しいわね。でもあなた達は魔王の塔を目指してるんでしょう? なら途中で届ける事が出来ると思うわ」
 そう言って緋雨が一人の剣士を呼んできた。長い黒髪が綺麗な少女だ。
「この娘、魔王の塔の近くにある隠れ里に住んでるのよ。だからこの娘とあなた達の武器が作り終わったら、一緒にそこまで運んでもらえるわよ」
「初めまして、私は永倉 八重(ながくら・やえ)と申します。緋雨さんから話は聞きました。私で良ければ是非協力させて下さい!」
「そういう訳だから、あなた達は安心して先を目指して頂戴。大変だと思うけど、頑張ってね」
 
「さて、早速取り掛からねばならんな。八重の折れた太刀を脇差に打ち直すのと、この剣の強化か……わしの腕の見せ所じゃな」
 作業に移る為、工房を忙しなく動き回る麻羅。姫神はそれを手伝いながらも、視線はなぶらの置いていった剣へと向いていた。
「ん? どうしたのじゃ姫神よ」
「いえ、この剣を魔王すらも倒す武器へと鍛え上げるのですよね。ただ打ち直すだけで出来る物でしょうか?」
「大丈夫じゃろ。別に前例が無い訳では無いからのぅ」
「ですが、何かが足りないような……何でしょう。魔王、魔界の神、神をも殺す剣――あっ」
 実際に軽く振ってみながら考え込んでいた姫神。そんな彼女の手から剣がすっぽ抜けた。飛んで行った剣はそのまま麻羅へと――
 
「ギャー!」
 
 ――突き刺さった。神としての力が奪われ、剣へと流れ込んで行く。
 
 【天津 麻羅】残機:4/5
 
「き、貴様っ! わしで無かったらヤバかったぞっ!」
「申し訳ありません麻羅さん。まぁ刺さった物は仕方が無いですよね」
「加害者が言うでない……」
「それよりも見て下さい。まだ打ち直してもいないのに、剣に不思議な力が宿っています」
「む、本当じゃのぅ」
「神である麻羅さんの力を取り込んだみたいですね。神を倒すには神の命を、という事でしょうか」
「……何か嫌な予感しかしないのじゃが」
「残機的にあと三回はいけますよね。この剣に二回、八重さんの刀に一回。せっかくですから有効活用しましょう。どうせもう出番は終わりなんですし」
「で、出番とは何じゃ!? 人……じゃない、神の命を何だと……! こら、やめ――」
 
「アッー!」
 
 【天津 麻羅】残機:3/5
 【天津 麻羅】残機:2/5
 【天津 麻羅】残機:/5
 
「……何してるの、二人とも……」
 打ち直しの手伝いに鍛冶場に入って来た緋雨。彼女は現場の惨状を見て、それしか言う事が出来なかった――