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リアクション
――迷宮内・第一階層――
「コーディリア、解除を頼みます」
「はい、剛太郎様」
先行する大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)はトラップを見つけると、コーディリア・ブラウン(こーでぃりあ・ぶらうん)に解除を要請し、後ろを伺った。
赤城 花音(あかぎ・かのん)は探索というよりも、とある場所を探していた。
「やっぱり、ここじゃあんまり響きそうにないよね」
「花音、まだ適した場所は見つかりませんか?」
パートナーのリュート・アコーディア(りゅーと・あこーでぃあ)は、ひたすらに歩き続けることが、あまり得策ではないように考えているが、花音の名案というのに乗ったのだ。
内容は未だ知らないが、そのため丁度護衛をしてくれるという剛太郎達の助力も有り難く受けたのだが、彼らにも少し申し訳なくなってきていた。
「ねえねえ、もうちょっと広い場所はないかな? うんと反響しそうなところ」
花音はリュートのそんな心配も露知らず、剛太郎に駆け寄って言った。
「反響しそうなところでありますか? 何分モンスターと出くわさないのはいいのですが、この地帯はトラップが多く、進行には今しばらく時間がかかりそうであります。何か音波系を使われるので?」
「内緒」
「剛太郎様、トラップの解除が済みました。私の見立てでは、この通路にこれ以上のトラップはないように思います。慎重にと注釈は付きますが、一気に突き進んでも問題ないかと思います」
「そうであるか。よくやってくれた。この通路の先まではペースを上げていけそうでありますから、今しばらく望みの地点を見つけるまで辛抱願います」
「お願いだよ」
そうして剛太郎達は、慎重に、かつスピーディーに一本道の通路を抜けた。
その先は、数多もの道が広がるドーム状のような空間だった。
さて、どの道を進むか――。
トラップは――。
敵は――。
考えを巡らせている中、花音は喜んで中央に小躍りして出た。
「ここは凄くいいよ! ここに決めたよ!」
何が何やら、さっぱりだ。
名探偵の推理のように、花音は言葉をつなげた。
「状況を整理してみてよ。レオンさん達を落とし穴に落とした犯人……? の女の子が、一番の問題だよね。この迷宮の事を詳しく把握している……って、話なら、きちんと事情を説明して、一緒に調合書を探せないかな? どうしても女の子の持ち物に思えるんだ。ボクたちは野盗になりたくて、調合書を探す訳じゃない! こそこそ探し回るよりも、正面玄関から堂々と行こうよ!」
「確かに遺跡荒らしは心外ですし、花音の言葉に説得力はあります。ですが、どうやって女の子を?」
「ボクが相手に興味を持ってもらうために、歌うよ♪」
「か、花音、歌うことは構いませんが……」
リュートは剛太郎達をチラリと見やった。
「問題ありません。少女と接触できるまで、護衛を全うしてみせます」
心配は杞憂だった。
ならば、思う存分に興味を持ってもらおう――。
「846プロプレゼン、スペシャルライブ! 花音・アタック☆」
――♪〜雨上がりの午後は〜♪
そうして花音が歌い始めると、通路から現れる影、影、影――。
早速モンスターを引きよせた。
「近づけさせんッ!」
「お手伝いしますッ!」
剛太郎は銃で、コーディリアは光条兵器で射撃を開始した。
1つずつ、確実に、近づいてきたものから殲滅せねばならない。
ゴブリンは流れ弾に勝手に当たって倒れるからよしとしても、問題は他のモンスターだった。
「ガーゴイルから仕留めるでありますッ!」
「はいッ!」
2人同時ででの射撃で、ガーゴイルの羽をもぎ、地に落とし、スケルトンは盾さえ弾いてしまえば、あとはノーガードだ。
こうして何体かのモンスターを仕留めたのだが、問題はゴーレムだ。
2人の射撃を集中させても怯むことなく、一歩、また一歩と確実に前進してきていた。
加えてゴーレムだけに集中させるわけにもいかない、
ゴーレム以外の敵は、歌い人に今もなお近づいてきているのだ。
――ドンッ!
「――コーディリアッ!」
剛太郎は叫ぶが、大きく一歩を踏み出したゴーレムのパンチが、コーディリアを捉えようとしていた。
伸ばされた腕、遅れて吹きつける拳圧の風――しかし、それらは全て届かなかった。
「お困りかな……ッ?」
コーディリアとゴーレムの拳の間に割って入り、それを受け止めたのは大岡 永谷(おおおか・とと)だった。
「危険なシーンで盾になれるよう張り込んでおいて……ッ、正解だった、なッ!」
槍と盾を目一杯で防いでいた攻撃を、永谷は弾き、隙が出来たゴーレムを後退させるように追撃をかける。
肩、頭と重心を崩せる部分を重点的に、槍で突き押した。
バランスを崩したゴーレムが不安定な足取りで後退すると、そのまま尻持ちをつくように迷宮の壁に倒れた。
「これを持ってな――」
永谷は剛太郎とコーディリアに1つずつ、リュートに花音分も合わせて2つのお守りを投げ渡した。
「禁猟区のお守りだ。持ってるだけでも敵の気配を感じ取り易くなる。さて……ッ」
「援護を、願えますでしょうか!?」
「もちろん、そのつもりだッ!」
剛太郎の言葉に永谷は力強く応えて見せた。
「モンスターと言えど、歌は静かに聴くもんだッ」
後方の心配がない永谷は次の狙いをガーゴイルに定め、一気に迎撃した。
スケルトンのジャンプからの一閃は盾で防ぎ、薙いだ。
「次ッ!」
永谷の援護で形勢は逆転。
――♪今〜伝えたい〜透き通る想い〜あなたに会えて良かった〜♪
花音の歌が終わる頃には、全てのモンスターを片づけ、その歌に耳を傾けていたのだ。
「……おっ」
永谷が視界の端に現われた影を捉えると、皆が一斉にそちらを向いた。
間違いない――、
「な、謎の女の子さん、僕はリュートと申します。良ければ……名前を聞かせてください。熱病の獣人さんたちを救う、薬の調合書を借りるために来ました! ベルティオールの調合書を、貸し出しては頂けませんか?」
しかし、影は、ひょっこりと陰に隠れると、その場を走り去った。
だが、少女の出現は多くの契約者に伝わった――。
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