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リアクション
かーん、かーん、かーん、と、良く通る鐘の音が、演習の開始を告げた。
同時に、東西の滑走路からはエンジン音を響かせ……たり、響かせなかったりしながら、大小の飛空艇、空飛ぶ箒、サンタのトナカイ他、一斉に空に飛び出していく。
青チームの旗艦である、飛空巡洋戦艦グナイゼナウもゆっくりとその巨体を中空へと浮かび上がらせた。
その鼻先を、一直線に西へと飛んでいくのは、武崎幸祐のパートナー、ヒルデガルド・ブリュンヒルデ(ひるでがるど・ぶりゅんひるで)だ。小型飛空艇に乗り、小回りを活かして偵察に当たる。
「こちら、ヒルデガルド……敵影を補足……南北に数機ずつ散ったようです。偵察を続けます」
淡々と武崎の元へ状況を伝えると、ブリュンヒルデはひとまず北方向へと飛空艇を向ける。
ブリュンヒルデが飛び出したのとほぼ同時に、東滑走路からはセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)とヴァイス・アイトラー(う゛ぁいす・あいとらー)がそれぞれ飛び立っていた。ミアキスは小型飛空艇に、アイトラーは巨大なクワガタ、黒鋼に乗っている。
二人は、何か有れば連携が取れるよう、かつ幅広く探索が出来るよう、互いの状況を目視で確認出来るギリギリの距離を保ちながらコンテナを探す。
「見付けた!」
と、飛び立って程なく歓声を上げたのはミアキスだ。その視界の端には、人造の起伏の影に隠れるように配置された、シルバーの本体に黄色と黒で縁取りがペイントされているコンテナだ。
演習場は広大、と言っても、それはあくまで人間視点で見たときの話。空を移動出来る乗り物があれば、端から端まで移動してもそれほどの時間は取られない程度の広さだ。その中に10個も配置されているということは結構な密度だ。この程度の時間で見付けられても不思議は無い。
が、それは同時に敵チームがここまで飛んできていてもおかしくはないということでもある。ミアキスは慎重に周囲に気を配りながら、コンテナへと接近する。
するとその時、正面から一機の飛空艇が接近してきた。赤チームに所属する、大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)が乗る小型飛空艇・オイレだ。
「そのコンテナは渡さんで!」
大久保もコンテナの存在には気付いているらしい。ぐっと速度を上げてミアキスに接近する。
ミアキスはすかさず大久保の方へと手を翳すと、光術の明かりを炸裂させた!
一瞬の光に目を灼かれそうになり、大久保は咄嗟に眼を瞑る。その一瞬の間に、ミアキスはぐっと高度を下げてコンテナに接近する。
が、しかし次の瞬間、予想外の方向から短剣の刃が伸びてきた。咄嗟に身体を捩って回避する。
飛空艇に無理な旋回をさせた所為でミアキスはバランスを大きく崩す。この、と周囲に鋭い視線を向ければ、遠ざかっていく気配が一つ。手にしたトライデントをそちらへむけて振るうと、大久保のパートナー、レイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)が隠れ身を解いて姿を現した。
「闇討ちなんて、良い根性してるわね」
「これも勝つための方便……失礼しますわ」
ロートランドとミアキスが対峙する、その後へ大久保が回り込む。
しまった、挟まれた、とミアキスは内心歯噛みする。が、予想に反して大久保がコンテナの回収に回る気配はない。
どうやら、狙いは足止めのようだ。
「そう簡単には、突破させまへんで」
人当たりの良い笑顔を浮かべながら、しかし大久保は手にしたラスターダスターをきりっと構える。……見た目がはたきなのでイマイチ決まらないが、しかしその実は強化型光条兵器、威力は侮れない。
三人の間に緊張が走る。
一方、ミアキスが交戦状態に入ったことに気付いたアイトラーは、そちらへの方向へと黒鋼の方向を変えた。
しかしそこへ、フランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)と讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)が乗ったサンタのトナカイが立ち塞がる。
「泰輔達の邪魔は、させないであるよ」
讃岐院が、サッと手を振るって氷術の一撃を放つ。
「うわっ、ちょ、回避ー!!」
巨大ではあるが黒鋼は昆虫。気温が下がれば、機動力が下がるどころか、場合によっては命さえ危ない。アイトラーはすかさず回避するように指示する。ぶ……ん、と重たい羽音を響かせて、黒鋼はぐるりと旋回、青白い光を間一髪で避ける。
「よくもやったな! 黒鋼、いくぞ!」
かけ声と共に、アイトラーは黒鋼の背中に乗せたイコン用のアサルトライフルに手を掛ける。
演習用の装備に載せ替えては居るが、生身の人間相手に発射するには結構な威力を誇る武装だ。フランツと讃岐院の顔に焦りの色が浮かぶ。
大久保、ロートランドとミアキスの戦闘は、まさに拮抗していた。
お互い、相手に重症を与える訳には行かないので、一撃必殺の技は使えない。そのため、必要以上に戦闘が長引いている。
しかし一瞬、ほんの僅かなスキをついて、ミアキスのトライデントの先端が、大久保の飛空艇の動力部を掠める。その瞬間、トライデントの持つ氷の属性が力を振るった。
エンジンが急速に冷え、出力が低下する。すかさずロートランドがミアキスの背後から愛刀・ソードブレイカーを振るうが、しかし間一髪のところでミアキスは離脱する。
「いい加減諦めなさい!」
「いいえ、通しません!」
「あなたのパートナーは、そうも言っていられないみたいだけれど?」
ミアキスの言葉に、ロートランドはハッと大久保の方を振り向く。オイレの出力がなかなか上がらずに難儀している。戦闘への即時復帰は難しそうだ。その隙をついて、ミアキスはするりとロートランドの横をすり抜けてコンテナへと向かう。
が、その時。
「顕仁!」
叫ぶと同時に、大久保の右目が光る。
同時に、ミアキスの眼前の空間がゆらりと揺らいで、虚空から讃岐院の顔が現れた。
「ひっ……きゃぁぁあっ!」
すぐに全身が現れたとは言え、ほんの一瞬生首に見えて、ミアキスはうっかり悲鳴を上げた。スロットルを握る手から力がふっと抜け、小型飛空艇はその場でホバリング状態になる。
「フッ……覚悟するがよい…………ぐはっ!」
バッと手を上げて氷術を放とうとした讃岐院が、ひゅるひゅると落ちていく。あ、地面に激突。
高度が充分下がっていたので深刻なダメージは無かったようだが、とりあえず、痛そうである。
「……ま、まあ、飛行手段が無ければ、落ちるわよね……」
「あ……あっれ?」
身構えた直後のあまりに間抜けな展開に、ミアキスは呆然と足元を見下ろして呟いた。
契約した悪魔を空中へ召喚すること自体は自由にできるが、悪魔自身は自由に飛べるわけではない。飛行手段が無ければその後は落ちていくだけだ。
「だ、大丈夫かぁ、顕仁!」
大久保が慌てて讃岐院の元へオイレを飛ばす。
「……お大事にね」
取り敢えず重症ではないことを確認すると、気を取り直したらしいミアキスはぽつりと呟いて、自分の乗る飛空艇を改めてコンテナの方へと向ける。が、巨大なコンテナを前に、さてどうやって運ぼうかと今更ながら逡巡する。
すると。
「はいはい、まかせといてー!」
そこへ、黒鋼に乗ったアイトラーが羽音を響かせて飛び込んできた。
あれよという間に黒鋼の大きな顎が、がっしりとコンテナを掴む。大久保達があ、と思ったときには、旗艦の方へ一目散に飛び去っていく。
「行きますよ、旗艦への接舷だけはなんとしても防がなければ!」
シューベルトの叱咤に、何とか立ち上がった讃岐院は急ぎ大久保の飛空艇の後部座席へと乗り込む。
そして、大久保達四人はアイトラーの後を追って去っていく。
残されたミアキスは、次のコンテナの確保へと向かう。
「応戦しながらコンテナ回収って、模擬戦とはいってもかなりへヴィーなミッションだわ」
なかなか一筋縄ではいかないことに溜息を吐きながら、ミアキスはコンテナを探して空を急ぐ。
と、遠くから銃撃の音が聞こえてきた。そちらへ舵を取りながら目をこらすと、相手の旗艦でもある、馴染みのある飛空艇が見えてきた。そして、それに銃を向けているパートナーと、他のチームメイトの姿も。
「……セレンったら、相変わらず頭に血が上ると見境ないんだから」
どうも動きが雑なパートナーの様子に相当苛立っているのだろうと思いながらも、こうして相手の旗艦を足止めしてくれている間に自分の仕事をしなくては、と、赤チーム旗艦から離れる方向に飛空艇を向けるセレアナだった。
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