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リアクション
「よし、設置完了だ」
青チーム所属のクレア・シュミットは、作業していた手を止めて顔を上げた。
彼女の目の前には、目標のコンテナ。しかしシュミットはそれを回収するでもなく、黙々と何かの作業を行っていた。
「パティ、頼むぞ」
「はぁい、了解です!」
シュミットの指示を受けたパティ・パナシェ(ぱてぃ・ぱなしぇ)はおっとりとした声で返事をすると、籠手型のハンドヘルドコンピューターをなにやら操作する。
――ザッ――ンテナを発見――ザザッ……回……を……ザッ場所は……――
ノイズ交じりの通信を受け取ったのは、小暮の乗る赤チームの旗艦だ。
「小暮少尉、変な通信を受信した」
管制室で、レーダーと通信機を担当しているクローラ・テレスコピウム(くろーら・てれすこぴうむ)が、それに気付いて声を上げた。
「変、というと」
「ノイズが酷い所為で、発信元が特定出来ない……だが、こちらのチームの信号だ」
「内容は?」
「コンテナ発見の連絡だ。場所も特定されているが、回収班は別の所からコンテナを輸送中と連絡が来ている。おそらく、妨害に出た班か、敵旗艦の襲撃に行っている班が発見したは良いが回収手段がないということだと思うが」
テレスコピウムが、回線越しに伝えられたコンテナの位置情報を小暮の見ているモニターへと転送した。
回収班の到着を待つより、旗艦で直接回収に行った方が早そうだ。
「よし、わかった。向かおう」
小暮の指示に、テレスコピウムは力強く頷く。
「大岡中尉、コンテナの回収準備をお願いできますか」
「ああ、解った。……っていうか、小暮さんが隊長なんだから、堂々と命令してくれよ」
立ち去り際にふっと笑ってそう言い残し、大岡はコンテナを回収するためハッチへと向かった。
「セリオスも行け。回収の誘導を頼む」
「はいはい、解ったよ」
テレスコピウムの隣で管制の補佐をしていたセリオス・ヒューレー(せりおす・ひゅーれー)が、用意しておいた空飛ぶ箒を手にして大岡を追う。
「間もなく連絡のあった地点だが……」
目視、レーダー共に駆使して味方機を探すが、通信を送ってきたと思われる味方機は確認出来ない。
妙だ、と小暮は胸騒ぎを覚える。
「レーダーに反応あり、敵一機だが、離れた位置から動かないな……」
「こちらのコンテナ回収を妨害するつもりだろうな。離れた位置に敵影あり、単機ですが充分警戒して回収作業を行ってください」
小暮の合図で、大岡がハッチを開く。
そして、ヒューレーがフック付きロープの端を持って箒で飛び出していく。
敵の影はまだ動かない。
ヒューレーは敵影が確認されている方角に特に意識を集中させながら降りていくと、手際よくフックをコンテナに引っかける。
そこへ。
ひゅん、と鋭い射撃が今し方引っかけたばかりのロープを襲った。
ぱつん、とロープが音を立てて切れる。
すかさずヒューレーは弾道を追って振り返るが、そこに見えるのは小さな人影。あの距離からライフルで狙ったらしい。そして動くつもりもないようだ。ロープを結ぶたびに切るという魂胆だろうか。
「地味というか、厄介というか……」
ヒューレーは溜息を吐く。
「俺が行く」
と、ヒューレーの隣に、小型飛空艇に乗った叶白竜が高度を合わせてきた。
言うが早いか、白竜はチラチラ見えている敵の影目指して一直線に飛んでいく。
流石に正面切って向かってこられては対応せざるを得ない。スナイパーよろしく潜んでいたエイミー・サンダース(えいみー・さんだーす)は、叶の姿を認めると急いで立ち上がる。
そして、くるりと踵を返すと逃げ出した。走って。
あれ、と叶は拍子抜けする。
――生身で参加か?
ここまでの移動はどうしたんだろう、とか、飛空艇相手に走って逃げられると思っているのだろうか、とか諸々疑問が浮かぶが、ロープへの射撃を止めさせる、という目的は果たせた。戻ってこられては厄介なのですぐにとって返すようなことはしないが、しかし深追いは不要だろう。
牽制するようにサンダースと自軍の間の位置を保持しながら、叶はゆっくりと後退していく。
「クレアさん、良い感じに格納されていきますよ」
「そうだな……さて、小暮少尉はどう出るか」
サンダースが射撃していた地点よりさらに先で身を潜めていたシュミットとパナシェは、双眼鏡でじっと成り行きを見守っていた。そこへ、すたこらと逃げ出してきたサンダースが合流する。
「お疲れ様、エイミー」
「大したことはしてねぇよ」
「充分な活躍だ。彼らも、あのコンテナに何か有るなど考えていないようだ。」
逃げてきただけ、と肩を竦めるエイミーにねぎらいの言葉を掛けると、シュミットは再び双眼鏡を覗き込む。
その視線の先では、ヒューレーがロープを結び直し、まさにコンテナが旗艦に収容されるところだった。
「そのままー、ゆっくりなー」
荷物と高度を揃えて飛ぶヒューレーが確認しながら指示を出す。
ハッチでは、大岡が受け入れ態勢を整えていた。
「よし……そのまま格納を……」
その様子を管制室から確認していた小暮も、ほっと安堵の表情を見せている。が。
コンテナが飛空艇に積み込まれようとしたまさにその瞬間。
「ストップ! 止めて!」
小暮の持つお守りが強い反応を示した。同時に、結界を貼った本人である大岡も何かを感じ、顔を強ばらせる。
「ヒューレー殿、コンテナを良く確認してくれないか。嫌な予感がする」
回線越しの小暮の指示に従い、ヒューレーはコンテナの回りをくまなく点検する。すると。
「あった! 小暮さん、予感的中」
見えづらいようにカモフラージュされていたが、演習用の機晶爆弾が設置されていた。時限式なのか遠隔操作式なのかは解らないが、いずれにせよ機内で爆発などしたら。演習用だから実際に大変な事になるわけではないが、実戦ならそれこそ大変なことだ。当然、ダメージ判定も深刻なものと判定されるだろう。
「やっぱり……解除できそうか?」
「うーん、俺は得意ってほどじゃないな……君は?」
「……専門というほどでは。多少の知識くらいはありますが。」
少し困ったように眉尻を下げるヒューレーが、叶に問いかける。が、残念ながら叶も首を横に振る。
「俺もそんなもんだなぁ。……一回フック外して、離れたところから俺のフラワシで焼いちゃうか」
結局ヒューレーの提案が一番妥当な解決策ということで、一度持ち上げたコンテナを下ろし、ヒューレーの操るフラワシが焼却処理を行い、再びフックを取り付けて回収を行う。
その様子を双眼鏡越しに覗いていたシュミットは、そこまで確認してからやれやれと顔を上げた。
「ギリギリセーフ、だな」
青チームとしては、妨害失敗というところだが、小暮の成長を確認するという自身の密かな目的は達成できた。
コンテナに爆弾を仕掛け、爆弾付きのコンテナの位置を情報攪乱で流したのは他でもない、シュミット達だ。それで、赤の旗艦にダメージを与えられればよし、そうでなくても小暮の成長が確かめられればよし、と思っての作戦だったが、どうやら結果は後者と出たようだ。
「また成長したようだな、少尉」
シュミットは満足そうにそう言うと、次のコンテナを探すべくヘリファルテに乗り込むのだった。
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