校長室
【2021ハロウィン】大荒野のハロウィンパレード!
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「屋台の売上が凄いって……俺の料理の腕前が上手いというより、お前のあの格好が一番大事な理由だと思うが、緋葉?」 「え? え?」 勇刃と緋葉のやり取りを、勇刃の屋台の前に設けてある小さな椅子の上に座ったエースが、豚汁おでんを食べながら耳を傾けている。 「(しかし、このおでん……クマラなら匂いにつられて来るハズだ)」 アンネリーゼとクマラの一件は、小腹が空いたため観戦を回避したエースの読みは当たった。 「エースゥゥゥーーッ!!」 「……来たか」 泣きながらバタバタと走ってきたクマラだが、エースが豚汁おでんの大根を食べる姿を見た瞬間、その形相が変わる。 「くーわーせーろーーーッ!!」 「……」 エースが皿を覗くとコンニャクだけが残っている。 「はい!」 ポンとコンニャクを空へ箸で投げるエース。 クマラが瞬間的に跳躍し飛びつく。 「……熱いぞ?」 「ホフ? ……ギニャニャニャニャァァ……!?」 空中でキャッチしたクマラが着地する前に悶え苦しむ。 「ハヒニィ……ヒエェ……(先に言え)!」 悶え苦しむクマラを見た勇刃がヒョイと顔を出す。 「おいおい、山車に向かって投げ入れるならば、こっちだぜ?」 勇刃がエースにビニール袋に包まれたロリーポップを差し出す。 「棒付きキャンディか……」 「ああ、ダンサーに当たっても痛くなく、且つ落ちても壊れないお菓子を開発しておいたんだ」 話す二人の後ろでは、緋葉に水を貰って飲み干すクマラ。 「でも、屋台が忙しければ、パレードどころじゃないだろう?」 「なぁに。これでも暇な時はパレードを見て楽しんでいるぜ? 何せここからだと良く見えるしな」 勇刃はそう言って、クマラ用の豚汁おでんを皿に盛りつけていくのであった。 「え、来れない?……えぇ……えぇ、いいですよ気にしなくて、誘ったのは私です。貴方が無理することじゃありませんから。じゃ、デートはお預けという事で……はい、失礼します」 パレードの沿道の雑踏から少し離れた場所で電話をかけていた坂上 来栖(さかがみ・くるす)がやや寂しげに電話を切り、ポケットかた愛用の煙草を取り出し一本咥える。 「さて……と、どうしましょうか?」 煙草に火をつけた来栖がフゥーと紫煙を吐き出す。 「このままノコノコ帰るのも癪ですし、折角だから見ておきましょうか」 一緒にパレードを観に行こうと誘った人物の急なるキャンセルに、来栖はそう決める。 通りを行くパレードを見つつ、煙草の灰を地面に落とす。 「へ〜、割と本格的なんですね〜。夜だってのも実にムードがある……まぁ、私は一人ですが」 来栖は手をつないだり、肩を抱き合う恋人達を見ながら呟いた。 別に来栖も色っぽい事がしたくて相手を誘ったわけではない。ただ、来栖にとって大事な話と、一つの御願い、それをが目的だった。 なりそこないの吸血鬼である来栖の日々弱体化して行く身体……自らの意志で拒んだ吸血衝動ゆえの事態である。 「こんな綺麗なパレードだって、いつか終わりが来ます。それと同じ事でしょう……ま、別にいいです」 時間はある、理性もある。きっと……まだ大丈夫だ。 自分に言い聞かせる様に頷いた来栖が、傍に置かれた灰皿に煙草を捨て、感傷的になった自分に苦笑し首を振る。 「今はこの綺麗な光景を楽しもう、騒がしい喧騒をBGMにして」 「あの、そこのお姉さん?」 「ん?」 かけられた声に来栖が振り向くと、吸血鬼の仮装をした加岳里 志成(かがくり・しせい)と、魔女の仮装をした左文字 小夜(さもんじ・さよ)がいた。 「(吸血鬼か……今日はそういった仮装をする日でしたね……)」 来栖が志成の姿を見てそう思いつつ、 「はい、何ですか?」 「私達、こういう場所に来たこともないし、パレードもテレビを通してだけでしか見たことがないのですが……」 志成がそう言って、パレードを指さす。 「あれは一体何のキャラクターでしょうか?」 「あれは……何でしょう?」 志成に問われた来栖も暫し考えこむ。 「遠い昔にも、お祭り騒ぎというものを見たことがございましたが、こんなに騒がしいのは、わたくし初めて見ましたわ」 おっとりした雰囲気の小夜が、ハァと山車を見つめる。 「小夜? 君は不思議には思わないんですか?」 「はい? 山車ですか? 志成様、あれは猫の形をしたバスではありませんか?」 「えーと……その上です」 小夜が志成と来栖が見つめる先を見ると、パレード上空で、円盤と空飛ぶ箒が飛び交い、何やら揉めているのが見える。 「あれもパレードでしょうか?」 「あ! あの人は……!!」 夜空を見ていた小夜が円盤に乗った人物に声をあげる中、意外と誰も気付かれず、空を落ちて行く人影があった。