校長室
【2021ハロウィン】大荒野のハロウィンパレード!
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「片付いたみたいだぜ……オレ達が出る幕無かったな」 イリス達の騒ぎを発見し、急遽助けに入ろうとしていた警備員の高円寺 海(こうえんじ・かい)が呟くと、傍にいた魔女の仮装をした杜守 柚(ともり・ゆず)を見る。 「ごめん、海くん。私、背が低いから見えなくて……」 つま先立ちをしていた柚が、済まなそうに海を見る。 「背が低いのは仕方ないだろう? 謝るなよ」 「ご、ごめんなさい……(あ、また謝っちゃった……)」 海が警備員用の無線に応答する姿を柚がチラリと見る。 そこそこの長身で、かっこいい顔立ちの海は、白馬に乗って現れそうな王子……を迎え撃つ魔王の仮装をしていた。ダークヒーローちっくな黒い衣装と紫のマントがよく似合っている。 「(海くん……カッコイイです)」 はぅ、と見とれる柚に、背後からドラキュラ姿の杜守 三月(ともり・みつき)が背中を叩く。 「三月ちゃん? もう、どこ行ってたんです?」 「くすぐらないの?」 「え? ……あぁ、ハロウィンだからね」 「さっきボクをくすぐったみたいにさ。海もくすぐっちゃいなよ」 「で、ででで……出来……るけど、その……タイミングが難しくて……」 三月は柚に「トリックオアトリート」と言い、ゲットした手作りクッキーを一つかじり「(こういうの好きだからね、柚は)」と思う。 「それじゃあさ、柚……見えないから抱き上げて!て言えばいいのに」 「抱き……! そ、そんな事言えるわけないですよ!!」 「何か言ったか?」 無線を切った海が振り向く。 「いいえ、何にも!! ちょっと三月ちゃんが……て、アレ? いない?」 海が振り向くより早く、三月は屋台の物陰に身を隠していた。 三月はずっと超感覚で辺りを警戒しつつ、海と柚の後ろをついて来ていた。 「柚は小さくてはぐれそうだから、海に手を繋いで欲しいって頼んだの、ちょっと失敗だったかな」 鈍感な海と、今イチ積極性に欠ける柚。二人を見かねた三月は色々と手を回していた。 少し前も柚が迷子の子供の親を探して離れた隙を見計らい、 「柚って小さいから、人に埋もれそうな気がするし。埋もれたら見つからないかも」 と、海に話かけた三月であったが、元来、女性の扱いが不得手な海はその提案に戸惑う。 「いや、でも……」 「柚とはぐれてもいいの?」 三月が追撃すると、海は真顔できっぱりと言いきる。 「そうならないようにオレは注意してるぜ」 そんな海の真顔を回想している三月を残し、再度本部の指定する警備ポイントへ歩き始める海と柚。海が先頭を歩き、柚が遅れないように早足を交えて付いていく。少し古い時代にあったらしい、『妻は旦那の三歩後ろ』の光景に三月が溜息をつく。 「傍から見たらデートしてるように見えるけど、本人達は気付いてないだろうね。しょうがない。また、ボクも少し後ろからはぐれない様に二人についていこうっと」 柚のクッキーを食べながら三月が歩き出そうとすると、上空からヒュルルルーッと音が聞こえてくる。 海と柚が見上げると、祥子の大型飛空艇から放たれた花火が、夜空に咲き誇っている。 「わぁー、綺麗!」 「柚。オレからはぐれないようにしろよ?」 「は……はい!」 花火から視線を外した柚がチラリと横を通り過ぎていくパレードに目をやる。 「(背の高い人が羨ましいですね……)」 背の低い柚がそう思った時、上空を行く大型飛空艇からこれまでに無い重厚な砲撃音がする。 「……今の音って……」 立ち止まった海が上空を見上げる。 「実弾!?」 「何だって!?」 ずっと警戒のため使用していた超感覚を一層鋭くした柚が、音の正体に気付く。 ―――ヒュルルルル…… 「海くん、こっちに来ます!! みんなを避難させなきゃ!!」 柚が叫ぶと同時に、海がサッと構える。 「間に合わないぜ!! 柚、オレが何とかする!! 場所を教えてくれ!!」 海が叫び、柚が示した砲弾の着弾予想場所へ跳躍する。 「奈落の鉄鎖!!」 海が砲弾に重力を干渉させ、軌道を変えて一気に弾き飛ばす。人の居ない荒野に着弾する砲弾。 「ハァハァ……ったく、何で実弾を撃つんだ?」 海が呟くと、三月が彼の横を走り抜けていく。 「柚! 大丈夫!?」 ハッとした海が駆けつけると、柚が足を押さえて座りこんでいる。 「どうしたんだ?」 「ごめんなさい……逃げようとする人に押されて、足をくじいてしまったみたいです」 「……」 三月と視線が合う海。三月の銀色の瞳が怒っている気がした。 「動けるか?」 「はい……大丈夫で……イタッ……」 立ち上がろうとした柚が苦痛に顔をゆがめる。 「……チッ、仕方ないな」 「え? えぇ!?」 海が柚の前に背中を向けて座る。 「乗れ」 「え…………か……かかかいくんッ!?」 「おんぶだよ。医務室までだからな」 「でもでも……」 起きた事態がわからず、テンパる柚。 「置いてくぞ?」 「……はい」 海が柚を背負って立ち上がり歩き出す。その背後で三月がガッツポースをしている。 「……」 「……」 いつもより近くに見える海の横顔に、柚は赤くなった顔を伏せる。 「柚……」 「は、はい」 「息が首に当たってる」 「あ……ごごごごめんなさい!!」 通りかかった観客の子供が、二人を指さし、「魔王が魔女を背負って歩いてるー!」と言う。 顔を上げた柚の目に、パレードが映る。 「(こんなによく見えるなんて……)」 いつもよりは随分高い目線で見えるパレードの心を奪われる柚。 「……さっきはありがとな」 「海くん?」 「砲弾の事だ。おまえと行動していなかったら、怪我人が出たかもしれない」 海の言葉に、柚がフフフと小さく微笑む。 「柚、トリック・オア・トリート……て言えばいいのか?」 柚の息が首筋に当たるのを海は、ハロウィンの悪戯だと思ったらしい。 「海くん? それは悪戯をする方の台詞ですよ?」 「そうか……オレはお菓子なんか持ってないな」 「私、手作りクッキーを焼いてきたんです。後で食べましょう」 「ああ」 パレードの観客をかき分けるように進む二人。 柚がポケットを触り……焦り始める。 「(あれ? クッキーが……あ、さっき三月ちゃんにあげたんだったっ!)」 後方を振り返る柚の目に三月が飛び込んでくる。 「(あ、三月ちゃん!)」 「あーん。うん、美味しい」 「クッキー残ってる?」と、聞こうとした柚の前で、丁度、最後の一枚を三月が食べたところであった……。この後、三月は、柚のため、家まで残りのクッキーを取りに行く羽目になった。 因みに、海と接近できた柚本人に少し感謝されていた、実弾を発射した人物は、祥子や秀幸が目を離した隙に、あろうことか大型飛空艇の銃座から足を滑らせ、上空から本日二度目で絶賛落下中だった。