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リアクション
警備員として働いていたゴスロリ服に黒猫のしっぽと猫耳を付けた姿のイリス・クェイン(いりす・くぇいん)と、とんがり帽子にローブ姿の魔女コスプレをしたフェルト・ウェイドナー(ふぇると・うぇいどなー)は、パレードの華々しさと人の多さにちょっと気圧されつつ、目の前に立つ見るからに柄の悪そうな不良の相手をしていた。
「あん? 何だ嬢ちゃん達。剥いちまうぞ!?」
不良の前には、怯える肥満の男の姿があり、コケた時についたのか、服には泥が見える。
周囲にはそんな様子を遠巻きに見つめる人垣が出来、丁度イリスとフェルト達はリングにいる感じになっている。
「あーら、カツアゲなんてやってると悪い霊がよってくるわよー」
「ハッ!! オレッちは新しいイカしたバイクを買うんだ。こんなオタク男に使われるより、金も幸せってもんだぜ!!」
不良はそう言い、周囲の人間にメンチを切る。
「何見てやがんだぁぁ!!」
「イリス……」
フェルトがイリスの腕を掴む。
「どうしたの? まさかあんなのが怖いっていうんじゃないでしょうね?」
「ううん。あんなのは怖くないけど、イリス……ボク、やっぱり人の多い場所は苦手だよ」
イリスに「あんなの」呼ばわりされた不良が、傍に倒れた男の腹を踏む。「オゥフ!」と声をあげる男。
「誰か、あんなのだぁぁ!!」
「しょうがないわね。少し、悪夢を見せてあげるわ」
イリスが腕を上げ、叫ぶ。
「アンデッド:レイス!!」
「あ!? ……な、何だ!?」
ゾクリとした悪寒を感じだす不良。
ネクロマンサーのイリスが呼んだ幽霊が彼の周りを囲む。
それを見ていた観客の中に、「あ、お化けだ!」という声があがる
「(これならヘタに力ずくで解決するよりハロウィンっぽいし、必要のない時は演出に使えそうだしね)」
してやったりの表情を見せるイリス。
だが、相手も伊達に不良をやっているわけではない。
「ヘッ……オカルト如きでビビってて不良が務まるかよ!!」
「あら……しつこいのね、あなた」
「当たり前だ! 今度はオレッちの必殺パンチを御見舞い……アガッ!?」
ゴンッと不良の頭にカボチャのジャック・オー・ランタンが当たる。
「だ、誰だ!?」
不良が見ると、フェルトがサイコキネシスでフワフワと会場に置かれたいたジャック・オー・ランタンを浮かべている。
「(あんまり注意とか得意じゃないけど、怖がらせるだけならボクのサイコキネシスで……)」
フワフワと漂うカボチャの頭。
「「「おおおおぉぉぉ!!」」」
殺伐としていたはずの喧嘩は、いつの間にか大道芸になり、観客がイリスとフェルトに拍手を送る。
「あはは……ど、どうも、ありがとうございます」
イリスが苦笑し、観衆に頭を下げる。
「チッ……喧嘩に拍手なんているか! 興が冷めた! オレっちはもう帰るぜ!!」
「あ、待つでゴザル!!」
倒れていた肥満体の男が不良の足を掴む。
「放せ、このデブ!!」
「離さないでゴザル! 絶対離さないでゴザル!! 夜勤明けで少し寝過ごしたものの、その財布には拙者が懸命に貯めた金銭が入っているのでゴザル!!」
「ああ! どうせ、変なフィギィアとか買うんだろうがぁ!!」
「ヌゥヲヲヲ!!」
肥満の男が立ち上がる。何かキレたようだ。
「貴殿、許さんでゴザル……!」
「あぁ、またやるのか!?」
「今こそ、通信教育で習った秘拳を見せてくれようぞ!」
二人の様子に、フェルトがイリスに駆け寄る。
「イリス……ボク達なんかより遥かに怖いよ、あの二人!!」
「……そうね。あまりしたくなかったけど、実力行使しましょうか?」
二人がそう話していると、二体の人形が人垣を飛び越えて不良の前に着地する。
「あぁ!? どいてろってん……ウオァッ!?」
一体の人形が蹴ろうとした不良の足を掴み、一本背負いの要領で、バタンと彼を地面に倒す。すると、もう一体が空高く舞い上がり、きりもみ式にキックの姿勢で落ちてくる。……不良の股間に。
―――キィィーーン!!
「うお……あれは痛いぞ?」
「今、体がVの字になったな」
動かなくなった不良の躯を前に、男性達がその威力に恐怖する中、サッと左右に割れた人垣から現れたのは、黒猫コスプレ衣装を着た衿栖であった。その胸には『一日署長』の襷がかかっている。
「イリスさん、フェルトさん。大丈夫ですか? TV中継の休み時間に、少し手こずられていたのでお手伝いさせて貰いましたよ?」
ニコリと笑う衿栖。
「はい……衿栖さん、ありがとうございました」
衿栖は人形を使ってダウンしている不良から財布を取り返し、肥満男に近づく。
「はい、お財布です……あら? ひょっとして、貴方、ファンのジョニーさんじゃ……」
「ウオオオォォォォーー!! マイハニー衿栖が、拙者の、こ、こんな近くに!!」
「……ど、どうも……」
引きつりつつも笑みは絶やさない衿栖。
「しかも黒猫コスとは……あ、握手して貰いたいでゴザル!! 1分ほど!!」
「えーと……まだ仕事中だから……1分は……」
困惑する衿栖の手をサッと掴むジョニー。
「本当に感謝するでゴザル!! あの蛮族相手に無駄な体力を使うところでゴザった!!」
「は、はぁ……」
興奮気味にまくし立てるジョニーに、観客から白い何かが飛び出してくる。
「にゃー!!」
「オゥ!?」
ジョニーを押し倒した白いソレは、獣の声をあげつつ、彼の顔を引っ掻く。
「うおぁぁぁ!? 止めるでゴザル!! マイエンジェル未散殿!!」
「未散さん! ストップ!!」
衿栖が鋭い声を出すと、白猫コスプレ姿の未散が振り返る。
「おいで」
衿栖の元に戻っていく未散が、その腕に抱かれる。
「大丈夫……敵じゃないのよ?」
「にゃぁ」
シンとなる観衆に気付いた衿栖がコホンと咳払いし、笑顔を振りまく。
「みなさーん! 悪人達は去りました! 引き続きパレードを楽しんでいってねー!」
「「「うおおおおぉぉぉーー!!」」」
「凄いわね」
「見事にシラけた空気を笑顔一つで戻す……あれが、アイドル……」
未散を連れて戻っていく衿栖の背中を、イリスとフェルトが呆然とした顔で見つめるのであった。
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