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君と僕らの野菜戦争

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君と僕らの野菜戦争
君と僕らの野菜戦争 君と僕らの野菜戦争

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 一方その頃、コマチ農園では。
 他の人たちに一歩先んじて野菜軍団に接触している者がおりました。
 ジャンバラ教導団からやってきたドラゴニュートのカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)たちです。
 本部テントには、大きなテーブルが備えられ、そのその上には彼が捕獲し調理したばかりの野菜料理が並んでいます。
「いかがかな、皇帝陛下。争うばかりでなく、この農園で取れる野菜の美味しさを再考してみては?」
 食事をしていたナポリオンが一息つくのを見計らって、カルキノスは口を開きます。
「トマトとナスは相性のいい取り合わせだと、俺の相棒も言っている。手を携えて農園を大きくし、世界を取った方がいいのでは? そのお膳立てなら喜んでするという者を何人も知っている」
「和平か。うむ、悪くない。悪くないが……」
「何か問題でも……?」
「意図はわかるし、この料理は美味かったが、実のところ同属を食べるのは少々気分が悪い。ナスとて同じだろう」
「他の種族の野菜なら死地に追いやってもいい、と?」
 やや皮肉げに言うカルキノスに、ナポリオンは自嘲気味に笑って。
「もう止まらんよ、この戦争はな。どちらか、あるいは両方が滅ぶまで」
「それはまた、何故?」
「みながそう望んでいるからだ。そして、世界を統べるのもたった一人と決まっている」
 突然、本部ハウスの裏口を開けて一人の青年が入ってきました。
 眼鏡に白衣をまとい、常に自信ありげな笑みを浮かべた彼は、秘密結社オリュンポスの大幹部を名乗るドクター・ハデス(どくたー・はです)です。 
ハデスは農園での野菜たちの騒動の噂を聞きつけ、ナポリオン皇帝の元には馳せ参じていたのです。
「ボナパルト皇帝よ、安心したまえ。この俺が協力するには、貴様の勝利は保障しよう」
 第七ハウスでは順調に野菜モンスターが量産されている、まだいくらでも戦争は続けられる、そう言ってハデスは不敵な笑みを浮かべるのです。
「ふん、お前か。この皇帝や野菜たちをたぶらかし、戦争を続けようとしているマッドサイエンティストは」
 カルキノスは半眼でハデスを見やります。
「たぶらかすとは心外だな。私はあくまで協力者だ。世界制服を目指す同士としてな」
「世迷言を」
「それにこの成長促進剤を作ったのは私ではない。残念ながらな。食うに困ったどこぞの貧乏錬金術師が野菜を食べたい一心で調合したものさ」
 ハデスは、フラスコの中でブクブク言っている成長促進剤を指して言います。
「その錬金術師はもはやどこかに逃げ去って行方不明だ。そいつの潜在意識――つまり世界制服をしたいという野心だな――が野菜モンスターに乗り移っているだけだ。私は、その成長剤を再調合して皇帝たちに分け与えただけだ」
「私とてどうやってここに来たのはも知らぬ。気がついたらここにいた」
 ナポリオンは言います。
「ウェリントンも同じだろう。最初から戦い続ける運命にあるのだ、我々は」
「そう言うだろうと思った。新型野菜兵器はすでに完成している」
 ハデスは、ハウスの幕をめくりました。
 その向こうには、すでに出来上がった巨大な合成野菜モンスターと、その部下たちであるモブモンスターたちが、今か今かと出番を待っています。
「さあ、では我々の戦いを始めようか。我々の栄光のために」
 ドクターは出来上がったばかりの巨大な合成野菜モンスターに号令をかけます。
 そいつは、頭はタマネギ、胴はカボチャ、足は大根、手はキュウリ、装備は長ネギブレードにトマトボム、その他スペシャルな特技がてんこ盛りという、ありったけの野菜を切り張りしたキメラも真っ青な大物です。
「おお……、これは凄い」
 ナポリオンはその威容に驚くばかりです。
 その時です。
「なるほど。またあんたが一枚噛んでいたってわけね」
「……なっ、なんだと?」
 硬く閉ざされていたはずのビニールハウスをこじ開けて、二人組みの女性が入ってきました。
 シャンバラ教導団のテクノクラートセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)とその相方のセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)です。
「悪ふざけはそこまでよ。ピザとパスタの素材を逃すわけないわ。覚悟しないさい」
 セレンフィリティは、ビシリとナポリオンを指差します。
「ふっ……、おのれこざかしい。返り討ちにしてくれるわ」
 返答したのはナポリオンではなく、ハデスでした。
 すでに悪の首領の口調で、彼は最終兵器に命じます。
 本来なら、ウェリントンを倒すために作られたモンスターですが、この際そんなことを言ってはいられません。
「さあ行け! 究極の合体野菜モンスター、ベジタリアンよ! 敵を全て粉砕せよ!」
 素敵な名前までつけてもらってご機嫌な合成モンスターは、身体を震わせ咆哮をあげます。
 なんと頼もしい強そうな動きなんでしょう。むしろもう勝ったというべきでしょう。
「いつもながら頭痛いわ。どうしてこんなの作るかな……」
 呆れ顔で見上げるセレアナに、セレンティフィは笑顔で返答します。
「運動の後のご飯はおいしいわよ。ピザとかパスタとかピザとかパスタとか」
「まさか、自分で作るつもりじゃないですよね?」
「そうだけど?」
 それはモンスターより恐ろしいかも、と口には出さないセレアナに、ハデスの合成野菜モンスターが襲いかかってきます。
「さっさとこいつ倒して、トマトもって帰ろう。パスタパスタ……」
 セレンティフィとセレアナはベジタリアンと戦い始めます。
「……というわけだ。どうする、ルカ? もう倒すしかないようだが」
 騒動が沸き起こる中、カルキノスは、テーブルの向かいに座りじっと話を聞いていたルカルカ・ルー(るかるか・るー)に視線をやる。
 ルカルカは、テーブルの上に残されたピザを見て小さくため息をつきました。
「ねえ、ナポリオン。あなた本当にそれでいいの? 運命に翻弄されてわけのわからないまま戦い続けているだけでしょう?」
「よいも悪いもない。私は野菜戦争をしないと生きていけない存在なのだ」
「その成長促成剤を作った錬金術師とやらは、今度探してふん縛ればいいとして……、あなた辛くないの、そう言う生き方?」
「戦うことに関して感情を抱いたことは、ないな。深く考えたことはないのだ」
「変わるつもりはないってこと……?」
「変化とは何か。それすら私にはわからない」
 真顔で言うナポリオン。
「なるほど、だから貴公はそれほどまでに残酷なのか」
 ルカルカたちの会話を遮って、横合いから口を挟んでくる者がいました。
 北海道出身の蒼空学園生風森 巽(かぜもり・たつみ)です。
 彼は、次々と迫りくる野菜モンスターをレーザーナギナタで切り裂きながら、このハウスまでやってきていたのです。
「貴公はやってはならぬことをやってしまった。それは、己の保身のために仲間の身を粗末にしたこと」
「何だと?」
「戦争だ。犠牲はいたし方がないだろう。だが、トウモロコシのあの扱いだけは許せん」
 ボルテージを上げて闘気を発する巽に、ナポリオンはくっくっくと笑みを漏らす。
「トウモロコシは弾けるのが仕事だ。ポンポンと盛大に散って花を添えたわ。彼らも本望だろう」
「やはり貴公の仕業だったか」
 道産子の巽は、トウモロコシにあんな扱いをした奴を許しては置けなかったのです。
「トウモロコシを……トウモロコシを粗末に扱った奴は貴公の仕業だったのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!」
「うぬっ、なんという殺気!」
「変っ身っ!」
 驚愕に目を見開くナポリオンの前で、巽は正義の味方に変身です。
「蒼い空からやってきて!トウモロコシの無念を晴らす者! 仮面ツァンダーソークー1!」
「面白い。ずいぶんと騒がしくなってきたわい」
 ナポリオンは、食事も途中に立ち上がります。
「ルカルカ殿、お主もだ。我々は決して分かり合えぬ。美味しいピザを振舞いたいなら、私を倒してこの身体を持っていくといい。お主のピザは不味くはないが、興味をそそらぬ」
「……そこまで言われたら、戦うしかないじゃない」
 ルカルカは、仕方ないという表情で立ち上がりました。
 残念ながら、野菜モンスターに和平は無理だったようです。後は決着をつけるだけでしょう。他の人たちに美味しいピザを食べてもらうために。
「ふははははっ! どちらが餌食になるか、試してくれよう!」
 ナポリオンは早速全身を震わせて攻撃してきます。
「トマトピューレにしてやるぜ!」
 巽も全力で受けて立ちます。
 ルカルカや巽、そしてナポリオンの間で激しい戦いが始まりました。
「うわぁ、向こうすごいことになってるじゃん」
 巽とナポリオンの戦いを横目で見ながら、セレンティフィは言います。
「こっちは終わったけど加勢したほうがいいのかな、あれ……」
 その彼女の言葉通り、合成モンスター・ベジタリアンは二人の猛攻を受けドオオンと地響きを立てて倒れました。
 戦闘描写がないほどベジタリアンが弱かったのではありません。
 セレンティフィたちが強すぎたのです。まあ、その所詮野菜ですし……。
「で、こっちの悪のマッドサイエンティストにも何かお見舞いしておいた方がいいと思うんだけど」
 セレアナは、ハデスをギロリと睨みました。
「ふふふ……。まあいい。こんなこともあるさ。今日のところはこの辺で勘弁しておいてやる」
 ハデスは、例によって煙幕と共に姿を消します。それはもう、あっという間です。
「さらば皇帝よ、そして正義の味方の面々よ。また会おう、ごきげんよう……フハハハハ!」
「あっ、待て!」
「追っても無駄よ」
 セレンティフィは諦めたように言って、ハウスの内部を見回しました。
「……。……これは?」
 彼女は散乱する野菜に紛れて転がっていたビンを発見します。
 どうやらハデスが合成モンスターを作るときに調合した成長促成剤の改良版のようです。
 それを少し取り出して手持ちの器具で成分を調べてみます。
「なるほど、こうなっているわけね。よく合成したわ、こんな薬。あいつ……悪党だけど頭はいいからなぁ……」
「何とかなりそうなのか?」
「このまま野菜モンスターの拡散を放っておくわけにはいかないし。中和剤でも作ってみるか……」
 セレンティフィは、トマト皇帝とルカルカたちの戦いを見やりながら言いました。こちらもまもなく決着がつきそうです。
「これで、事件も解決ね」
「食らえ! ツァンダーキィィィィック!」
「ぐはああああっっ!」
 巽の魔力をこめた全力のとび蹴りに、とうとうナポリオンも吹っ飛びます。
 それはもう、戦闘描写が必要ないくらいな圧倒的戦力でしょう。ルカルカと巽の攻撃は。
 そもそもこの二人が本気を出したら、いくら親玉とはいえ野菜モンスターごときでは相手になりません。
「最期に何か、言い残したことがあれば聞いてあげるわ」
 ルカルカは梟雄剣ヴァルザドーンを振り上げ、ナポリオンに尋ねます。少し残念そうに。
「くくく……。天下を見れなかったのは残念だが、戦いの中で滅ぶなら本望」
「せいぜい、あの世でトウモロコシに詫びるがいい」
 と巽は留めをさします。
「楽しかったぞ、人間ども。また会おう、次は食卓で……」
 ルカルカの剣が、ナポリオンを真っ二つに切り裂きました。
 トマト皇帝の最期です。彼はそのままドゥと倒れます。
「……そうか、これが辛いということか……」
 わずかにそんな声が漏れたような気がしました。
 表皮は硬かったのか、形は崩れずにすんだようです。
 真っ赤なトマトは、実がプリプリと詰まっており汁は芳醇に滴ってとても美味しそうです。
 ルカルカは、ナポリオンの残した巨大な実を抱きかかえるように持ち上げ、カルキノスに振り返ります。
「さ、帰ろっか。みんなが待ってるわ」
「ついでにタマネギもな」
 彼女らの仕事はまだ残っているようです。
 さあ、調理するとしましょうか……。