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第一章 古本まつりに向けて

 蒼空学園の一室。山葉 涼司(やまは・りょうじ)を中心に集まった生徒達が話し合いを重ねていた。
 図書館から盗まれた盗まれた蔵書の回収が目的だったが、重い任務とは裏腹に明るいペースでポンポンと進む。
「とりあえずサイコメトリを使って、図書館で情報収集してみたいの」
 リネン・エルフト(りねん・えるふと)の提案に、親友の小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)も「さんせーい!」と手を挙げた。
「まずは現場。何かきっと手がかりが得られるはずよ」
 山葉を始め反対意見は出なかった。リネンと美羽を中心に図書館を調査することが決まる。
「蔵書と言ってもラベリングはされてないんだな……」
 風森 巽(かぜもり・たつみ)が配られたリストを注視しながら質問する。
「会場で売られるのは間違いないのか?」
 山葉は「いや」と首を振る。
「情報が間違っている可能性もある」
 源 鉄心(みなもと・てっしん)が「そうだろうな」とうなずく。
「見る目が必要ってわけか。俺のトレジャーセンス財宝鑑定の出番だぜ」
「あら、博識ホークアイだって役に立つはずよ」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)も自信ありげにニッコリ笑う。
「それにしても涼司も大変ね。最近おでこが広くなってきたんじゃない?」
 視線が山葉の額に集中する。「言われてみれば」とか「全体的に薄くなってる?」とヒソヒソ声が聞こえてくる。
「そ、そんな、涼司くん、大丈夫ですよ。少しくらいハゲたって……」
 とっさにフォローした火村 加夜(ひむら・かや)だったが、涼司の心を落ち着かせることはできなかった。
「やっぱりそうなのか?」と窓ガラスに映った自分の顔を見つめる。
「まあ、山葉校長の負担と毛根へのダメージを軽くするためにも、俺達が頑張る他ないだろうねえ」
 生徒会長の東條 カガチ(とうじょう・かがち)が言うと、副会長の美羽も再び「さんせーい!」と声を上げる。
「肝心の本を取り戻す手段じゃが、力ずく……もありなのか?」
 ルファン・グルーガ(るふぁん・ぐるーが)は脇に抱えた三節棍をチラッと見せる。黒崎 竜斗(くろさき・りゅうと)も同意する。
「一番手っ取り早いぜ。話し合いで解決したいけど、犯人相手にそうは行かないよなぁ」
「それは相手が犯人の場合だな。持っている奴が盗んだ本人とは限らない。第三者に暴力を振るったら一大事になるだろうね」
 樹月 刀真(きづき・とうま)の見解に、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が続く。
「まずは話し合いね。盗まれたものであることを説明して返してもらう頼む。場合によっては買い取る必要もあるだろうけど」
 パートナーのセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が、そっとセレンフィリティの額に手を当てる。
「何よ?」
「“壊し屋セレン”がいつになく真面目なコト言うじゃない。熱でもあるのかと……」
「あたしだって、やる時はやるの」
 セレアナは『どこまで持つか……』と思いながらも手を離した。
「そうそう……金銭面の補償どうなるの?」
 セレンフィリティの問いに、皆がもっともだと山葉を見る。が、別の所から声があがる。
「金額にもよるけれども、自分の財布から負担して購入することもできるが……」
 大岡 永谷(おおおか・とと)が発言すると、「おお!」とか「太っ腹」と声がアチコチからかかる。
 しかし大多数の意見としてはクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)が代弁した。
「必要経費はやっぱり負担してもらいたいです。まさか払えないなんて……言いませんよね」
「ふむ……」
 山葉はしばし考え込んで口を開く。
「バナナはおやつに入らないように、おやつは経費には入らないが、本を買い取る以外にどんな経費がかかると思う?」
「人海戦術のローラー作戦はどう? 一番確実だと思うけど」
 グラルダ・アマティー(ぐらるだ・あまてぃー)の提案に、クロセルも「そうそう」とうなずく。
 実は陰でクロセルは、どさくさに紛れて雪だるま王国のイメージアップを狙っていた。人海戦術を名目にファンを集め、協力してくれたお礼として雪だるま王国特製グッズ“雪だるまクッション”を配付する。もちろん経費は山葉に丸投げする。つまりお金をかけずに、雪だるま王国の知名度を上げようとしていたのだ。
「それは難しいと思うわ」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が反論する。
「人手を頼んで解決するなら、こんな風に集まらなくても良いはず。第一、見る目が無い人ばかりじゃ、良いところで偽物をつかまされるのがオチよ」
 皇彼方(はなぶさ・かなた)と共に参加していたテティス・レジャ(ててぃす・れじゃ)も付け加える。
「既に噂が広まりつつあるの。これ以上、口の端に上れば蔵書が出てこない可能性もあるわ」  
 結局、人手を頼むのは却下された。経費についても山葉が「余計なものは認めない」と判断を下す。
「でも……」とクロセルが発言しかけると、山葉の睨みが彼に向けられる。

 ── くっ、睨んできたか お、俺だって雪だるま王国の騎士団長なんだ! 負けてられるか! ──

「はい……分かりました。頑張ります」
 内心とは裏腹に小さく肩をすぼめてうなだれた。
「それじゃあ、トレジャーセンスなり博識なりを持ってる人を中心にグループに分かれようよぉ。それで密に連絡を取り合うようにしたいねえ」
 東條カガチの案に沿って3〜4人程度のグループが分けられる。漏れの無いように巡回する場所や時間を定める。
「まぁ、活躍してくれた人には、何らかのお礼は考えてる」
 最後に発せられた山葉の一言で、雰囲気は一気に明るくなる。
 クロセルは「よっし」と小さく、風森巽は「やってやるぜ!」と大きくガッツポーズをした。

 一通りの話し合いが終わったところで解散。部屋を飛び出したクロセルがどこかに電話をかける。
「えっ! キャンセルできない! じゃあ……」
 経費で落とすことを見越して発注した雪だるまクッションは、全てクロセルが買い取ることになった。
「あうぅ……どうしよう……」
 そんなクロセルの横を通り過ぎたトゥトゥ・アンクアメン(とぅとぅ・あんくあめん)がマスターの犬養 進一(いぬかい・しんいち)に尋ねる。
「協力するのは良いことであろうが、朕達にはあまり関係ないのではないか? なぜシンイチはそんなに力が入っているのだ?」
「そりゃまぁ、何だな。世のため人のために力を貸すのは、俺の信条なんだぜ」
「そうか! それは知らなかった。酒ばかり飲んで、ぐーたらしてるのが好きだとばかり思っておったが、うむ、見直したぞ」
 無邪気なトゥトゥの瞳に、進一は思わず目をそらす。それもそのはず彼の思惑は全く異なっていたからだ。

 ── 蒼空学園で蔵書が盗まれたなんてことが公になったら、イルミンスールの蔵書をパク……
    いや、長く借りている俺に火の粉がかかってくるはず さっさと解決させるに限るな ──

「ところでシンイチ。余も好きな本を買いたいが、それもケーヒとやらで落ちるのだろうな。よろしく頼むぞ」
 経費の意味すら知らないトゥトゥのまたしても無邪気な言葉だったが、今度はしっかり首を振った。
「経費では落ちないぜ」
「そうなのか?」
「大事なことだから二回言うぞ、経費では落・ち・な・い。わかったか?」
「わかった。ケーヒがないならケーキを食べれば良いだろ?」