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【重層世界のフェアリーテイル】魔術師達の夜宴(後編)

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【重層世界のフェアリーテイル】魔術師達の夜宴(後編)

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 レイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)は【サイコキネシス】で魔術師の体を浮かせ、直後に【奈落の鉄鎖】で地面に叩きつける、という攻撃を繰り返した。手足をバタつかせていた魔術師は、大地が相手では自動防御術式も作動せず、二〜三度繰り返したところで前歯を全部折った血だらけの顔のまま、気絶した。
 レイチェルは拳を握り締めた。本来ならげしげしとどついてやりたかったが、自動防御術式には意味がないし、気絶した相手には気分が悪い。
「……これぐらいで勘弁してあげましょう」
 讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)は、まず【アボミネーション】を使った。魔術師はやや怯んだものの、効果はあまりなかったらしく、頭上から雷が落ちてきた。咄嗟に大久保 泰輔が傍に召喚していなかったら、まともに受けていただろう。
「祟るぞ!」
 顕仁は【爆炎波】を使った。魔術師はしかし、多少のダメージを受けたものの、逆に炎の塊を撃ち出してくる。それを【氷術】で一つ一つ凍らせ距離を縮めると、最後に【奈落の鉄鎖】で地面に釘付けにした。
 魔術師は膝をついたまま立ち上がれないが、なお顕仁を睨み付ける。動けなくとも、魔法は使える。
「よい目じゃ」
 顕仁はにやりとし、泰輔から受け取った接着剤を魔術師の口に押し付けた。
「……む。しもうた」
 自分の手もべとべとになってしまった。次第に固まり、動かなくなる。皮膚が貼りついてしまった。
「泰輔に剥離剤を貰わねばな」
 魔術師もまた口を開けなくなり、呆然としている。
 二人がやられ、魔術師の仲間たちはその場から逃げた。真正面からぶつかっては勝てない。体勢を整え、脇から攻めるつもりだった。
 ところが遺跡を一歩出ると、そこに卵が飛んできた。
 二歩進むと、泥だらけの水たまりがあった。心なしか臭いが、多分気のせいだと魔術師たちは思うことにした。
 三歩目には落とし穴があると分かったので避けたが、その先が凍っていて豪快に転んだ。
 どれも子供の悪戯に等しかったが、それだけに魔術師たちは苛立った。そこをアレクセイ・ヴァングライドや麗華・リンクスらに攻撃され、一網打尽となった。
「いい仕事をしました」
 フランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)は木の上で呟いた。こんな戦闘さっさと終わらせて、壊してしまった魔法協会の物品を直さなきゃ、と彼は思っていた。


「魔法少女ヤエ 外伝第六話『決戦第二世界! 古代遺跡に不死鳥舞う!』」
 叫びながらその場に飛び込んできたのは、ブラック ゴースト(ぶらっく・ごーすと)に跨った永倉 八重(ながくら・やえ)だ。
 八重はブラック ゴーストから飛び降りると、大太刀【紅桜】を抜き放った。
「私の魔力よ! 炎よ! もっと…もっと熱く輝け!!」
 八重の魔力が全て紅桜へと集中する。
 しかし彼女の周囲に霧が立ち込め、たちまち何も見えなくなる。
「何これ!?」
 それは黒井 暦(くろい・こよみ)の【アシッドミスト】だった。魔術師たちは何が起きたのかとざわめき、それが自然の物でないことに気づくや、緊張が走った。
 イブリスの攻撃に加え、【アシッドミスト】でダメージを受けたフェニックスは姿を消していた。
 夜川 雪(よるかわ・せつ)を「魔鎧」として纏った刹姫・ナイトリバー(さき・ないとりばー)は、雪の【ブラインドナイブス】を使って、イブリスの斜め後方から「処刑人の剣」を振り下ろした。
 しかし剣は弾き返され、イブリスはゆっくりと振り返った。
「如何なるつもりぞ?」
「世界を統べるというのは下らないわ。そこにある『闇』と『夜』こそが、私や貴方自身なのだから。今宵の月は紅い。その偽りの『闇』、私が晴らしてあげるわ」
「戯言を。闇は全てを承知している。貴様の浅はかな考えも、背信も」
『多分あれだよな。裏切りはとっくに知ってたとか、そういうことだよな』
 漆黒のマントと、長手袋、ロングブーツ姿の雪は勝手に翻訳し、よしと頷いた。『何とか分かる』
「貴方が私の言葉を受け入れないというならば、力ずくで教えてあげるわ。夜とは何か、闇とは何かをね!」
『いやいや、早すぎだろ、結論! いいけど!』
 言うなり、刹姫は【アルティマ・トゥーレ】で攻撃をする。「処刑人の剣」から冷気が放たれる。しかし剣は防御術式が弾き飛ばされ、地面に突き刺さってしまう。
「漆黒たる者、黒井暦が命じる。漂いし冷気の精よ、古の盟約に従い全てを凍てつかせよ。永久なる凍気の調べ! ブリザードリィ・フォース・オブ・エターナル!」
 同時に暦の【氷術】が刹姫諸共イブリスに襲い掛かる。
『おい、レキ! 寒ぃって!』
 コンマ何秒かの差で【エンデュア】を使ったが、ノーダメージというわけにはいかず、雪はひたすら冷気に耐えた。
「うぬ!!」
 イブリスが杖を突き上げ、振り下ろした。雷撃が暦の体を貫く。霧で伝導率が高くなっている分、衝撃も大きかった。目を見開き、暦は倒れた。
「ヨミ!」
『この!』
 刹姫が暦に駆け寄るや、雪が【サイコキネシス】で「処刑人の剣」を浮かし、イブリスへ向け飛ばした。自動防御術式が剣を再び跳ね飛ばし、止めを刺すべく杖を構えたが、既に刹姫たちの姿はなく、霧も次第に薄くなり始めていた。


 刹姫たちがイブリスに襲い掛かっているちょうどその時、じっと戦いの様子を伺っていたフェルト・ウェイドナー(ふぇると・うぇいどなー)は、クラウン・フェイス(くらうん・ふぇいす)とイリス・クェインにそれぞれ合図を送った。
 クラウンは小型飛空艇ヘリファルテを始動させ、合図を待つ。
 イリスはザカコ・グーメルに目配せをした。ザカコはメイザースにそっと話しかける。
「自分は貴女の敵ではありません。今、お助けします。その代わり、一つだけお願いを聞いて欲しいのですが……良ければこの後の質問で頷いて下さい」
 メイザースは戸惑ったように、ザカコへ顔を向けた。
「目隠しはきつくありませんか?」
「――」
「対象より敵対の意思を確認」
「アールマハト」が口を開いた。「――殲滅します」
【天のいかずち】がザカコを襲う。
「くっ!!」
 咄嗟の【エンデュア】で辛うじて堪えるが、「アールマハト」はそのまま【凍てつく炎】をザカコへ向ける。ザカコはイリスへちょいちょいと指を向け、後ろへ後ろへと距離を取る。「アールマハト」はそのままザカコを追った。
 イリスはその隙にメイザースの手を取った。
「いくわよ」
 だが、メイザースは動かなかった。
「どうしたの? 動けないの?」
「やはりな」
 応えたのは、レミリア・スウェッソンだ。
 メイザースは硬直した。ややあってばきり、と音がして拘束具が割れる。自分で猿轡を外し、目隠しを取ると、大きく、ふうと息を吐いた。
「苦しかったわ」
「……メイ」
 そして、その声の主を見た。