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取り憑かれしモノを救え―調査の章―

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●取り憑かれたミルファ2

 まるでいつもの散歩道を散歩するような、そんな様子でミルファは森の中を歩く。
 道なき道をただ、ひたすら真っ直ぐに。
 そんな様子を茂みに隠れながら伺っていた、ジガン・シールダーズ(じがん・しーるだーず)は機会を待つ。
「剣……意思……?」
「どうした?」
 纏う鎧、ザムド・ヒュッケバイン(ざむど・ひゅっけばいん)の声にジガンは返事をした。
「魂…………同居……」
「へえ、つまり剣の怨念はあの女の精神と同居してるってことか」
「是……」
「まあ、何であれ最初から戦うって決まってるけどな」
 そう言って、ジガンは茂みから飛び出した。
 ただ、戦う。
 ミルファはいまだジガンに気付いておらずゆっくりとした足取りで歩いていた。
 [クレセントアクス]を肩に担ぎ、その重さを感じさせない機敏な動きで、ジガンはミルファの背中に戦斧を突き立てた。
 衣服を切り裂き、傷のない真っ白な肌に戦斧の刃が埋まっていく。
「……痛いじゃないか」
 流れ出る血を手のひらにつけて遊びながら、ミルファはジガンにようやっと気付いた。
「アギャギャギャ!! おもしれぇ!」
 戦斧についたミルファの血を振り払い、改めてジガンはミルファと相対した。
「てめえのその剣、俺が貰ってやるよ!」
「くっ……」
 ジガンの物言いに、ミルファはおかしそうに体を折った。
「ククク、ハハハ! ボクが選んでないやつにこの剣が扱えると思うのかい! アハハハハハ!!」
 ざくざくっと剣を地面に突き刺しながら、ミルファは笑い続ける。
「面白い、面白いね、君。奇襲はよくあるけど、剣を奪おうだなんて考える阿呆は始めてみたよ。アハハ!」
 目じりに浮かんだ涙を人差し指で拭いながら、ミルファは持っている剣をジガンに投げて渡す。
「耐えられるかな、君に」
「舐めやがって」
 ジガンは地面に転がった剣を拾い上げてすぐ逃げる算段だった。
「ア、グ……な、なんだ……」
 持った瞬間、ジガンに流れ込む、幾多の怨嗟。
 負の感情の集大成。そう言っても過言ではない。
「あーあ、ダメだねえ、君じゃ話にならないよ」
 ぜえぜえと肩で息をし始めたジガンに、ミルファは呆れながら言う。
「な、んだ、と……」
 額に浮かぶ玉のような汗を拭いもせず、ミルファを睨み付ける。
「だって、ボクが、君に、その剣を使わせたくないから」
「主……剣……離……」
「ほらほら、君を守ってる魔鎧の言うとおりにした方がいいよ?」
 ミルファはからかう。
「ちいっ」
 拾った剣を、ジガンは最後の抵抗とばかりに、目一杯遠くへ放り投げた。
 怨嗟の声をそれで聞こえなくなり、重圧からも開放された。
「そんじゃ、てめえを認めさせるまでだな」
 戦斧を構えなおし、ジガンはミルファと相対しなおす。
「全く……物は大事に扱うものだよ」
 ミルファの前に広がる魔法陣。ジガンの知らない術式の形態だった。
「少し遊んでおいて。取ってくるから」
 目標は、ジガンの後ろ、つかず離れず、邪魔をせずといった距離で様子を見ていた、エメト・アキシオン(えめと・あきしおん)だ。
「ますたー♪」
 場違いなまでの陽気な声をあげ、エメトはミルファの魅了の術式に呆気なく引っかかってしまった。
「ますたぁ♪ 死んでくださいですぅ♪」
 武器を構え、エメトはジガンに向かってくる。
 しかし、ジガンにはそのエメトの行動がいつもどおりにしか見えなかった。
 だから、
「邪魔だ」
 一蹴。パートナーには違いないので、手加減はしているが、纏わりつく小虫を払うように、エメトは木に叩きつけられて気を失った。
「全く酷い男だね」
 ジガンの真後ろ、息を吹きかけるように囁くミルファの声。
 いつのまにか後ろを取られていた。
 ジガンの本能が今更ながらこいつは危険だと、警鐘を打っている。
 振り向く。吐息のかかる距離にミルファがいた。
 慌ててジガンは距離を取った。そして戦意を捨てた。
「逃げるのかい。妥当だよね」
「無理はしない主義だからな」
「戦闘狂かと思ったら、意外にリアリスト。まあ、命は大事にしないとね。バイバイ。また強くなったら相手してあげるよ」
 その声を背中で聞きながらジガンは撤退する。途中吹き飛ばしたエメトも回収してその場から離れた。
 ノウェム・グラント(のうぇむ・ぐらんと)に報告しないとと、ジガンは心中で舌打ちした。
 こいつは自分の手に負えるものではなかった。