First Previous |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
15 |
Next Last
リアクション
第二章 地獄のクッキングファイト 5
「それでは、まずは修行の成果からお見せしましょう!」
自信ありげな笑顔でそう言ったのは真田 大助(さなだ・たいすけ)。
今回は父である真田 幸村(さなだ・ゆきむら) 、そして母である柳玄 氷藍(りゅうげん・ひょうらん)との家族チームでの参戦である。
「うむ、しかし料理の方はいいのか?」
幸村の問いに、大輔はにこやかに笑った。
「心配ご無用です。下準備は済ませてありますし、後は全てひと手間でできるものばかりですから」
「そうか、ならいいが」
話を一段落させて、相手を捜す三人。
やがて、三人の目に一組の男女の参加者の姿が映った。
それを見て、大助がこんなことを言い出す。
「父上、母上」
「ん?」
「命がけの戦であればそうも言っていられませんが、これはあくまで尋常な試合ですから、三対二で数の優位にものを言わせるのではなく、二対二で戦いたいと思います」
なるほど、彼の言うことももっともである。
氷藍と幸村は一度顔を見合わせ、やがて幸村が一度大きく頷いた。
「さすがは俺の息子だ。ならば、今回は俺は手を出さずにおくとしよう」
「よし、そうと決まれば行くぞ、大助!」
「はい、母上!」
一方。
その二人……イヴェットとマラクも、こちらに向かってくる氷藍たちの姿を視認していた。
「マラク、作戦はわかってるわね?」
「もちろん。僕だってあんまり痛いのは嫌だからね」
そう言葉を交わし、迎撃態勢をとる。
相手の武器や戦術はまだわからないが、それが何であれ、近づかれるとこちらは危険だ。
だとすれば、間合いを取って戦うしかない、という作戦だったのだが。
「はあっ!」
イヴェットたちにとって不幸なことに、氷藍の得物は弓だった。
距離を置いたままでも文字通り矢継ぎ早に射かけてくる氷藍に対し、なかなかうまい反撃ができない。
かといって、そちらに気を取られすぎると、二刀を構え、軽快な動きで飛び込んでこようとする大助の接近を許しかねない。
結果、イヴェットはサイコキネシスで大助を攻撃、もしくは牽制する役目に追われ、マラクはそのサポートに専念する以外になくなる。
結局、戦いは終止氷藍らが押し気味に進め、そのまま押し切る形で決着した。
「……で、料理は何を作るつもりなんだ?」
イヴェットたちを伴って戻った後、氷藍は大助にそう尋ねてみた。
「医食同源です。僕の漢方の知識を活かした料理を用意しました」
そう言いながら彼が取り出したのは……地竜、つまり……ミミズであった。
「!?」
あまりのことに真っ青になる氷藍。
「氷藍殿、大助の調理中は顔を背ける事をお勧め致しますぞ」
「あ、ああ……」
真っ青なまま明後日を向く氷藍をよそに、大助は着々と調理を進めていく。
「これをこのように他の食材と合わせまして……パンに挟めば、漢方サンドイッチの完成です!」
自信満々の大助。幸か不幸か、この調理風景はイヴェットたちには見えていない。
「さらに、以前母上が言っていたように、この秋・冬が旬の食材を使って、ミックスジュースを作りましょう」
そう言いながら、ミキサーに放り込んでいくのは……白菜、みかん、大根、イチジク。
そのあたりまでならまだわからなくもないのだが、さらに椎茸が入り、里芋が入り、果ては生のままの牡蛎やアンコウの身などという海産物が入るに至って、完全に得体の知れないものと化すことが確定した。
ところが、大助自身はこれが健康にいいということに何の疑問も抱かず、牛乳をなみなみと注いでミキサーをスタートさせ、明らかに危険そうなどろりとした液体を作り出す。
「では、早速あのお二方に食べていただくとしましょう」
楽しそうに料理を運んでいく大助の背中を見送りながら、幸村はアレを食べさせられる二人が無事であることを祈った。
もちろん、その祈りが届かなかったことはいうまでもない。
「オリュンポスの騎士……じゃなかった、オリュンポスのサンタ、アルテミス、参ります!」
ミニスカサンタ衣装を身に纏い、恥ずかしそうに剣を構えるのはアルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)。
そしてその構えられている剣こそ、オリュンポス期待の新戦力、聖剣勇者 カリバーン(せいけんゆうしゃ・かりばーん)であったが……カリバーンにもクリスマスツリーのような電飾や飾り付けがなされ、先端には特大の星が輝いている。
一体、どうしてこんなことになったのかというと。
実は、それもこれも全て「料理のテーマがクリスマスだから」という咲耶のゴリ押しによるものだった。
この辺り、やはり血は争えないのか、ハデスがいると至極まともなツッコミ役として機能する咲耶も、そのハデスがいなくなると空回りして暴走を始めるようである。
一方、そのアルテミスと対峙するのは、エスニックな巫女装束のような姿になった魔鎧のマリアベルを纏ったセアラであった。
彼の表情が今ひとつ晴れないのは……先ほどリリトを追いかけている間に、マリアベルが料理を完成させてしまっていたから。
そして、わざと負けるというのが無礼にあたる以上、対戦相手には犠牲になってもらわなければならない、ということへの心苦しさからくるものである。
「いざ、参ります!」
華麗な動きで先手を取って切り掛かるセアラの攻撃を、アルテミスはカリバーンを用いて弾き返す。
そこでいったんセアラが下がると、今度は間合いを取らせたくないアルテミスが仕掛け、それをセアラが受け流す形となる。
ところが、さらにセアラが間合いを取り、マリアベルの能力を活かした魔法攻撃メインに切り替えると、魔法への対処が不得手なアルテミスにはなす術がなかった。
「これでっ!」
セアラのサンダーブラストが、アルテミスの構えたカリバーンに直撃する。
「うおおおおおおっ!?」
「きゃあああああっ!!」
結果、稲妻が二人をまとめて貫く形となり、カリバーンは剣の姿のまま意識を失い、アルテミスも見事に戦闘継続不能となってしまったのであった。
「わたくしたちの勝ちですわね」
勝負がついたのを見届けて、マリアベルが人型に戻り、作っておいた料理を運んでくる。
「さあ、どれでもお好きなものを召し上がってくださいな」
差し出されたお皿に載っているのは、おいしそうなミートパイやキッシュの数々。
見た目もにおいも全く問題ないのだが……なぜか、セアラがこちらを見ないようにしているのが気にかかる。
ともあれ、アルテミスはその中から小さめのミートパイを一つ選び、おそるおそる手にとって、口へ運んだ……と、その瞬間。
口の中で、そのミートパイが爆発した。
いや、本当にコメディ時空でよかったというか、何と言うか。
「そのキレイな顔をフッ飛ばしてやる!」とはならず、アルテミスは口から黒煙を吐いて気絶する程度ですんだ。
しかし、ここまで直接的に物理ダメージを与える料理が他にあっただろうか、
そもそもどうして料理が、それも食べられたタイミングを見計らったかのように爆発するのか。
疑問に思う方も多いだろうが、その理由は一言で説明できてしまう。
つまり、「爆発するから、爆発する」のだ。それ以上の理由などない。
「ど、どうなさったのですか!? しっかりなさってくださいませ」
何が起こったのかわからず、おろおろしながらアルテミスの身体を揺さぶるマリアベル。
しかしアルテミスの意識が戻ることはなく、返事の代わりに再び黒煙が吐き出されただけだった。
First Previous |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
15 |
Next Last