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リアクション
第二章 地獄のクッキングファイト 3
ところで、小谷友美(こたに・ともみ)はどうなったかというと。
「あたし、参上! トモミンだか何だか知らないけど、あたしがあんたを優勝させてあげるわ!」
「あ、ささらさんに頼まれて護衛に来ました。よろしくお願いします」
友美の恋人である獅子神 ささら(ししがみ・ささら)に頼まれて、というよりうまいことそそのかされて助っ人に来たのは、山本 ミナギ(やまもと・みなぎ)と飛騨 直斗(ひだ・なおと)。
さらに、お世辞にも戦闘が強いとは言えない友美を心配して駆けつけてきた
小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)とコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)もそこに加わる。
「私たちも手伝うから、できるだけトモミン先生はお料理に専念してね?」
こうして、小谷チームは五人という大所帯になったのであるが……最大の問題点は、寄せ集めチームのためにチーム内での方針が共有できていない、という点にあった。
「よし、守りは任せた! あたしが攻撃するよ!!」
残りの三人と配下のヤンキーを残し、一人獲物を物色するミナギ。
「ちょ、ちょっと待って! バトルロイヤルだから、あまり目立たない方がいいんじゃ……」
美羽の言葉はまさに当を得ていた。
とにかく予選突破の条件はあくまで「最後の四チームに残ること」であって、撃破数で勝ち抜けといった要素もないので、無理して戦うメリットはないのである。
それに、美羽にしてみれば、友美を傷つけたくないのはもちろんだが、できれば相手も傷つけたくない。
しかし、「そんなことより自分が主人公として目立ちたい」ミナギはもちろん、「守り抜くのが最優先ながら、やっぱりカッコいいところを見せたい」直斗にしても、こっそり隠れて生き残るような戦術はあまり歓迎できるものではなかったのだ。
「大丈夫、あんたも守りの方よろしく! 」
美羽の話になど全く聞く耳を持たず、スプレーショットでいきなり手近な相手に仕掛けるミナギ……で、あったが。
「ほう、私に挑むというのか……面白い!」
よりにもよって、仕掛けた相手が織田 信長(おだ・のぶなが)だったからさあ大変、である。
同じ魔銃士どうし、互いに華麗に相手の攻撃をかわしつつ撃ち合うも、なかなかうまく一撃が当たらない。
「この、ちょこまかと! 主人公ステップを使っていいのは主人公たるあたしだけよっ!」
「……で、あるか」
ミナギの言葉に、信長がにやりと笑う。
そこで、ミナギは初めて気づいた。
撃ち合いながら、いつの間にか信長が間合いを詰めてきていたことに。
「げっ、ヤバ……っ!?」
ミナギは白兵戦の心得は乏しく、帯刀している信長に刀の間合いまで詰められてはなす術がなくなる。
そう考えて慌てて間合いを取ろうとした瞬間……つまり、離れることに意識が向いて、移動が直線的になったその瞬間。
不意に、強烈な光がミナギの目を焼いた。
「な……っ!?」
混乱するミナギに向かって、信長は一直線にダッシュし……ミナギの口に、七色に輝くおにぎりを押し込んだ。
「もが……が……」
じたばたと抵抗していたのが次第に弱々しくなり、二丁の銃が手からするりと落ちる。
そして、そのおにぎりを完全に飲み込まされると同時に、すっかりうつろな目になったミナギは膝からがくりと崩れ落ち、倒れてそのまま動かなくなった。
その様子を、桜葉 忍(さくらば・しのぶ)は複雑な表情で見つめていた。
確かに信長の料理はお世辞にもおいしくはない……というか、一言で言えばマズい。
だが、それはあくまで「常識的なレベルでの」マズさであって、食べた人間をノックアウトできるような類のものではないことは、彼女の名誉の為にも追記しておく。
では、あの虹色おにぎりは誰の手によるものか、というと。
「さすが信長さん! ……でも、その人起きてこなくなっちゃったね」
忍の隣で信長を応援している東峰院 香奈(とうほういん・かな)が、あのおにぎりを作った張本人であった。
(あれはなぁ……食べてしまうと地獄を見ること間違いなし、トラウマ確定だからなぁ……)
これもどういう理屈なのかはさっぱりわからないが、彼女が炊き上げたお米はなぜか不思議な虹色の輝きを放つのである――普通の米と普通の水を使い、普通に炊き上げたのにも関わらず。
その味は「マズい」の限界の壁を三枚くらいぶち破ったような感じで、食べると頭の中で大爆発が起こったような感じになって、そのまま倒れてしまうというとんでもないシロモノなのである。
だが、香奈の実力はそんなものではなかった。
「なんじゃ、あのおにぎり一つでトドメになってしまったのか。メインディッシュは別に用意してあるというに」
残念そうにため息をつく信長。
あのおにぎり一つでも十分リーサルウェポンだというのに、それを超えるメインディッシュとは一体何か?
その正体は、香奈の前に置かれたものが物語っていた。
おにぎり同様、炊き上がりから虹色に輝くご飯。
よせばいいのに自分で作ってしまったケチャップ。とろけるような舌触りを通り越して、舌そのものがとろけそうな危険なマグマ感である。
そして、砂糖やクリーム、マヨネーズに加え、光る種モミと、その上さらに秘密の隠し味まで入ってしまった卵。
これらの材料から導きだされる答えは一つ……オムライスである。
ただのおにぎり、というかご飯の時点でアレなのに、さらにアレな要素が二つも加わる地獄のトライアングルアタック。
ここまで来ると、ただのノックダウンですめば御の字、というところであろうか。
「……まあよい。それなら次はおにぎりなしで倒すまでじゃ」
そういうと、信長は不敵な笑みを浮かべて……当然のごとく、直斗に目をつけた。
「ああ、だから言ったのに……」
頭を抱える美羽だが、今さらもうどうにもならない。
「さあ、行くぞ!!」
そう叫ぶや、遠距離からの連続射撃を叩き込む信長。
あっという間にミナギの残したヤンキー軍団が吹っ飛ばされるが……しかし、直斗は動かず、耐え切った。
「ほう」
「へっ……『受けの直斗』の名は伊達じゃねェ!」
攻めよりも防御に天性の才を発揮する直斗。その直斗が守りに徹しているのだから、これを打ち崩すのは容易ではない。
「ならばどうする? 予選が終わるまでそうして守りに徹しているつもりか!」
いかな直斗とはいえ、全ての攻撃を完全にノーダメージで止めているわけではない。
このまま守り続けていてもジリ貧になり、いずれは勝負をかけてくるしかなくなる……と、そういう読みだったのだが。
「……っく!」
不意に生じた強烈な眠気……いや、意識を持っていかれそうになる感覚に、さすがの信長も足元がふらつく。
「何奴じゃ!」
辺りを見回すと、鋭い視線を向けているコハクと目が合った。
「ふん、ならばお前から……!?」
信長が、コハクの方に銃を向けた、まさにその時。
「ごめんね、ちょっとだけ眠ってて!」
死角からゴッドスピードとバーストダッシュの併用で突撃してきた美羽が、飛び込み様に機晶スタンガンを押し当ててきた。
「……がっ……!」
先ほどのヒプノシスの影響が残っているところにこれを受けては、信長といえどひとたまりもなかった。
信長が意識を失ったのを見届けて、直斗に伴われた友美が近づいてくる。
「さ、トモミン先生」
「ええ」
友美の手によって口に「握りスシのタルト」が押し込まれた辺りで、結界の影響もあって信長が意識を取り戻した……が。
「…………!?」
口の中のタルトの味に目を白黒させた後、今度こそ完全に気絶したのであった。
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