First Previous |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
Next Last
リアクション
「ふーん、手荒なことはしたくなかったけど、そう言う事なら、『ごめんなさい』してもらおうかなぁ」
カガチが一歩踏み出すと、「行くぜ!」と背後から、他のボランティアが飛び掛かった。
「おい、ちょっとぉ」
頭を始め、背中も手足も散々に踏みつけられてカガチは気絶した。
「ハデス博士! 敵性反応! 3時と5時の方向です!」
「見りゃ分かるだろ、正面だぞ! お前のセンサーはどうなってるんだ?」
広場にいたボランティアでも、腕を振るいたくて仕方のない面々が飛び掛かってきた。
「我が名は蒼空戦士ハーティオン! 正々堂々、尋常に勝負!」
コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)はいつもながらの名乗りをあげて打ちかかってくる。その横には無言かつ無表情で槍を繰り出す戦士が1人。
「みんな♪ ガンバレー♪」
そしてちっちゃなチアガールも1名。
「ターゲットロックオン! ミサイル全弾発射します!」
ヘスティアが応戦する。咲耶も氷術で自分と兄とをガードした。
「馬超! 一般の人達に被害を出すな!」
コア・ハーティオンに「承知」とだけ答えて、ミサイルを叩き落とす馬超。正確無比な槍捌きで、ミサイルの出力部分をそぎ落としていく。
落っこちたミサイルは……
「わーい! お掃除! お掃除!」
及川 翠(おいかわ・みどり)とパートナーのミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)とアリス・ウィリス(ありす・うぃりす)が楽しそうに片付けていく。
戦いはともかく、掃除であれば大活躍とティー・ティー(てぃー・てぃー)やイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)もミサイルの破片を燃えないゴミに分別していった。
聞こえた爆音に椎名 真(しいな・まこと)は屋台の中から外を見る。少し離れた場所で、ボランティアと思しき一団が、何かと戦っている。
「逃げるか? それとも助けに行くか?」
迷っている内に客が来る。山葉校長から連絡が通っているのか、持込の容器を差し出して注文する。
「兄さん、トン汁一杯おくれ」
「あ、はい」
良い香りがして具だくさんのトン汁を注ぐと、客はおいしそうに食べて行った。
「あれ、何ですかねぇ」
椎名真は気になって客に聞いてみたが、「暮れにはおかしなのが多いって聞くよ」と冗談まじりで言われると、そんなものかと椎名真も納得してしまう。
「まぁ、こっちに来たら対処すれば良いか」
「ミサイル次弾発射! レールガン発射!」
ヘスティアは最大戦力で応戦する。
「俺の分も残しとけー」と猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)が飛び出す。年の功かフリーデン・アインヴァイサー(ふりーでん・あいんう゛ぁいさー)は余波が周囲に及ばないよう警戒にあたった。
「シェスティン、危険だよぉ」
止めようとした高峰 雫澄(たかみね・なすみ)の頭をシェスティン・ベルン(しぇすてぃん・べるん)は足場にして飛び掛かる。
雫澄は「仕方ないなぁ」とシェスティンや巻き込まれた人達のために、ヒールやナーシングの準備をした。もちろん最初の患者は気絶していたカガチである。
多勢に無勢の戦いと思えたが、意外にも戦力は拮抗していた。これはヘスティアの戦術予知プログラムのバグによるところが大きかった。
清掃ボランティアと言っても、歴戦の戦士揃いである。程度の差こそあれ、攻撃を予測し防御や反撃につなげるのが普通だ。
しかしヘスティアの攻撃が、バグによってランダム以上にランダムなために、予測するのは非常に困難だった。
また集団をコントロールする存在がいないのも大きい。本来はカガチ辺りが務めても良さそうなものだが、「うーん、もう肉は食えねえ」と未だに気絶していた。
そこに新手が登場する。こっちは攻撃するヘスティアではなく、咲耶とハデスを狙った。
「私がお掃除したのに、なんてことするんですの?」
冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)が鳳凰の拳を繰り出す。
「せっかくきれいなベンチを譲ってあげたのに!」
トイレの掃除をしていた屋良 黎明華(やら・れめか)は、持っていたトイレブラシを突き出してくる。
小夜子の攻撃を受け止めた咲耶だったが、黎明華の攻撃には本能的に逃避してしまう。それは小夜子も似たようなもので、撒き散らされるしぶきに身を大きくかわした。
「何で逃げるの! 正々堂々と勝負よ!」
「逃げるに決まってるでしょう」
火事場のなんとやらでカガチを横抱きにして逃げ回る咲耶。それを追っかける黎明華。そして振り回すトイレブラシ。
戦闘による阿鼻叫喚の場が、次の瞬間には、別の阿鼻叫喚の場に変わった。しぶきの数滴が馬超の顔にかかる。
「おのれ、武人の顔に!」
平静、ほとんど表情の変わらない馬超が怒りを露わにする。見慣れたラブ・リトルも、あまりの馬超の形相に、ポンポンを捨てて股間を押さえた。
「神様! ごめんなさい! もういたずらはしません!」
何の神に祈ったかは分からないが、そのままコア・ハーティオンの陰に引っ込んだ。真冬の寒い中で、ちょろっと湯気がたったが、それがコアの排気だったかどうかは定かではない。
「ちょっと! 敵はあっちだってば!」
「問答無用!」
馬超の繰り出す槍を、黎明華はトイレブラシで懸命にかわす。当然、更に激しいしぶきが撒き散らされた。
敵味方が入り乱れる中で、ドクターハデスの一行は、こっそり広場を抜け出した。それでも混乱の収まる気配はなかった。
しぶきがカガチの顔にかかる。ようやくヒールが効果を現したのか、カガチが気を取り戻す。
「なんだよぉ、冷たいなぁ」
顔にかかったしぶきを舐めようとして、雫澄に止められる。カガチはわけを聞いたが、雫澄は黙っていた。
「おめーら、いい加減にしろお!」
さすが生徒会長の一喝が響き渡る。コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)や冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)は、カガチの一言で戦闘を止めていた。
それでも戦闘を止めない血の気の多い猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)や馬 超(ば・ちょう)には直接間に割って入る。
「肝心のあいつらがいねえじゃねえか」
カガチに言われて、ボランティア一同がようやく理解する。
「俺が山葉校長を通して一報を入れとくからさぁ。まずはここいらを掃除するんだな」
騒動を横目にクロセルは演説を続けていた。
「であるからして街をきれいにするのであれば……ひゃい」
傍らの童話スノーマンがわき腹を突付く。
「クロセル殿、誰も聞いておらんでござる」
「よし、場所を変えよう」
顔色を変えたミリアが及川翠の腕を取る。
「翠、アリスが見当たらないんですが」
「まさか迷子に?」
アリスに取り付けた発信機を作動させる。空京ではありながら、とんでもない所に反応があった。
場所を確認した2人のお腹はクゥと鳴る。
「どうしてこんなところに……」
「とりあえず行って見ましょう」
苦笑いしながらも反応目指して駆け出した。
「静かになったな」
椎名真が屋台から出ると、先ほどまでの喧騒が嘘のように消え去っている。そして清掃ボランティアの連中が掃除を続けていた。
「何だったんだ?」
屋台に訪れる客に聞いてみたが、誰一人として全容を知っている者はいなかった。
「平和ってことで良いのかな」
First Previous |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
Next Last