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序章:テロリストにも三部の理(?)
 

「みんな、よく集まってくれた。俺がきたからにはもう安心だ」
 ツァンダの広場。
 パンツと聞いてすっ飛んできた【P級四天王ブリーフ番長】の猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)は、集まったテロリストたちを相手に、檄を振るっていました。
「パンツと聞けば黙っていられない非リア充の味方、パンツ四天王ブリーフ番長、ここに降臨! あとは俺に任せろ! 悪魔の定めた日、バレンタイン・デーを粉砕し、自由とパンツを勝ち取ろう!」
 その日、ツァンダの街には不穏な空気が流れておりました。
 テロリストたちが一致団結し、意気を高揚させ成功を誓います。
 真剣な面持ちで、スカートめくり&ズボン強奪の達成を。
 リア充爆発しろ!
 フリー・テロリストたちは動き始めます。
「パンツ! パンツ! パンツ!」
 彼らがこれだけの情熱を何か他のものに傾けていたのなら、きっと何かを成し遂げたでしょう。その結果、モテたかも知れないのに……。
「ふふふ……。先生、早速リア充を見つけましたぜ。爆発させてやりましょう」
 フリー・テロリストと仲間たちは、勇平を先生と呼び慕ってくれます。
「ギギギギ……リア充、おのれ、俺が葬り去ってやるぜ」
 勇平は、校舎裏でお互いの尻尾を絡めあったりハート型チョコをポッキーゲームの要領で食べたりして遊んでキャッキャウフフのイチャコライチャコラしているカップルを見つけてこっそりと近寄っていきます。
 黒髪の男と銀髪の娘なんですけど、両方耳生えてます。男のほうは人間っぽいんですけど、あれつけ耳でしょうか、けしからん連中です。
「……はいているか、はいていないか」
 素早い一閃。ブワリ! と勇平は狙い過たず銀髪少女のスカートをめくり上げます。
「?」
 「ふふふ、大成功……、って、なんだと!?」
 中身を確認した勇平は愕然とします。
 彼が目にしたものは、リア充少女の初々しいパンツではありませんでした。色気なんて微塵も無いオレンジに黒のライン入りスポーツ用パンツじゃないですか。
「何か御用かい?」
 スカートめくれながらも視線だけちらりと向けてきたのは、ソラン・ジーバルス(そらん・じーばるす)です。なんか、パンツ丸見えなんですけど、ぜんぜん気にした様子はありません。
「ごめんよ、いまイチャつくのに忙しいんで、後にしてくれないかな?」
「くっ……なぜ爆発しない!?」
「そういわれましてもね、人間は元々爆発するものではありませんし」
 デレデレと撫であいながらも、意外にまじめな口調で丁寧に説明してくれるのは、竜螺 ハイコド(たつら・はいこど)でした。
「え〜とですね、まず最初に伺いたいのですが、どうして人間が爆発すると思ったのですか?」
「いやその、爆発というのは物理的なものではなく、なんと言うか抽象的なことで……」
「めくるだけで爆発するスカートを発明したら、ノーベル賞ものかもしれないですね」
 うん、と一つ頷いて彼は丁寧に説明してくれます。なんと親切な少年なんでしょう。
「それにしてもさ、君たちなんなのですか? 今の触り方だって、乱暴でしたよね。もう少し丁寧に扱えば、対応も違ってきたかもしれませんよ……?」
「え、えっと、だからだな……」
「そもそも、女の子を何だと思ってるのですか? どうせ胸揉みたいとかそんなんでしょう?」
「ま、まあ胸なら揉みたいが」
「アホくさ! 僕らを狙うなら失恋したり片思い中で相手に告白出来ない奴だけにしなさいよ! それだっでしたら拳を正面から受け止めますから。大体、あなた愛がどんなのか分かってます!? 好きになった相手が例えしわくちゃの婆ちゃんになっても、どんな大変な状態になってもお互いの事を想い続ける相手のことを想って常に全力で行動する! そういうもんでしょう!」
「……よくわからんのだが」
「だからチョコレートもらえないのですよ、あなたたちは」
 彼は親身になってお説教してくれます。こんな友人がいれば、テロリストたちももっと健全だったかもしれません。
「それに、もしかして女子に幻想抱いていたりするのですか? 女の子だっておならはするし下品なことは言うし乱暴な時はあるし、ソラだっていさり火の店番してるの様子見してたら近所の奥様方と旦那の自慢もとい愚痴大会に参加してたんだぞコノヤロー!」
「お、おい、泣かないでくれよ、俺たちまで悲しくなっちまうじゃねえか……」
 ハイコドの悲痛な訴えに、勇平ももらい泣きを始めます。見かけ以上に純情少年なんです。
「つまりですね、物事なんて見たままじゃないですし、そんなに短絡すべきじゃないってことなんです」
 ハイコドの言葉に、感極まった勇平がズボンを脱ぎ始めます。
「俺、間違えてたよ。お詫びに俺のパンツ見せてやるから……」
「いらないですよ。まあ、そういうことですから、アホなことはやめましょう」
「ああ、そうだな」
 なんか簡単に論破されてますけどね、先生。いいんですか?
「ふふ、今日のところはこの辺で勘弁しておいてやるか」
 勇平がそう言ったときでした。
「ごめんなさい、待たせましたかしら」
 とても可愛らしい笑顔を弾けさせながらウイシア・レイニア(ういしあ・れいにあ)がやってきました。
 彼女、勇平の傍までくるなり、とても親しげな様子でチョコレートを差し出してきます。
「今日のために、心を込めて作ってきたんです。受け取ってくれますわよね?」
「あ、ああ……」
 勇平、ちょっと照れてます。二人は見つめあい、やがてウイシアからチョコレートを受け取ります。
「ありがとう、帰っておいしくいただくぜ」
「……せ、先生?」
 テロリストたちはあまりの出来事に目を丸くします。
「よく考えたらスカートめくりとか、やっちゃだめだよな。じゃあ、みんな解散!」
「……」
 少しの沈黙。
「リア充、爆発しろ!」
 テロリストたちは一斉に襲い掛かってきます。
「……ふふ」
 それをかわしながら、してやったりと満足げに微笑むウイシア。
「まったく、私の気持ちも知らずにこんなことばかりやって……。乙女の気持ち思い知りなさい!」
「アッ――!」
 勇平は断末魔とともに、パンツ一枚にされその場に倒れました。
「ああ、アホらし。帰ってパンツ見せあいっこしようぜ」
「俺のズボンやるよ……」
 そんなことを言いながら、テロリストたちは去っていきました。
「なんか、根は悪い人たちじゃなかったみたいだね。何が彼らをおかしな真似にかりたてたんだろ?」
 ソランの言葉に、ハイコドは少し考えて。
「大抵、悪いことを吹き込む奴が背後にいるものなんですけどね。今回は誰なんでしょうか?」
 まあ、彼らにとってはあまり関係のないことかもしれません。
 自分たちの時間だけたっぷり取れればいいのですから。二人は再びいちゃつき始めます。
 かくして、ハイコドたちの活躍により、テロリストたちは改心したのでした。

【完】



「【完】じゃねえよ! あいつら、あっさりやられやがって……」
 ギギギギギッッ……!
 非リア充たちの歯軋りの音が聞こえてきます。この日のために歯を磨いてきたのです。チョコレートもらえませんけど歯軋りのいい音でてます。
 この二人は打ち漏らしましたが、こんなところで引き下がるわけには行きません。
 街中には許されざるリア充たちで溢れ返っています。
 ハイコドたちにはわかってもらえないような、彼らなりの理屈があるのです。リア充には決して理解できないものなのでしょう。
 リア充、爆発しろ!
 合言葉だけを絆に、彼らの戦いが物理的に始まります。