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第四章:ザ・プロフェッショナル! 〜パンツ職人たち〜


 たかがパンツ、されどパンツ。
 全てはパンツのために、皆がここに終結したのです。
 まだまだいきます。
 これからは、己の技と生き様に誇りを持つ、パンツプロフェッショナルたちの登場です。その華麗で磨きぬかれた技を順を追って見ていきましょう。


「くっ……、俺としたことが、今日に限ってはただ逃げるのみとは……!」
 ツァンダの路地裏から民家の壁を蹴破り信号を無視して逃げ続ける一人の眼鏡男の姿がありました。
 あの、秘密結社オリュンポスの幹部にして悪の天才科学者ドクター・ハデス(どくたー・はです)です。
 かつて幾度と無く正義の味方たちと戦い、ことごとく逆境を跳ね除けてきたハデスでありましたが、この日、テロリストたちが横行するツァンダに現れた彼は、その勇名すら名乗れないほど追い詰められていたのでした。
 なにしろ、執拗に追ってくるのです、“アイツ”が。
「何てことだ。なんとかして今日一日逃げ切らなければ、命は、ないっ! 世間ではスカートめくりテロとやらが横行しているらしいが、我らをつけ狙う人物の行為に比べれば、そんなもの児戯に等しい……」
 路地裏に身を潜ませたハデスは、パートナーで機晶姫のヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)アルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)の無事を確認し、ほっと一息つきます。
「ふう、なんとか追跡を振り切ったようだな。だが油断するなよ、二人とも」「だめです、見つかりました! 来ます、お下がりくださいませ旦那様……じゃなくてハデス博士!」
 ヘスティアが緊迫した声で知らせてきます。
 その視線の向こうから、黒いオーラを纏わりつかせが黒髪の少女高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)がゆらりと近づいてきます。手に持っているのは、なんだかよくわからない茶色い物体で、そこから亡霊のように無数の影が立ち上っています。
「どうして食べてくれないのですか、私のチョコレート」
 咲耶の感情の高まりとともに、手にしている茶色い物体――彼女がチョコと呼んでいる物体から負のエネルギーが放出され周囲を黒く染め始めます。
 これは、想像以上の怪作です。
「ヘスティアちゃんだけを置いていくわけにはいきません! オリュンポスの騎士として、私も咲耶お姉さまを食い止めます。ハデス様は、離脱してください!」 アルテミスも決死の覚悟で、咲耶と対峙します。
「俺だけが逃げるわけにははいかん」
 ハデスが覚悟を決めた時でした。
 悪の女神から救いの手が伸びてきたのです。やはり人間普段から悪いことをしているべきです。
「……ん? 誰だ?」
 一瞬、人の気配がしたかと思うと、突如、狭い路地裏を突風が吹き抜けます。
「……え、何ですかこれ……? ……きゃあああっっ!?」
 咲耶の悲鳴が響き渡りました。
 小さな竜巻が咲耶の悪の女幹部衣装のスカートをぶわり! と腰まで大きくめくれ上がらせます。チョコレート持っているので、手で裾を押さえられません。
 たなびく長い黒髪と対比した咲耶の清楚な真っ白いパンツが、存分に目を楽しませてくれます。
「くっ……、風術だと……? だか、この動きは……」
 白衣をエロティックにはためかせながら、ハデスはこの悪の神風を巻き起こしている人物の影をわずかに認めます。
 その人物は、光学迷彩で姿を消しているようでした。気配はあるのに姿が見えません。
(男に用はないので、そこの眼鏡はその場に立っているがよかろう……)
 ただ、女の子のパンツを見るためだけにやってきた毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)は、呆然と立ち尽くしている咲耶のパンツをアサシンソードで見事な手並みでもって切り取り、回収すると懐にしまいこみます。
「……へ?」
 ペタリ、と座り込んでしまう咲耶。
 次の瞬間進路を変え、大佐はヘスティアとアルテミスに接近します。
「きゃああっっ!?」
「な、なんですかぁ……?」
 事態をよく把握できていなかった二人は、いとも簡単にスカートをめくられ、ほの甘い香りの漂う純白のパンツを披露します。
(うむ、パンツはやはり白だな。すれてなくて初々しい。もちろんビッチパンツも悪くないが……)
 輝かんばかりの三枚の白パンツをカメラに収めた大佐は、隙だらけと見て取り、さらに二人分のパンツも素早く回収します。
「……」
 パンツまで奪い取られた三人娘は、なすすべもなく目を丸くするだけです。
(もう用はない。さらば)
 大佐は弾幕を張ると、そのままものすごいスピードで逃げ去ります。
「……大した手並みだ。職人だな……」
 ハデスは一つ頷くと、煙幕をかき分け大佐を追うことにします。
 別に三人娘のパンツを奪い返しに行くためではなく、純粋に自分を出し抜き、苦境から救い出し、さらには目的を遂げた人物の正体を見たくなったのです。
「あううう……っっ。どうして私がこんな目に……」
「先に帰ります、博士……ひどい目に遭いましたので寝ます……」
 ヘスティアとアルテミスは、咲耶をつれてよろよろと帰っていきます。パンツさえ見せ終われば用なしです。世の中非情なのです。放っておいても勝手に帰るでしょうから、置いていきます。


 危ないほど、愛は燃えます。そういうわけで、その日、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は公園にやってきたのでした。
 シャンバラ教導団から、わざわざこのツァンダまできて。恋人のセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)とともにスカートめくりのテロリストの横行する中、アッツアツのデートをしていました。一通り街並みを散策してから、人目につきにくい薄暗い場所を探し当ててきたのです。
 普段ビキニとオレタード、なのに今日に限っては、教導団の制服でスカートに可愛いパンツまで丁寧にはいてきています。
「ねえ、チョコ食べあいっこしよ?」
「仕方ないわね」
 セレンティフィの誘いに、セレアナは半ば呆れつつもノッてきます。この日のためにヴァイシャリーの高級ショコラティエのお取り寄せ品チョコレートを取り出すと、セレンティフィの口の中に含ませます。
「どう、おいしい? それが、愛の味よ」
「私のチョコも受け取って。セレアナの唇で」
 二人は、チョコレートの食べさせあいっこを始めます。二人の間だけにチョコよりも甘いラブラブ空間が発生しています。ちなみに、これまだ日中です。
「あ、チョコが顔についているわ……」
 セレンティフィはセレアナの頬についたチョコの粉を舐めるように軽く吸います。虚を突かれたように目を見開くセレアナ。
 してやったりと得意げなセレンティフィですが、それに対してセレアナは不適に笑い返します。
「ふふ……、そういう生意気なことをする唇はこうしてやるわ。……こっち向いて」
「ん?」
 セレアナはセレンティフィの顎に指を書け自分の唇を相手の唇に合わせます。
「あう……んっ……」
 チョコの甘さとキスの甘さが混じった感触に思わず陶酔してボーっとしてしまうセレンティフィ。セレアナがうなじから髪の毛の感触を楽しむように指をなぞらせても抵抗もしません。いい具合です、身体を密着させお互いの体温と鼓動を味わいながら、二人は長い間いちゃいちゃと馴れ合います。
 もうね、めくってやっても文句は出ないでしょう、これは。
 そう言うわけで、毒島 大佐は公園へやってきたのでした。
(シャンバラ教導団の生徒ともあろう者が、隙だらけではないか)
 セレンティフィとセレアナに狙いを定めた大佐は、一瞬で二人に接近します。
「……?」
「えっ?」
 二人が気づいたときには、もうスカートはめくれあがっていました。
 セレンティフィの薄水色のパンツとセレアナの白レースパンツ。カメラに収めた毒島 大佐は回収にかかります。
「……なっ!」
「くっ……」
 セレンティフィとセレアナはすぐに我に返り、放電実験と目潰しを放ちます。
「ひっ!?」
 毒島 大佐は攻撃を食らってしまいました。パンツの回収を諦め地面をごろごろ転がりながら弾幕を張ります。
「逃がすわけないでしょ!」
「空蝉の術!」
 毒島 大佐は必死に離脱を図ります。
 そんな彼女に悪の神から救いの手が伸びてきたのです。やはり人間普段から悪いことをしているべきです。
 ちょうど向こうから、大佐を追ってハデスがやってきたではありませんか。それを身代わりにして、大佐は逃走します。
「ん?」
 目を丸くするハデスに、激怒のセレンティフィとセレアナが待ち構えていました。
「なるほど、変だと思ったらあなたの仕業ってわけね……?」
「待つのだ。身に覚えがない。そもそも俺は……」
「死ねゴルアアアッッ!」
 女の子にあるまじき怒号を上げてセレンティフィとセレアナは襲いかかって来ます。
「くっ……!」
 逃げ足の速さではハデスも負けていません。年季が違います。
 全てのスキルと経験を駆使してハデスは公園から姿を消します。
「……」
 どうやら深追いは禁物のようです。命も助かったことですし、帰ってパートナーたちに新しいパンツを買ってあげましょう。
「……なんて奴なの?」
「まあいいわ、いつものことじゃない。続きをしましょう」
 セレンティフィとセレアナは気を取り直し、プレイを再開します。
 こうして二人はその日、甘い一日を過ごしたのであります。


 テロリストたちを法と正義の名の下に社会的制裁を加えようとプロの軍人もやってきておりました。
 シャンバラ教導団のレオンハルト・ルーヴェンドルフ(れおんはると・るーべんどるふ)です。
 彼は、恋人の橘 ニーチェ(たちばな・にーちぇ)と街並みを眺め、デートを楽しみながらテロリストたちを葬り去るべく機会をうかがっています。
 このレオンハルト、なんか意味ありげなカッコイイ眼帯しているんですよ。きっとあの下には“邪気眼”とかが潜んでいるんじゃないでしょうか? これはやってくれそうで頼もしいです。
「はい、あーんして下さい、レオンさん」
 コートにミニスカ姿のニーチェがにっこり微笑みながら、小さなチョコレートをレオンハルトの口元へと持っていきます。
「なんだこれは?」
「僕から愛を込めて、手作りチョコレートですよ。せっかくのバレンタインデーなんですから、快く受け取ってください、お・く・ち・で(はあと)」
「……うむ、悪くない」
「ふふ、たのしっ」
 ラブラブとリア充専用の空間が展開しています。
 ところで、実のところ先ほどからご活躍中の毒島 大佐にとって、ターゲットは誰でもよかったのです。ただ女の子のパンツが見たいだけで、リア充など関係なかったのですよ。
 にもかかわらず、この二人に接近したのは、たまたま目の前を通りかかったからだけなんです。あの後も活動を続け結構なダメージで仙人の豆を食べるべきか否かの微妙なラインでして、手っ取り早く見切りをつけて戦利品を手に引き上げるところだったのです。
(男のほうはどうでもいいか……、パンツパンツ……)
 大佐は、例によって見事な手口でニーチェに接近すると、全く対策のしていない無警戒なミニスカートを、ふわりと、あっさりとめくりあげます。
「へっ……ふにゃっ……!?」
 黒レースのパンツを披露したニーチェは、一瞬目を見開き硬直します。
(はい、毎度あり。黒のレースげっと)
 大佐はさらに、ニーチェのパンツを芸術的な手際で切り取り持っていきます。
「……。……」
 ニーチェは、頬を赤く染めて沈黙していたのもつかの間。
「も、もうお嫁にいけないいいいいっっ!」
 リア銃、もとい、魔銃カルネイジを両手持ちに無差別絨毯射撃を行います。
 レオンハルトは即座に両手で剣を抜き攻撃を加えます。
 彼には恐るべき必殺剣があったのです。
 かつて国軍が教導団と呼ばれていた時代禁忌とされた一つの剣術。その刃は、決して人体を傷付ける事無く、対した者の衣類のみを切り裂いたと言います。その余りに非情な業を、人々は畏れと共にこう呼んだそうです――『脱衣剣』と。
 素晴らしいです。
 逃亡を企てる大佐は弾幕を張り距離をとろうとしますが、ニーチェの無差別発砲が空間を隙間なく埋め尽くし、襲い掛かってきます。
「……っ!」 
 命中した血しぶきが、大佐の光学迷彩を台無しにしてしまいます。空蝉の術を使うより先に……、
「愚かな……この俺に剣を抜かせるとは。我が“脱衣剣”その身でとくと味わうが良い」 
 レオンハルトは戦いのプロフェッショナルの職人技で、大佐に迫ります。
「下着一枚残らないと思え!」
「……ひうっ!?」
 派手な光芒とスラッシュ音とともに、レオンハルトの必殺剣が大佐の衣装をまとめて切り裂きます。
「……!」
 大佐は悲鳴にならない悲鳴を上げます。
 はい、やり逃げは許しませんよ、大佐。是非ご協力お願いしますええこれは強制ですとも!
 スカートどころか衣装丸ごと切り取られ、大佐の真っ白な裸体が白日の下に晒されます。 
 白レースのパンツだけが残っているのは、もちろん大人の事情ですのでご理解いただけますよね皆様!
「……」
 胸を腕で隠してその場にペタリと座り込む大佐に、レオンハルトは無慈悲に宣言します。脱衣剣奥義『告死帳』らしいです。
「お前はもう(社会的に)死んでいる」
 お見事でした、脱衣職人!
「ふっ……また粗末なものを切ってしまった」
「レオン……」
「大丈夫だ……。俺が嫁にもらってやる……」
 振り返ったラインハルトはニーチェを抱き寄せ、傷がいえるよういたわります。
「ほんと?ほんとにお嫁さんにもらってくれる?」 
 寄り添い、涙目泣き顔からふわり笑んで。
「ニーチェ、レオンさんのことすっごくすごく、愛してる」 
人前で少々躊躇したものの、ニーチェはレオンハルトにキスします。
 あっという間に広がる二人だけの世界。
 リア充始めますが、もうパンツ関係ないのでそのままフェードアウトです……。