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リアクション
さて、先ほどの章で別れた八神 誠一(やがみ・せいいち)と日比谷 皐月(ひびや・さつき)はどうなったのでしょうか。視点を戻してみましょう。
「ヲヲヲヲヲヲォォォォォンッ!」
不気味なうめき声を上げながら、巨大なゴーレム(?)風の魔王チョコケーキオブナイトメアはすごい勢いで追いかけてきます。誠一と皐月に食べてもらうために追いかけてきますが、あんなもの食べていいのでしょうか。
「それにしても、なあ、おい。いつからバレンタインは、チョコに襲われる日になったんだ?」
「バレンタインに不幸を味わっているのは、テロリストの皆さんだけじゃないんですけどねぇ」
皐月と誠一は口々に思いを述べます。
つまり、まあ食べるべきではないということです。
街を遮二無二走り回る二人、壁を突き破り人ごみを掻き分け障害を乗り越え、逃げるのみです。誰か助けてくれる人はいないのでしょうか……?
ツァンダの街を軽快に散策しておりますノール・ガジェット(のーる・がじぇっと)は満足げに人ごみを眺めておりました。ルイ・フリード(るい・ふりーど)を留守番に残して、一人ご機嫌お散歩であります。女の子たちの笑顔が輝いています。幸せそうな顔したり、意中の子に渡すのにドキドキと緊張して待っていたり、おめかしをして輝いている子がいっぱいおります、はい。とても満足です。
なんかテロとかあるらしいですが、そもそもノールはそんなこと知りませんし関係ないのでありました。
ボディサイズ的に歩道は歩けませんでしたので車道をダッシュローラーで移動しつつ可愛い子達を眺めては、いっぱい、心(メモリー)のフォルダに保存していきます。
せっかくの年に一度のイベントであるし騒動はイヤなのであります。ですから……。
ドドドドドドド……!
「……」
たった今、すごい騒音とともにノールの傍らを駆け抜けていった、青年たちと茶色いおかしな物体は、全く見なかったのであります。
「……」
しかし、であります。ノールは考えます。
街がざわめいています。騒ぎに驚いた女の子たちの不安げな表情が写ります。ここで放置しておけば、周囲に被害が及ぶ可能性がありますといいますか、すでに及んでいます。いっぱい。可愛い女の子たちの笑顔が崩れ、ノールのフォルダに隙間風が吹き込むことでありましょう。
行きましょう、女の子たちの笑顔のために……! やるしかないのであります!
ノールは茶色いゴーレム(?)を追いかけます。
ダッシュローラーも全力に、あっという間にゴーレム(?)に追いつきます。
「戦闘準備! 各種武装起動! スキルロック解除! さぁ……覚悟するので」
バキバキバキバキボギィッッ!
邪魔だ、とばかりにノールはゴーレム(?)に叩き潰されました。なんですか、こいつ。チョコじゃなかったんですか? メチャ強いんですけど。
それは……作り出した少女たちの愛の思いの強さなんです。皐月と誠一に食べてもらいたい、その一心が、障害などすべて排除します。
「……」
それでもノールは追いかけます、まだ致命傷なわけじゃないでありますよフフ……今度こそ女の子たちの笑顔を
グシャ!
「……」
まだまだであります。次こそはこんな不覚は取らな
ドロリ、ドクドク……。包み込まれ飲み込まれてしまいました。
「……」
心のフォルダは、後日補完すればいいじゃないですか……。
「なんか、向こうから変なのやってくるねぇ」
「……おい、あいつら何言ってんだ、聞き取れないんだが」
皐月と誠一の視線の先には、巨大な熊とおかしな言語を操っている男女がこちらへやってきているのがわかりました。
そう、最早、運命によって引かれていたかのように、彼らは遭遇します。
「 ピ―――――」
「 ブッブ〜ブッブ〜ブッブ〜」
「ガアアアアアアアッッ!」
「ヲヲヲヲヲヲォォォォォンッ!」
「 ピ―――――」
「 ブッブ〜ブッブ〜ブッブ〜」
「ガアアアアアアアッッ!」
「ヲヲヲヲヲヲォォォォォンッ!」
○
「……」
「……」
ずっと長い間テロリストたちの取り締まりをしていた戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)とマクスウェル・ウォーバーグ(まくすうぇる・うぉーばーぐ)たちは殺伐としていました。だましや引っ掛け、テロリストたちと壮烈な戦いを繰り広げていたのです。ほとんどの人たちはそんな彼らの苦労をしらず、思い思いに騒いでいたようでしたが、そのおかげでアホなテロリストたちは、ほぼ全滅しました。学園も街も平静を取り戻します。
仕事を終えて眺める夕日がとてもきれいです。
ちょうど休もうかと思っていたところだったんです。
妙な奇声を発しながら暴れまわる男女と巨大な熊、そして変なゴーレム(?)がやってきたのは。
そいつら、とにかくドタバタと走り回り、小次郎やマクスウェル、他の取り締まり班も協力してが整え直した街並みをめちゃくちゃにしていきます。どれだけ苦労したと思っているのでしょう。
ああ、そうやって眺めているうちに、また一つ壁が壊れて……。
ぶちん。と小次郎の血管が切れる音がしましたよ。
「いきましょう。フルボッコです。もうね、手伝いに来た人たちが騒ぎ大きくするって、どういうことなんです?」
「スカートめくりの連中のほうがマシだったな」
ぽつりとマクスゥエル。
「ようやく“本物のテロリスト”が出てきましたわね」
ザコで遊ぶのにも飽きていた{SFM0043718セシル・フォークナー}が、むしろホッとした表情で言いました。
「やはり、戦いはこうでないといけませんわ。歯ごたえのない者たちをいたぶっても空しくなるだけですもの」
フリー・テロリストたちと戦っていたメンバー、全てがこの場に集まってきます。
全員が、前方から迫り来る集団を睨みすえて装備を構えます。
「 ピ―――――」
「 ブッブ〜ブッブ〜ブッブ〜」
「ガアアアアアアアッッ!」
「ヲヲヲヲヲヲォォォォォンッ!」
「 ピ―――――」
「 ブッブ〜ブッブ〜ブッブ〜」
「ガアアアアアアアッッ!」
「ヲヲヲヲヲヲォォォォォンッ!」
「全員、あの本物のテロリストどもを攻撃!」
ドドドドドドドドドドド!
……。
そして……、終了しました。
書くのも大変なくらいの集中攻撃でゴーレム(?)は沈み、男女と熊は捕らえられ、どこかに連れて行かれました。
皐月と誠一も開放されます。
「かゆ……うま……」
中から救い出されたノールは幻想を見ているようですが、無事なので置いておきましょう。
やがて……。
「うめぇ」
粉々に砕け散ったゴーレムの破片をかじってみて、皐月は短く言います。
「さて、帰ろうか」
「またおかしなチョコが待ってないといいけどねぇ……」
そんなことを言いながら去っていく彼らに、そろそろ傾きかけた陽光が差し照らしているのでありました。
○
バレンタインデーの夕日はきれいでした。
「孝高!」
もふん! と、薫は巨大な熊の背中にしがみつきます。
すると孝高は、ぼひゅん! と元の姿に戻って、顔を真っ赤にしました。
「あ、天禰っ!?」
「……その、良かったら…食べて、なのだ」
そう言って、薫は小さな包みを孝高に渡します。
「ありがとう、天禰」
死屍累々の修羅場の中、何とかチョコを渡し、受け取る二人でありました。
かくして、バレンタインデーのドタバタは幕を下ろしたのでありました。
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