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リアクション
「さて、こんなもんですかね」
伝道師が呟く。
地面には、気を失った者達が転がっていた。
前ページラスト、伝道師を見つけた探索者達が止めようと挑んだ結果がこれだった。
「ぜ、前ページからそんな経ってないのに……」
傍観していたアゾートがわなわなと震える。
――さて、前ページから何があったのかを語るとしよう。
「これ以上好きにはさせないぞ! 『自称』伝道師!」
そう言ってまず挑みかかってきたのは水上 光(みなかみ・ひかる)。【グレートソード】を振い、斬り付けてきた。
「愛っていうのは最初は些細な物かもしれない! けどお互いに少しずつ育んで大きくしていくものだ! 強制されるものじゃない!」
斬撃を避けつつ、伝道師に光は言い放つ。
「そう……バレンタインデーという恋人たちの行事を、妬みやくだらない考えで邪魔をするあなたは許しておけません!」
ノア・ローレンス(のあ・ろーれんす)が光をフォローするように、横から攻撃を加えてくる。
「そうだ! お前は間違っているんだ!」
光が言うと、伝道師に接近する。
「……どうも勘違いされてますねぇ、私」
溜息を吐きつつ、接近された光に伝道師が拳を振るう。その拳を、【グレートソード】で受け止める。
「くっ……今だよ!」
生じた隙を狙い、ノアが挑みかかる。
「愛という不安定な物を確かな物にする大切な一時、汚した罪は重いですよ――え?」
が、伝道師はノアを片手で捕まえると、
「ふんッ!」
と力の限り光に向かって投げつけた。
「ひゃあッ!?」
「え!? ちょ……!?」
避けるわけにもいかず、光がノアを受け止めようとするが間に合わない。
「「うわぁッ!?」」
二人が地面に転がる。
「いてて……だ、大丈夫?」
「わ、私は何とか……」
光とノアは体勢を立て直そうとするが、待ってくれるほど伝道師は甘くは無い。
――二人の傍らに、手榴弾が転がっていた。
「「――え?」」
気付いた時にはもう遅い。
「「ひゃあああッ!」」
炸裂した手榴弾の衝撃に吹き飛ばされた光とノアは意識を闇へと落とした。
「うーむ、勘違いされてるとなるとちょっと問題ですよねぇ」
「問題なのはあんただよ、伝道師!」
「ぬ!?」
伝道師が飛びのいた直後、氷の爪が地面に刺さる。
「……これまた珍妙な方ですねぇ」
振り返り、攻撃の主を確認した伝道師が呟く。そこに立っていたのは魔鎧となった雹針 氷苺(ひょうじん・ひめ)を纏い、氷の龍人と化した木本 和輝(きもと・ともき)だ。
「お前に珍妙言われたないわ!」
「落ちつかんか和輝……」
氷苺が呆れたように言う。
「おっとそうだった……伝道師、あんたは誤解をしているようだな」
「誤解、ですか?」
「ああ……愛を極めてるから愛の日にパワーアップ? バレンタインが愛の日だなんて誰が決めた!」
首を傾げる伝道師に、和輝が吼える。
「昔は愛の日だったかもしれない。でもね、それは男女の恋愛についてだったはず。今では人と人との繋がりを大事にする日に変わってきている。だから、あんたのいう物への愛とかは、昔も今もバレンタインデーには相応しくない! バレンタインとは絆の日だ!」
拳を握り、和輝が力説する。
和輝は伝道師を否定することにより、思いとどまらせる事を狙っていた。もしその考えに揺らぎを持てば、更生を止めるかもしれない、という狙いだったのだが、
「その考えは何とも……人との絆以外にも業深き者による二次元への愛、ってのがありますからねぇ」
伝道師にはその説得は通用しなかったようだ。
「……足を止める気はなさそうじゃの」
氷苺が溜息を吐いた。
「ならば、俺と氷苺さんの絆を見せてやる!」
和輝が動く。再度、手の爪を揃え伝道師を貫かんとする。が、
「なっ!?」
伝道師は、それを後ろに飛んで避けると同時に、引き金を引いていた。
弾頭は、既に和輝の目前へと迫っていた。
「うわああッ!」
着弾し、爆発する。煙が晴れると、和輝は元の姿に戻っていた。
「先程愛の人と誰が決めた、と貴方は言いましたね……強いて言うならば、世間が決めてしまったんですよ」
「……はは、世間と来たか……」
乾いた笑みを漏らし、和輝は意識を手放した。
「さて、これで終わ――」
「まてぇいッ!」
「何奴!?」
上から聞こえた声に、伝道師が顔を上げる。
そこにあったのは電灯。その上、に立つ影があった。
「ヒーローは遅れて現れる! 変身!」
影が飛び降りると、その身は光に包まれる。
一回転し、影は叫んだ。
「蒼い空からやってきて人の恋路を護る者! 仮面ツァンダーソークー1! ただ今参上!」
「……暗い空ですがねぇ」
「細かい事は気にするな」
仮面ツァンダーソークー1――風森 巽(かぜもり・たつみ)がちっちっと指を鳴らす。
「で、貴方も私と戦うんですかね?」
「ああ……だが、その前にお説教タイムだ!」
巽がビシィッ! と効果音が付きそうなポーズで伝道師を指さす。
「説教?」
「そう……宇宙刑事が言っていた! 愛とは躊躇わない事……そして…‥悔やまない事だ、と! だが、それはあくまで誰かを愛する場合の話。他人の愛を試す為に好き勝手して良いという意味ではない! 自身の考えを強行に強要する貴公の語る愛……人の恋路を邪魔する唯の自己愛!」
「そうだ! お前のような人の恋路を邪魔する奴は正義のヒーローとして、見過ごしては置けない!」
巽の隣に立つティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)も、巽のように指をさす。
「……別に私、人の恋路邪魔してはいないんですがねぇ」
疲れたように、伝道師が呟いた。
「まだそんな白を切るか!」
「別に白を切ってはいないんですが……それに、先程正義と言いましたね?」
「……ああ、言ったさ!」
ティアが伝道師を睨み付ける。『正義』を口にした事が、彼女の怒りに触れたらしい。
「貴女は貴女の正義で、私を止めようとしているようですが……私にも私の正義があるんです」
「……どうやら、止まる気は無いようだな!」
巽はそう言うと、天高く飛び上がる。
「ならば正義の為お前を止める! 必殺! ソークー! イナヅマッ! キィィィクッッ!」
そして【龍飛翔突】を駆使したキックを伝道師へと放つ。天高く舞う龍が、急降下して牙を突き立てるかの如く、伝道師を捕らえんとする巽のキックは、
「君を迎撃するためのRPG!」
「なあああああッ!?」
伝道師のRPGにより、あっさりと迎撃された。
「た、タツミ!? タツミぃーッ!?」
ティアが叫ぶ。その時、空にサムズアップする巽の姿が映った……気がした。何故か口元が一瞬キラリと輝いていた。
「よ、よくもタツミを!」
ティアが【光術】を放つ。その光に、一瞬伝道師は腕で目元を覆う。
「正義を邪魔する奴……じゃない、他人の恋路を邪魔する奴は、天馬に蹴られて地獄に堕ちちゃえっ!」
その一瞬の隙に【ワイルドペガサス】に乗ったティアが、伝道師へと向かって来ていた。
高速で駆ける天馬が、伝道師を撥ね飛ばす勢いでぶつかろうとする。が、
「はぁッ!」
伝道師はぶつかる直前、天馬を飛び越すように飛び上がった。
「せぃッ!」
そして、身体を捻り天馬を操るティアを蹴る。
「あうッ!」
天馬から転落し、地面に強か体を打ち付けるティア。
「く、くそ……」
身体の痛みをこらえつつ、ティアが立ち上がろうとする。
「それ以上はやめておきなさい」
「ま、まだだ……! まだボクは戦える! お前のような……正義をバカにする奴に負けるわけにはいかないんだ!」
「正義、ですか」
伝道師が一つ、溜息を吐いた。
「……怒りに身を任せ、相手を悪人と決めつけて戦うその姿が貴女の正義なんですか?」
「なん……だと!?」
「ただ相手を押さえつけて自分の思想を押し付けるだけにしか見えません……先程も言いましたが、私は別に人の恋路の邪魔などしていません」
そう言うと、伝道師は踵を返す。
「ま、待て……」
ティアは追いかけようとしたが、体中の痛みに顔を顰めると、地面に倒れ込みそのまま気を失った。
「……さて、こんな物でしょうか……おや、どうしましたかアゾートさん?」
「いや……別に」
死屍累々の光景を見て、『十分悪人にしか見えないんだけど、この有様を見ると』と言いたくなるのをアゾートはぐっと堪えた。
「ふむ……まあいいでしょう。それではそろそろ――」
「待て!」
突如飛び出してきた影――想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)が伝道師の前に立ちふさがった。
「貴方もですか……何故、貴方は戦うんですか?」
溜息を吐く伝道師を、夢悠が睨み付ける。
「愛する大事な人の為だ!」
「大事な人……ですか?」
夢悠が、怒りの瞳で伝道師を見据えたまま頷く。
「……美人で、強くて、優しくて、いつも災難に巻き込まれる体質だけど、それに負けない凄い人……その人にオレは何度も守られて、励ましてもらった。守られてばっかで、オレは強くないけど……けど、あの人を傷つけられて黙ってなんていられないんだ! お前がどれだけ強くても! オレは! オレの愛は! お前を恐れない! 俺の大事な人、雅羅さんを傷付けたお前だけは許せない!」
夢悠が叫んだ。そして【ファイアストーム】を唱えようとした時であった。
「この大馬鹿者ォッ!」
伝道師は夢悠の頬を殴った。肘で。
「がふぉッ!?」
脳を揺らされた夢悠は膝から崩れ落ちた。
「なんでエルボー!? 普通そう言う時って平手とかじゃないの!?」
突然の事に、アゾートが突っ込んだ。
「夢中で頑張っている者にはエルボーって歌があるじゃないですか!」
「それ違うから! エールだから!」
「んなこたぁ知ってますよ!」
「怒られた!?」
「それより貴方……どこまで愚かなんですか!」
「……え?」
意識を覚醒させた夢悠に、伝道師が人差し指を突きつける。
「貴方が今すべきことはなんですか!? 私と戦う事? 違う! そんな無駄な事ではない! 貴方がすべきことはその愛する者へその気持ちを伝える事ですよ!」
「……い、いや、でも以前一度言ったことが」
「一度で止めてどうするんですか! 貴方の愛はその程度ですか!?」
「そ、そんなわけない! オレのあの人への気持ちは……」
「叫びなさい! そしてその気持ちを伝えるんです!」
「オレは……雅羅さんが好きだ!」
「声が小さい!」
「雅羅さんが好きだ!」
「ぜんっぜん届かない! その程度じゃ耳に届いても心に気持ちは届かないよ! もっと熱くなりなさい!」
「……何この光景」
げんなりとしてアゾートが呟く。
目の前では伝道師と夢悠の何やら熱血な光景が繰り広げられていた。いつの間にか伝道師は某炎の精霊のようになっている。
「あ、こんなところにいた!」
そんなアゾートの姿をなななと雅羅が見つけ、駆け寄ってくる。
「貴女が居るってことは……奴もいるってこと?」
「え? ああ、うん……」
「待ってなさいよ、目にもの見せてくれるわ!」
「ああ、でも今行かない方が……」
アゾートが止める間もなく、雅羅が飛び出す。
「雅羅さんが好きだぁぁぁぁッ!」
「……え?」
雅羅の動きが止まる。
「……へ?」
同時に、夢悠の動きも止まる。
「……はい、届いた」
ぽん、と夢悠の肩を軽くたたき、伝道師が言う。マスクでその表情はわからないが、笑っているようにも思える。
突然の出来事に、夢悠の思考は停止。だが徐々に思わぬ形で再度告白してしまった、という事実が襲い掛かる。
――人間、思わぬ出来事にぶち当たると、取る行動がある。それは逃避である。
「う、うわああああああああ!」
混乱したまま、夢悠は逃げ出した。
「あ、えーっと……」
追いかけるわけにもいかず、雅羅はただ立ち尽くすしかなかった。
「……ところで、貴女達はどうしましたか?」
「あ、そ、そうよ! そこまで余裕を持つのも今の内ね!」
雅羅が銃を構える。
「二人、だけではないようですね」
周囲を見回し、伝道師が言う。姿は見えないが、雅羅とななな以外の気配がそこいらにある。
「そう、今キミを倒す為にこの周囲を固めてる! おとなしく投降しなさい!」
なななも身構え、伝道師に言う。
ふぅ、と伝道師は溜息を吐く。
「構いません。全員まとめて相手にしましょう……さあ、かかってくるがいいッ!」
伝道師が、言い放った。
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