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――アザトースは語っていた。
 【愛の伝道師】を名乗る彼が語るのは、己の信ずる愛である。
 この愛を語り、伝道師を論破しようというのが彼の目論見であった。
「私にも、愛が無かった時があった……この身体は、自らの過ちによる物だ」
 そう言うとアザトースは纏っていたローブを脱ぎ捨てる。そこにあるのは、名状しがたい冒涜的な異形。
「……私は日々異形の怪物へと姿を変えていく業を背負った。このような姿を持つ者に愛など無い。未来が無いのだから、愛など存在していいわけがない」
 アザトースは脱ぎ捨てたローブを再度纏う。そして一息おいて、また口を開いた。
「だが、今は違う。こんな私に……異形の姿となった私に、永遠の愛を誓ってくれた妻が居る」
 何かを思い出すように、アザトースは空を見上げた。
「……妻に、なぜ私のような怪異を愛してくれたのか……一度だけ問うた事があります。彼女は少し考えたあと、『エッツェルだから』と答えてくれた……この言葉に込められた物、貴方ならわかるはずだ」
 そう言うと、アザトースは伝道師を見据え、言った。
「否定して粛清するのは簡単だ……だが他の愛も受け止め、認め、様々な愛を世界に伝える……それこそが我ら『愛の伝道師』なのではないか!?」
 伝道師は、腕を組みただアザトースの言葉を黙って聞いていた。その姿は何か考えているようにも思える。
「……なあ、あれ本当に話聞いてるのか?」
 その姿を見て、そっと唯斗がアゾートに耳打ちする。
「わからない……寝ている可能性もある……現に一度寝てたし」
「あんなのに振り回されて大変だったな……」
 同情するように、しみじみと唯斗が言った。
「――聞いていますよ」
 伝道師が、静かに言った。
「うむ……何から話したものか……」
 伝道師は唸り、しばし悩む。
「……まずは謝罪でしょうか」
「謝罪?」
 アザトースに伝道師が頷いた。
「勝手に伝道師の名を使って申し訳ありません。まさか他にこのような名を持つ者がいるとは思わなかったので……」
「……まるで、伝道師ではないような口ぶりですね」
 アザトースに言われ、伝道師は空を見上げた。空は闇に覆われ、所々に星が輝いていた。
「ええ、その通りです」
 自身を否定した伝道師に、一同息を呑んだ。
「咄嗟に名前を使っただけです……ですが勘違いされているように愛の名の下に暴動を起こしているテロリストというわけでもありません」
「違う、というのか?」
 唯斗が横から口を挟む。伝道師は静かに頷いた。
「何処が違うってんだ? 現にあんなに被害を――」
「その辺り、僕もちょっと気になってた」
 唯斗の言葉を遮り、アゾートが言う。
「一緒について行ったけど、見ていた限りカップルだから、って襲うようなことはしてない。手を出すのも先に手を出されたから応戦していたのがほとんどだった」
『例外もあったけど』とアゾートは心の中で呟いた。
「……ねえ、キミは何が目的なの?」
 アゾートに見られた伝道師が一つ、溜息を吐いた。
「――【愛無き者達】の襲来を防ぐ。それが私の目的でした」