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うそ!

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うそ!

リアクション

 
 

うそが来る

 
 
「うんうん、そーだったよ。前にナラカのおにーちゃんたちの姿を見られたときは嬉しかったよー」
 ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)が、世界樹の展望台の一つで誰かとおしゃべりしている。
 鷽だ。
 テーブルの上に乗っかっている鷽の前には、ノーン・クリスタリアが用意したティーセットとお茶請けとしてのカヌレがおいてあった。
「今日は、鳥でも食べられるお菓子を用意したんだよ。気分がいいからちょっと歌でも歌っちゃおうか。おにいちゃんと環菜おねーちゃんも、ここにいればいいのになあ」
 そう言いながら、ノーン・クリスタリアが幸せの歌を口ずさみ始めた。
「うしょしょしよ〜ん。うしょ〜ん」
 ノーン・クリスタリアの歌声に合わせて、鷽がなんとも奇妙な鳴き声をあげる。
 そのおもしろさに、ノーン・クリスタリアが思わず顔をほころばせて聞き入った。
 その背後を、身体がぺったりとくっついて離れなくなった御神楽 陽太(みかぐら・ようた)夫妻が通りすぎていったが、ノーン・クリスタリアはまったく気づいてはいなかった。
「なあに、歌が聞こえると思ったら、ダンスパーティーでもしているの?」
 しっかりとだきあったまま横を通りすぎていく御神楽陽太たちを見送った綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)が、二人がやってきた歌が聞こえてくる方を見た。
「何、その変な鳥。まるで、コスプレしているような鳥は……。わかったわ、私に対する挑戦ね。受けてたつわよ」
 そう言うなり、綾原さゆみが右手にアコースティックギター、左手にエレキギター、口にはフルートを銜えて歌い出……せるわけがない。両手がふさがっているのでフルートは銜えるしかない。そんな状態では、まともな歌は無理だった。
「ぼえー、ぼえー!!」
 吐き出す息がフルートを伝い、なんとも奇妙な殺人音波を響かせた。
「何、それ、歌じゃない!」
 思わず、ノーン・クリスタリアが耳をふさいでうずくまった。
「こ、こんなはずじゃあ……。昨今のレイヤーだったら、歌の一つくらい歌えるはず……」
 思わず銜えていたフルートを首を振って振り払うと、綾原さゆみが呻いた。
『ららら〜♪』
『らんらんらんら♪』
 そのとき、なぜか綾原さゆみの胸のあたりとお尻のあたりから歌声が聞こえてきた。
「きゃあ、さゆみ、なんて格好をしているのよ」
 綾原さゆみの変な声を耳にして駆けつけてきたアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)が、思わず叫んだ。
 いつの間にか、下着姿になっていた綾原さゆみのそばで、ぺったんこな二次元状態になったロンTワンピとショートパンツが踊りながら歌を歌っている。
「ははははは、あなた、レイヤーがずれているわよ。それにしても、ちゃんとお着替え用に、上着のレイヤーを用意しているだなんて、やるわね。音符のレイヤーはどこ?」
 なぜか展望台に作られていたステージの上から、ラブ・リトル(らぶ・りとる)が挑戦的に言った。
「そんな、ぼえー、レイヤーに、ぼえー、歌が歌えて、ぼえー、なんで私には、ぼえー、歌えないのよお!」
 歌が歌えるレイヤーが外れている綾原さゆみが、床にペタンコと座りながら声にも歌にもならない超絶音波の声を発した。どうやら、コスプレディーヴァだったため、ずれたレイヤーと共に歌のスキルまでずれてしまったようだ。
「や、やめて、さゆみ、鷽をやっつけられない……」
 超音波のような声によろめいて、アデリーヌ・シャントルイユが言った。この無茶な現象が、さっきからイルミンスール魔法学校中で放送されている『鷽に気をつけてください』という警報の正体だと気づいたのだが、こんな状態では肝心の鷽を攻撃することができない。
「こ、この私にプレッシャーを……。なんていう歌声なの。やるわね、あなた。でも、本当の歌にひれ伏すのはあなたよ。あたしの歌を聴けー!
 マイクを手にすると、ラブ・リトルがステージの上でラブ・ソングを歌い出した。
「どうしたの? 身体が勝手に……」
「きゃん」
「ぼえ?」
 ラブ・リトルの歌声を聞いた他の三人が、ぺたんと展望台の床にひれ伏す。と言うよりも、何か見えない力で、突然上から押さえつけられたという感じだ。鷽さえも、テーブルの上でペタンコになっているらしい。
 そんなテーブルの上でも、変化が起きていた。
 お菓子がもぞもぞと動きだしたのである。
 鳥でもなんでも食べられるお菓子が、鷽に襲いかかったのだ。
「うしょーん!?」
 逃げる間もなく、鷽がお菓子に食べられた。
「ええっ、鳥でも食べられるお菓子だと思ったのにぃ!?」
 予想の斜め上の事態に、ノーン・クリスタリアが悲鳴をあげた。
 いや、鳥でも食べてしまうお菓子になりました。
 ぼん!
 鳥喰いカヌレに一呑みにされた鷽が、突然爆発して分裂した。
「うしょーん」
「あっ、逃げた!」
 四方八方に飛び散るようにして逃げていく鷽をさして、アデリーヌ・シャントルイユが叫んだ。
「も、戻った……」
 服が元に戻ったと同時に声も通常になって、綾原さゆみがほっと安堵の溜め息をついた。
「な、なぜ、私の歌にひれ伏さないの……」
 鷽が飛び去ったのでなんとか立ちあがったアデリーヌ・シャントルイユたちを見て、ラブ・リトルがガーンとショックを受けていた。
「私の歌の力が効かないなんて……」
 ステージのなくなった展望台の床にがっくりと両手をつけて、ラブ・リトルがつぶやいた。