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うそ!

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うそ!

リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「私は、緋山 政敏(ひやま・まさとし)の嫁だ! だから、自動的に、緋山政敏は私の婿なのだ!」
「何それ、訳分かんない。ばっかじゃないの!」
 今にも角突き合わせそうな勢いで、綺雲 菜織(あやくも・なおり)カチェア・ニムロッド(かちぇあ・にむろっど)が言い合っている。
「勘弁してくれ……」
 彩音・サテライト(あやね・さてらいと)をかかえた緋山政敏当人は、すでに逃げ腰だ。
「こうなったら、その実力で勝負しようではないか」
「いいわよ。殴り合いだろうと、イコン戦だろうと、受けてたつわよ」
 ほとんど売り言葉に買い言葉で、綺雲菜織とカチェア・ニムロッドが対決を決定する。
「いや、イコン戦って、ここにないし。召喚でもしない限りここには……」
「だったら、召喚して。仮にも、コンジュラーでしょう」
 戸惑い続ける緋山政敏に、カチェア・ニムロッドが怒鳴った。
「いくらコンジュラーだからと言って、イコンはさあ。こんな感じか?」
 そう言うと、緋山政敏がちょっと嫌々カードを懐から取り出した。奇妙な幾何学模様がデザインされたメタリックなカードだ。
「サロゲートエイコーン、イーグリット・アサルト、月虹!」
 カードを高々と掲げて、緋山政敏が半ばやけくそで叫ぶ。
 風が巻き起こり、木の葉と半透明のブラジャーが周囲を舞い踊った。その竜巻の中から、イコン月虹が現れる。
「あちゃー、召喚できちゃったよ」
「なあんだ、やればできるじゃない」
 召喚した本人が唖然とする中、カチェア・ニムロッドが月虹に乗り込んでいった。無骨な白いボディに魂が宿り、胸の鷽マークが赤く輝いた。
「こっちだって! 来い、サロゲートエイコーン、ジェファルコン、不知火・弐型!」
 綺雲菜織がまねをして、イコンを召喚する。雷光が大地に突き刺さり、鎧武者に似た蒼いイコンが大地に降り立った。
「危ないから離れていなさい」
 彩音・サテライトに言うと、綺雲菜織がイコンに乗り込んだ。こちらも胸の鷽マークが赤く輝く。
『あなたは私の敵です』
 月虹が、ビシッと不知火・弐型を指さした。
『ええい、こんな物邪魔だわ。あなたなんか、拳で叩き伏せてあげる』
 カチェア・ニムロッドが、月虹の持っていたビームライフルとシールドを投げ捨てた。
『いいだろう、この女狐め。決着をつけよう』
『だ、誰が女狐ですか! そっちこそ女狐でしょう!』
『こん。こんこん』
『こーん、こんこんこーん』
『こん?』
『こんこん!』
「なんだなんだ、二人ともどうしたんだ?」
 急にこんこんしか言わなくなった二人に、緋山政敏が首をかしげた。
 そのころ、双方のコックピットの中では、二匹の狐が混乱していた。
『こーん、こんこん!』
『こーん、こんこん!』
 あわてつつも、二人がイコンの言語コントロールフォーマットを狐語に変えた。二人の脳波信号を受けて、イコンが動くようになる。
 月虹が、両手を軽く揃えて、格闘の構えをする。
 対する不知火・弐型も、剣とライフルを捨てて身構えた。
『こーん!』
 月虹が、スラスターを使って一気に正拳を叩き込んだ。先手必勝である。
 待ち構えていた不知火・弐型が、左腕で月虹の拳を受け流した。そのまま機体を回転させ、右腕を敵に叩き込む。
 即座に対応した月虹が、身を低くしてスラスターでかろうじて転倒を回避しつつ回し蹴りを放った。
 あわてて不知火・弐型がスラスターをふかしてジャンプするが、月虹の脚が不知火・弐型の脚をかすめた。横転したかに見えた不知火・弐型が、スラスターを絶妙にコントロールして側転を決めた。
 間髪入れず、両機が反転して拳を繰り出す。その一発ごとに、装甲が形を変え、破片が飛び散っていった。
「あーあ、機体がボコボコじゃないか。二人とも大丈夫なのかな」
「なのかなー」
 安全な所に避難した緋山政敏と彩音・サテライトが、まるで人ごとのように言った。
『こーん』
『こんこーん』
 貴様なかなかやるな、おまえこそ……と言う意味だったかどうかは別として、二人がいったん間合いをとりなおした。
 すでにイコンのマニピュレータはぼろぼろで、五指の判別すら定かではない。肩や肘の関節も限界だ。それ以上に、脳波コントロールによるパイロットへのフィードバックもかなりな物になり始めている。
 次で決める。誰相談するでもなく、綺雲菜織とカチェア・ニムロッドが身構えた。
「はははは、ペのつく天使、黒いセル・ラインツァート……じゃなかった、クロセル・ラインツァート、最後のお願いに参りました!」
 大きな鷽を踏みつけるようにして落下スピードを抑えながら、クロセル・ラインツァートが二人の間を落下していった。それを合図として、二機のイコンがぼろぼろの拳を突きだした。
 装甲の擦れあう音を盛大に響かせて、二つの腕が交差した。それぞれの拳が、互いの胸の鷽マークを真正面から捉えていた。
『やるな……』
『あなたこそ……』
 二人が互いを認め合ったとたん、貼りついていた鷽と共にイコンが消滅した。
 空中に放り出された綺雲菜織とカチェア・ニムロッドがクロセル・ラインツァートの上に落ちてくる。
「ちょ、ちょっと、定員オーバーです!!」
 叫ぶクロセル・ラインツァートごと、定員オーバーとなったジェットドラゴンが墜落した。
「じゃあ、彩音ちゃん、後はお願いね」
「はーい」
 後のことを彩音・サテライトに任せると、緋山政敏はややこしくならないうちにさっさと逃げだしていった。