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リアクション
*思いを告げるお茶*
「わぁ、このケーキ銀の葉と金の葉が添えてありますよ!」
ニーフェ・アレエの喜びの声に、川原 龍矢(かわはら・たつや)はちょっと自慢げに笑った。
大いに盛り上がりを見せている会場の中、南條 琴乃(なんじょう・ことの)はいなかった。
「はぁ、ボクもカノコお姉様に逢いたいなぁ〜」
シリル・フォレスト(しりる・ふぉれすと)がルーノ・アレエとニーフェ・アレエのことを見ながら無双にふけっていると、森の 伝承歌(もりの・でんしょうか)は静かにお茶を飲んでいた。
それを遠巻きに眺めていたのは、永井 託(ながい・たく)だ。
手にしている水筒には、桜酒が入っている。
「あっちは、楽しそうだな」
一呼吸おいてから、呼び出された場所へと向かった。
「琴乃さん!」
「託、待たせてゴメンね」
にっこり笑う南條 琴乃は、いつもよりおしゃれをしている……! ように永井託には見えた。
「座ってみるのも良いんだけど、桜並木を歩いてみようよ」
「あ、ああ」
ゆっくりと二人で歩き出す。手が、触れるか触れないか程度の距離にある。
優しい香りが、鼻をくすぐる。それが南條 琴乃から発せられているものだと再認識すると、頬が熱くなって行く。
「どうしたの? 託」
「あ、いや。桜が綺麗だねぇ……といっても、琴乃さんのほうがかわいくていいのだけれどねぇ」
「うんうん、いま託と一緒だから、またあとでね。あ、ごめんね。今電話が来てて聞こえなかった。何?」
「いや、桜が綺麗だねぇってだけだよ」
心の中で涙を流しながら、それでも臭い台詞を聞かれなかった幸運を喜びながら、進んだ。
丁度よさそうなところに、ベンチが置かれていた。これもイベントのためなのだろうか。二人は腰掛けると、永井 託はここぞというところで桜酒を取り出した。
「飲む?」
「ありがとう」
コップを渡して注ぐと、甘い香りが鼻をくすぐる。これだけ甘い香りなら、砂糖がなくても平気だろうと、そのままコップをぶつけて軽く乾杯をする。
そして、口の中を優しい香りが満たしていく。心が無意識のうちに落ち着いて、永井託は呼吸を置いて横を見た。何かを、お祈りしている様子の南條琴乃をまってから、声をかけた。
「琴乃さん…いや、琴乃。僕は君が好きだ。だから…付き合ってほしい」
頬が熱い。いや、首、耳までまるで発火しているかのように熱い。
心臓の音が頭に響いて、一瞬が数時間のように感じられた。
「ありがとう、うれしい」
にっこりと笑った南條琴乃の顔に、永井 託ははっと気がついた。
(ありがとう嬉しいの次に来るのは、でもゴメンね、友達でいて……!?)
だが、その続きはとてもあまやかな言葉でつづられた。
「これからどうぞよろしくね」
そう、はにかみながら南條琴乃は永井託の手をとり、握手をした。
わずかに嬉しそうな彼女の笑顔が、YESだとそう告げていた。桜の花びらが一斉に二人を包み込んだ、かのように感じられるほどだ。
「よろしく、琴乃」
永井 託もテレながらその細い手を握り返した。
そして、彼にとって三人目の呼び捨ての人となったのだ。
二人で手をつなぎながら桜並木を戻って宴会場へ向かっていると、永井 託が疑問におもったことを口にした。
「桜酒を飲んだとき、だれかとはなしていたのかい?」
「うん。昨日の私」
クス、と笑いながら南條琴乃は、内緒話を教えてくれるかのように、こそっと耳打ちをした。
「桜並木を、こうして誰かと歩きたかったの。誰と? っておもったとき、託の顔が浮かんだんだけど、どうしようか迷ってたの。その時、やっぱり託がいいって、声がしたの。多分、だけどね。で、今日実際に歩いてみて、やっぱり託で良かったって思って、昨日の私に話しかけたの。やっぱり託がいいって」
桜酒のおかげだね。
南條 琴乃が小さく笑うのを見て、永井託はたまらなくなり、頬に唇をそっと触れさせた。
「え?」
「ごめんね。あんまり琴乃がかわいいから。これからも、よろしく」
「う、うん。よろしくね、託」
頬の熱を冷ましながら、南條琴乃は宴会場へと戻った。手をつないでいるところをパートナーたちにさんざん冷やかされながらも、逆に自慢して回るくらいに、新しいカップルは熱々だったのでした。
*恋人同士として、初めてのお花見*
宴会場の、コスプレ大会を横目に、綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)は小さくため息をついた。
参加、して見たかったという気持ちと、恋人と過ごす大事な時間を天秤にかけたつもりではいたが、できたら参加はしてみたかった。
でも……と隣を見る。アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)が嬉しそうな笑みを浮かべて、手をつないで歩いている。
「それだけでも、十分幸せだよね」
綾原 さゆみのことばに、アデリーヌ・シャントルイユは小首をかしげた。
「ううん。なんでもない。春一○のコスプレするなら、猪木のコスプレのほうがいいよね!」
「さゆみ、もっとわからない……」
怪訝そうな顔をするが、とりあえず、と適当な場所に腰掛ける。
幸い、近くのテーブルの人々がお菓子と料理を分けてくれただけでなく、桜酒も振舞ってくれた。
甘さを控えたお菓子を堪能しながら、二人で、桜の花びらが浮かぶ桜酒を飲み干した。
香りが二人を包み、香りに酔っていた。ノンアルコールではあるが、ふわふわと幸せな気持ちになっているのは、きっと恋人といるからなのだろう。そうおもって、綾原 さゆみはアデリーヌ・シャントルイユに頭を預けた。
それを嬉しく思う反面、アデリーヌ・シャントルイユの思いは少し遠くに合った。
遠い昔のこと、自分の恋人を喪ったあの日のこと。
自分のせいで、自分がいなければと何度も思い、後悔しつづけた。
その公開の暗闇から救ってくれた、愛しい人が、今傍にいる。
今隣にいる愛しい人は、あと何年生きられるだろう。あと何回、こうして楽しい時間を過ごせるだろう。
それを考えると、涙が零れ落ちそうになる。
嗚咽を漏らしそうになる恋人に、綾原さゆみは耳元に唇を寄せた。
「春が終わったら、夏は二人で海へ行き、秋は一緒に紅葉の下を歩いて、冬は二人で雪だるまを作って……そしてまた春が来たら、ここへもう一度、一緒に桜酒を飲もう……そうやって、これからもすーっと一緒にいようね、アディ」
その言葉に、目を丸くした。アデリーヌ・シャントルイユは、心を見透かされたかのような思いで涙を零した。そして小さく頷くと、綾原 さゆみの手をぎゅっと握り締めた。
「ありがとう。ありがとう、さゆみ」
そして、自分の唇を恋人と重ねた。桜の花びらが、頬を掠めていく。まるで夢のような柔らかくはかない感触の口付けは、いつまでも離れがたく長く口付けを交わしていた。
離した唇は、銀の糸で名残惜しそうにつながっていた。赤い顔をした綾原 さゆみは微笑みながらもう一度大切な言葉を口にした。
「アディ、大好きだよ」
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