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ハードコアアンダーグラウンド
ハードコアアンダーグラウンド ハードコアアンダーグラウンド

リアクション

「んじゃま、早速やらせてもらおうか」
 そう言うと、梓紗の身体に変化が生じる。
 額から長短二対の鋭い角、頭の横から一対の薄い羊の角が生え、身体はまるで化け物のように筋肉質に変わる。
「ふー……やっぱ何度やっても慣れないな【鬼神力】は……まあいい、さっさとやるか」
『んなのアリかよ!?』
 金網内の選手全員でツッコミを入れる。

『おぉっと!? 開始早々梓紗選手が空気も読まず【鬼神力】で己を強化したよ!?』
『これどうなんだ? 確かに反則無しって言ってもなぁ……』
『俺達がどうこう言っても仕方がない。レフェリーの判断を待とう』

 選手全員の視線が、リリィに注がれる。
 目を閉じ、「んー」と腕を組み、考える仕草を見せるリリィであったが、カッと目を見開く。
「ファイッ!」

『ゴーサイン出たね』
『問題なし、という事だろう』
『それじゃ試合続行だな』

『良いのかよ!?』
「良いのよ! さっき言ったでしょ!? 『レスラーたる者、最強の者と戦う事になっても臆してはならない』って! それにこれであーだこーだ言うなら彼女がダメでしょ!?」
 リリィが真姫を見ると、全員渋々頷いた。入場時から使っていたから忘れていたが、彼女も【鬼神力】を使っているのだ。
「だから文句言わずにファイッ!」
 リリィはこれ以上聞く耳持たない、というように選手たちを促す。判定は覆ることはなさそうだ。
「こ、こんな所いられるか! さっさと出るっスよ!」
 そう叫ぶや否や、アレックスが金網を上りだした。

『おーっと、アレックス選手いきなり金網を上りだしましたよ?』
『ルールは違反していないけど、マナー違反だな』

「はいはーい、撮影しますねー」
 そんなアレックスにセレアナがカメラを向け、シャッターを押す、と見せかけて【光術】を放った。
「うぉッ!? まぶしッ!」
 光に目を眩ませ、アレックスの手が止まった。
「そんなすぐ終わらせませんよ!」
 姫星が金網越しにアレックスをパイプ椅子でぶん殴る。直接のダメージは無いが、衝撃で金網が揺れた。
「全く、試合は始まったばかりですぜ」
 それに続く形で、ガイが金網を蹴飛ばし更に揺らした。
「うわっ!?」
 予想以上の揺れに、アレックスが金網にしがみつくように身を固めた。
「それっと」
 そしてアルベールが持参してきたプロテインの粉をアレックスの顔に投げつけた。 
「あぶッ!?」
 直撃したアレックスの顔が白く染まり、気管に入ったのか咽る。
「……容赦ありませんねぇ」
 そんなセコンド陣を、ミスティが苦笑して眺めていた。
「さて、もう一発――きゃあッ!?」
 咽るアレックスを叩き落とそうと、姫星が再度パイプ椅子を振りかぶった瞬間、椅子に稲妻が襲い掛かった。思わず手を離し、床に椅子が落ちた音が響く。
「うちのバカ兄貴に何するのよ!」
 姫星にサンドラが怒鳴る。先程の稲妻はサンドラの【天のいかづち】によるものだ。
 その瞬間、場内からブーイングが起こる。プロレスの試合を見に来た観客達が、露骨な魔法を見せられた事による不満から起きた物だ。
「あぁ!? 何よあんたら! 文句あるなら自分でやりなさいよ! なんなら私が相手になるわよ!」
 サンドラは教科書を構え、観客に怒鳴りつける。
「じゃあ、相手になってもらうね」
「――え?」
 気付くと、サンドラの身体がふわりと浮き、
「あぐッ!?」
後頭部を床に叩きつけられていた。そこには、リリィの人間橋がかけられていた。
「お客さんに迷惑をかけない! 覚えておくことね!」
 そう言うと、リリィは金網をよじ登り、リングへと戻っていく

『リリィレフェリーのジャーマンがサンドラに決まったー! 見事な人間橋だったわね!』
『……レフェリーが技をきめてもいいのか?』
『あれは仕方ない。このヴィゼントからも申し訳ないと謝らせてもらいます』

「ゴホッゴホッ……うわっ!」
 一方、場外の濃い展開に忘れ去られかけていたアレックスは、プロテインパウダーに咽続けており、うっかりと手を放してしまう。
「あうっ!」
 結果、金網から落下。受け身も満足に取れず、背中から落ち呼吸が一瞬止まり蹲る。
 そんな落ちてきたアレックスを見て、リング上の選手の頭に浮かんだことが一つ。

――こいつボコっちまえばよくね?

 そうと決まれば、取る行動は一つだ。

『あぁーっと総勢11名によるストンピングの雨あられ! その道の人にとってはご褒美でしかない攻撃ね!』
『アイツはその道の人じゃないからダメージはでかいぞ!』

 選手全員のストンピングを食らった結果、残ったのはぼろ雑巾のようなアレックスであった。

「ちょい待ち。これでこの試合終わっていいと思う?」
 リリィが問う。選手達には、苦笑しか答えが出ない。
 普通に考えていいわけがない。こんな試合見せられたら『責任者おるかー?』レベルである。
「……ファイッ!」
 というわけで、仕切り直しのリリィの声が響き渡った。