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リアクション

「レティ!」
 場外からミスティがレティシアに向かって手袋を投げつける。猫の手袋を模したそれには、凶器となる爪が装着されていた。
「ナイス! 行きますよぉ!」
 レティシアが手袋をはめると、黎明華の顔面を掻きむしる。
「あぐっ!」
 顔面を押さえ、蹲る黎明華。
「お尻に自信があるようですが……あちきも結構自信あるんですよねぇ!」
 そう言ってレティシアがロープへと走る。だが、
「貰ったぁッ!」
その勢いを利用し、ラルフがレティシアをパワースラムで叩きつける。
「こっちも頂きなのだぁ〜!」
 起き上がるラルフを狙い、いつの間にかコーナーに上がっていた黎明華がダイブしてヒップアタックを当てる。
「ぐぉッ!?」
 耐えきれず、倒れるラルフ。
「ひゃっはぁ♪ いっか――」
「せませんねぇ!」
 歓喜の声を上げようとした黎明華の背後を、レティシアがクラッチ。そのまま後方へジャーマンでぶん投げる。
「ひゃぁッ!」
 隙を突かれ、受け身を取り損ない黎明華は後頭部を打ち付ける。だが、レティシアもパワースラムのダメージが残っており立ち上がれずにいた。

『トリプルノックダウン! 激しい技の応酬に起き上がれないよ!』
『どいつもこいつも何処にこんなスタミナ残しているんだ! 信じられねぇぜ!』

 一方で、真一郎と椎名も熾烈な戦いを繰り広げていた。
「せぇッ!」
 椎名が痛みをこらえながら数発、素早い蹴りを真一郎に叩きこむ。
「ぐぅっ……!」
 蹴りを受けながらも、動きが止まる真一郎。その隙を狙い、椎名がスピンキックを放つ。
「しゃあッ!」
 だが、真一郎はタイミングを合わせて水面蹴りで椎名を転がす。
 そのまま、椎名の足を捕らえてヒールホールドを狙う。が、
「そう何度も食らってられないんですよ!」
体を反転させ、逆に真一郎の足を捕らえようとする椎名。
「ちぃ!」
 捕らえるのは難しいと判断した真一郎が、椎名を押す様に蹴り技を解く。
 お互い距離を取り、真一郎と椎名の視線が一瞬交差する。

『きゃー! 真一郎さん頑張ってぇー!』
『こっちはまるで総合みたいだ! 一瞬の隙が命取りになるぜ!』

「あー……面白いんですが、そう遊んでも居られませんねぇ……」
 息を乱しながら、レティシアが起き上がる。
「ふふふふ……勝利の美酒を味わうのは黎明華なのだ! 渡さないのだ!」
「俺もルチャの真髄を見せてやろう!」
 黎明華、ラルフが起き上がり、3名が対峙する。
「ねぇ、レティ……というか皆」
 その時、場外からミスティが声をかける。
「どうしたんですかねぇ?」
「……あれ、見てよ。そこのお2人さんもちょっとあれ見てー!」
 ミスティが真一郎、椎名にも声をかけ、指さす。
 
 その先には、、一人だけ戦闘から外れ逃げ回る選手がいた。アレックスである。彼の場合、隙あらば金網を狙いよじ登っていた。

「あーもー……ちゃんと戦いなよー……」
「いい加減試合見せなよー……」
 半分呆れつつ、リリィや試合が終わっている場外のセコンドまでもがアレックスを金網から叩き落とした。
 だが、何度叩き落とされても起き上がるや否や、金網に向かって行く。

――流石に、その光景に全選手がイラッとした。

「もういいんじゃないですかねぇ?」
 レティシアが言うと、全員が頷いた。

 痛む足を引き摺りつつ、アレックスが金網に手をかけるとロープを足場にしながら登りだす。
 トップロープまで足をかけたところで、一つ溜息を吐いた。
「そう焦らなくてもいいんじゃないですかねぇ?」
 アレックスの背後をレティシアが飛びつくと、体に手を回してクラッチする。
「ひ、ひぃッ!」
 そのままジャーマンで投げ捨てようとするが、必死に金網にしがみついてアレックスは抵抗していた。
 その時、コーナーを椎名が駆け上る。そして金網に飛びつき、
「しゃッ!」
足場にして三角飛びの要領でアレックスの顔面を蹴り飛ばす。
「あぐぁッ!」
「貰ったぁッ!」
 アレックスが金網を離した瞬間、レティシアがジャーマンでぶん投げる。
 トップロープから高さは十分。後頭部からアレックスはリングに叩きつけられる。
 だがそこで終わらない。アレックスを無理矢理、黎明華が引き起こすとパワーボムの体勢に入る。
「ふん!」
 持ち上げた状態を数秒保ち、十分タメを作ってから、
「サムライパワーボム! くらえぇい!」
後頭部をリングに叩きつけた。
「いっかすぅ〜〜!」
 大の字になるアレックスを足元に、黎明華が高々と手を上げて叫んだ。
「これで終わらせないぞ?」
 ほとんど気を失っているアレックスを、今度は真一郎が無理矢理引き起こすとブレーンバスターの構えに入る。
 抵抗もなく持ち上げられるアレックス。だが真一郎はすぐには落とさず、滞空させる。
「悪いがプロレスをやらせてもらう……はあぁぁぁぁッ!」
 そして、跳躍しつつアレックスを落とす。ただ落とすのではなく、自分の身体も浴びせて落とす。ジャックハマーと呼ばれるブレーンバスターの一種である。
「ぐぉッ!?」
 真一郎の体重を乗せられて背面から叩きつけられたアレックスの口から呻き声が漏れた。

『きゃー! 真一郎さーん! 素敵ぃー!』
『落ちつけルカ』
『いやいやこいつが落ち着いていられるか! アレックス選手がド派手な技で沈められたんだぜ!? おっと、その間にジャガーマスクが金網を上ってる!』

 他の選手達がアレックスに大技を仕掛けている間、ラルフは金網を上っていた。
 誰にも邪魔されることなく最上に辿りつき金網の上に立つ。
 するとラルフは振り返り、リングを見下ろした。
 そこには放置されていた机が組み立てられており、その上に残った4人がかりで乗せられて大の字になったアレックスが居た。
「ヨ、アラス バリエンテ(我、勇敢な翼)!」
 叫ぶと同時に、ラルフは金網から跳ぶ。
 そして前方に飛び上がりつつバック宙しながら回転――シューティングスタープレスでアレックスを机ごと押し潰した。

『空飛ぶジャガーの流れ星だぁぁぁぁぁッ!! 金網上からのシューティングスタープレスがアレックスを襲う!』

「あぐぁぁッ!」
 アレックスの身体に、内臓が潰されそうな衝撃が降りかかった。
 白目を剥き、ピクリとも動かなくなる。
「……よし」
 その様子を見た選手たちは頷き、各々金網を上り始める。
 誰もお互いを邪魔することなく。ただ黙々と上る。
 そして、ほぼ同時に5人の選手が金網上に立ち、ゆっくりと外へと降りていく――瞬間、ゴングが鳴り響いた。

『試合終了! 最後はなんと全員が手を組んでアレックスをぶちのめした! あれは仕方ない! このヴィゼントも謝罪します!』
『全くすごい展開だったな。……ああ、ルカは真っ先に鷹村氏に抱きつきに行ってしまったよ』
『あ、本当だ……まぁとにかく試合終了! だがこの後はいよいよメインイベントだ! この後も過激な試合が待っているぜ! 見逃すんじゃねぇぞボンバー!』