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〜 STEP 1 ヒーロー・ビギニング 〜


 イベント2週間前・ヴァイシャリー某広場前 


 「ここが2週間後にキッズイベント会場になる広場だ
  販売エリアの出展やその他の出し物はもう粗方決まってるらしい、決まってないのは」
 「例のヒーローショーのみ……というわけですね」

目の前に広がる広場を前に説明をする山葉 涼司(やまは・りょうじ)の言葉に風森 巽(かぜもり・たつみ)が続く

昨日まで学園内にて張り出された『ヴァイシャリー・キッズイベント』のメインステージの参加者募集の掲示……
遊びに来る子供達に相応しい内容を……という事で涼司がイベントの主催である百合園と協議の末、決めた内容は
子供達にお馴染みの『ヒーローショー』だった

通常の戦闘ではない見世物としての戦いにどれだけ興味を惹かれ、参加者が募るのか不安ではあったが
それなりの参加希望の声が上がり、こうして視察と説明の場に数人が同行したのである
見れば、メインステージの設営予定の場所を見ながら林田 樹(はやしだ・いつき)が腕を組んで思案にくれている

 「キャスト希望がヒーロー側が16人、悪側参加が20人……それぞれの能力と個性を生かした舞台にするのか
  舞台強度だけでなく、広さも考慮に入れる……音響や照明の規模も一筋縄じゃないな」
 「というか、司会のお姉さんだけでも8人もいるとは思わなかったよ
  気軽に希望を出しちゃったけど、内容を考えるだけでも一苦労だよ?どうするの?」
 「ステージが派手になれば、それを見るお客さんの安全も考えないといけないよ……」

続けての小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)の言葉に数人が頷く
その様子を見て、改めて涼司が巽に向き直り口を開いた

 「……とまぁ、こんな感じで消化しないといけない要素が山程あってね
  悩んでいたところに、裏方希望の君の名前を見つけたと言うわけさ
  仮面ヒーローとして様々な経験を積んでいる君なら、統括として突破口を開いてくれると思ったんだ
  風森 巽、君に舞台監督と演出をお願いしたい……頼まれてくれるかい?」

校長自らの指名に珍しく頭をかきながら巽が答えた

 「こういう立場と言うのはそうそう無いんですが……仕方ないですね
  自分なりにですが、やらせて貰いますよ……みんなも宜しく」
 「不肖ながら演出補佐位なら私も何とか出来ると思う
  今回は生憎パートナーがキャスト志望でね……裏方役、遠慮なくやらせて貰う、こちらこそ宜しく」
 「ちょっと!それじゃあたしが我侭言ったみたいしゃないよ〜!」

コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)の言葉にラブ・リトル(らぶ・りとる)が文句を言う中
進行の中心が決まった安心と勢いで、徐々に役割を自己申告する者が出始める

 「なら私はコタロー達と音響を担当する事にしよう。ステージの設営は衛ならうってつけだろう
  もう少し手が欲しいけど、そこは再募集を募ってみるよ」
 「ヘスティアはハデス様から照明役をやれと仰せつかってます。及ばずながらお手伝いさせて下さいませ」
 「なら私は進行補助を……ちなみに演出もそうですが予算枠もしっかり計算する必要があるわね
  何をするか考えるのと同時進行でそっちの検討も宜しく、舞台監督さん」

樹やヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)そして高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)が名乗りと同時に役割の段取りを
つけていく中、司会希望の美羽がふくれっ面でいるのを見つけ涼司が声をかけた

 「何だか不満そうだな?思う所があったら言っていいんだぞ?美羽」
 「……別に不満じゃないんだけど」

目をそらす美羽を可笑しそうに笑いながら火村 加夜(ひむら・かや)が涼司に説明をする

 「司会役が以外に多かったのがちょっと不満なんですよ、結構張り切って立候補してましたから、美羽さん」
 「そう言う加夜だって同じじゃん!折角子供の前で目立てると思ったのに〜」
 「目立つ事が司会の役割じゃないだろう……」
 「そうだよ、目立ちたいならもっと誰もが狙わない所を狙わないとね〜」
 「だからってルカみたいにダークヒロインなんて嫌だもん!」

加夜の言葉に抗議で返答する美羽
その言葉に涼司が溜息で返しルカルカ・ルー(るかるか・るー)が追い討ちで茶化して喧々とする中
まぁまぁと加夜が仲裁に入る

 「大所帯でやるのだから、司会や応援だって人数が多い方が盛り上がりますよ
  司会は後ほどみんなで役割を決めましょう、練習だって必要ですしね」
 「宜しく頼むよ、加夜。これでイベントもどうやら進めることが出来そうだな。しかし……」
 「?……しかし……なんです?涼司君」

加夜が怪訝に覗き込む中、リストを見ながら涼司が苦笑しながら呟いた

 「ヒーローショーと言ったわりに、ヒーロー側の参加者が殆ど女性なのは時代かな?
  まぁ悪側の参加が以外に多かったのは驚いたけどな」
 「……だったら、涼司君が参加すればいいんじゃないですか?ヒーローとして」
 「………………………は?」 

その言葉に、涼司が驚いて加夜の方を向く
何か思いついた様な加夜の表情は悪戯っぽい笑い顔に満ちていた
突然の提案に柄にも無く涼司が口をパクパクとさせている中、面白そうにルカルカが話に便乗する

 「それいい!似合うよ涼司!きっと百合園の二人もOKしてくれると思うよ!
  衣装だって進んで誰か考えてくれるよ!」
 「ちょっと待てルカ!俺はまだ参加するとは言ってない!それに俺が参加したら学園が」
 「大丈夫だよ〜、生徒だって進んで協力してくれるよ〜?
  これは一番の目玉だよ!うふふふふふふふふふ衣装とか誰に頼もうっかな〜?」

ルカルカのテンションが上がる様に涼司が変な汗を流してい固まっている中
その様子を傍らに見ながら、ラブ・リトルが巽に質問をする

 「……でも普段あんなに変身したり大暴れしてる巽が裏方なんて、ぶっちゃけ意外なんだけど
  どういう風の吹き回しなの?」
 「ああ、それはだな……」

彼女の言葉に再び頭をかきながら、巽は申し訳なさそうにぼそりと返答するのであった

 「いや………前に参加した空賊退治でスーツとマスク、修理中なんだよ、実はね」