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【●】歪な天使の群れ

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【●】歪な天使の群れ

リアクション

「とりあえず、あのデカブツに混乱してもらうか。行くぞ!」
 複数の口がイコンたちに方向を向けてくると、緋山 政敏(ひやま・まさとし)バーミリオン・Sでミサイルを放ち相殺を狙う。
 機動力を活かした素早い動きで、大天使の周囲を動き回り、混乱を狙った。
 ソニックブラスターの音波をシールド代わりに使い他の機体のための道を作る。
「最終防衛ライン突破!」
 カチェア・ニムロッド(かちぇあ・にむろっど)は、機体がギリギリまで大天使に近づいたところで声を上げる。
「6時の方向の天使の口より、高圧エネルギー反応を感知!」
「いったん離れるぞ!」
「わかったわ!」
 バーミリオン・Sを即座に飛行形態へと変形させる。
 上空への離脱時にガラ空きになってしまう背後を警戒し、上空への離脱のタイミングに合わせノイズ・グレネードををぶっ放した。
 その置き土産に一瞬動きの鈍くなった大天使。
 挟み込むように真司とグラキエスの機体が攻撃を重ねた。
 バーミリオン・Sは一定距離を取ると再び歩行形態へと変形した。
 直後に放たれた絶叫に、ゼノガイストは射程外に即座に飛び出す。
 ツヴァイは敢えて大天使の懐に飛び込むことにより、絶叫を回避した。
 政敏は大気の揺れを感じながら、絶叫の威力や距離を把握していく。

「大絶叫は相当な威力だな。あれが放たれると戦域全体が混乱する」
「あの絶叫はあの人達の魂の叫びなんです。ただでさえ気持ち悪いのにあんな大きな口からなんて……昌毅、これ以上、絶対に撃たせちゃ駄目ですよ」
 昌毅は大絶叫直後の隙をついて一気に大天使の懐へ入り込むと顎下から前腕辺りで待機する。
 とはいえ攻撃の手を休めることはなく、銃火器で前脚にダメージを蓄積させながら機会をうかがっていた。
「敵の攻撃予測と主砲発射タイミングはこっちで計りますので、昌毅……お願いですから一発で決めてくださいね。じゃないと、ボクがもたないかも……」
「主砲発射失敗自爆ダメージ戦法を狙うぜ。一発で駄目なら二回三回と主砲が撃てなくなるまで続けるだけだ。だから、頼むからコクピットで吐くなよ?」
「べ、別に吐くような気持ち悪さじゃないですよ!! 馬鹿言ってないでちゃんと集中してください!!」
 マイアは怒ったように返すが、昌毅の軽口でだいぶ気分が楽になるのを感じていた。

「理知、大丈夫か?」
「翔くん! うん。絶対にこれ以上空京には近づけさせないもん!」
「そうだな」
 翔の機体と連携を取りながら、理知は遠距離と近距離の攻撃をうまく使い分け、戦闘を展開していく。
 周辺機とは智緒が密に連絡を取り合うことで、効率良く大天使にダメージを与えられる位置に動き回っていた。

「……殺れってのか……クソッタレが」
「……苦しい……痛い……声が……嫌! イヤ!」
 村雲 庚(むらくも・かのえ)壬 ハル(みずのえ・はる)とともにソルティミラージュでイコン各機とコンタクトを取りつつ、一定の距離を保ちながら射撃武器で大天使の口を潰し、潰した箇所から接近する。
「エンゲージ……戦闘機動に入る」
 そこからビームランスを叩きこんだ。
 ハルは天使の声を聞き、特有の感受性で感情が不安定になりつつもメインパイロットである庚のサポートに回る。
「フレスヴェルグ! 12時方向!!」
 回りこんできた昌毅とマイアの機体の方向に大天使の口が向くのを確認すると、庚が咄嗟に叫ぶ。
「ヒック……もうイヤ! ふっざけんじゃないわよ! こんなのやり方……ヒック……絶対許せない!」
 ハルが泣きながら怒りを爆発させた。
 その起伏に、大天使の大絶叫を予測する。
「……来るか……? ハル、行けるな?」
「カノエくん……うん……!」
 ソルティミラージュは、放たれる大絶叫に対しあえてメイン口の正面に回り込んで拡散を食い止めようとする。
 最悪落とされるかもしれない。だが、あえて貧乏くじをひくことで、仲間たちに隙を与えようと考えた。
「止まれぇぇぇぇぇぇっ!!!」
 大絶叫が響きわたる。シールドもアーマーも吹っ飛び、ソルティミラージュは動きを止めた。
「カチェア!」
 政敏の声に合わせ、カチェアが無理矢理機動を変更する。
 通常であれば風圧で機体が壊れるところを、変形を使って風を逃がした。
 素早く歩行形態へと変更すると、大天使の口に向かい冷凍ビームを発し、口を塞いでいく。
「智緒!」
「うん!」
 大型ビームキャノンでの攻撃を展開していた理知は、大絶叫の直後、仲間機の攻撃の合間を見計らって智緒に指示を出す。
 バーストダッシュで一気に接近する。
 息を合わせるように翔の機体も大天使へと突っ込んでいく。
 理知はバーストダッシュの勢いを保ったまま、大天使の口付近を狙い重点的にサーベルで斬りかかる。
 口の動きを把握すると、近距離でのビームキャノンをぶつけた。

「昌毅、今です!!」
 マイアの声に、昌毅は下顎へのエナジーバーストの体当たりを食らわせる。
 開いていた口を勢いよく閉じられ、大天使は頭をぶんぶんと振り回し始めた。
 そこに合わせエルデネストがサポートを行い、グラキエスが、大天使の頭部や首に切り口を作るとクラッカーを埋め込む。
「離脱を!」
「ああ!」
 ツヴァイからの通信に、昌毅は即座に大天使射程圏内からの離脱行動をとる。
 グラキエスは埋め込んだレーザーバルカンで誘爆させると、深くなった傷に頭上から加速を加えた斬撃を叩き込み首を落とした。

「くっ……あ……ああっ……」
「ここまでのようですね」
 銃撃が激しくなり、羅儀の精神が不安定になってきたため、白竜が離脱の判断を下す。
 機体に記録された戦闘資料を参考として浩一に取り急ぎ転送すると、彼らは前線から即座に離脱した。
 味方の足を引っ張らないタイミングでのギリギリの判断だった。

「千里、やっていいよ」
 エネルギーシールドを展開したマインドシーカーで、あえて懐に踏み込むようにスラスターを全開にし、剣の根元で斬りにくくすることによってエネルギーシールドへの負荷を軽減。
 大天使の頭を潰すように機神掌を放つ。
 息を合わせ、理知が翔と連携しながら敵を挟み撃ちにして背後を取る。
 口を狙って一息に攻撃を放った。
「ここが仕掛け時か……一気に飛び込む」
 頃合を見計らって真司は新式ビームサーベル以外の武装を全てパージすると、リミッター解除したファイナルイコンソードで大天使のメインの口に対して突撃をかける。

 様々な角度から連続して攻撃を食らった大天使は、声ともつかない叫びを上げると、その場に静かに崩れ落ちた。
「翔くん!?」
「ああ、俺もアリサも無傷だよ」
「良かったぁ」
 翔の声を聴いた理知は、智緒と顔を見合わせるとほっとしたように笑みをこぼした。
 各仲間機で状況を確認しあうと、揃って一瞬だけ黙祷を捧げる。
 
 大天使の絶叫が、まだ耳に残っていた。