リアクション
――、セレモニー車
「別の車両がさわがしいですね……ジャック見てきてくれませんか?」
キングが別の車両の様子を着にし始めた。傍らにいる信者に確かめるように指示を出す。
キングにジャック。呼び方はトランプに擬えていた。
「向こうでも揉め事やっているみたね。こっちで動かないほうが安全かもね」
勿論、ここにいるほうが安全だろう。ここもトレインジャックの現場とは言え、非戦闘地域であることには変わりない。
愚を犯して、別車両に逃げ込むほうがよっぽど危険だ。一般客がそれをするのを抑えこむための一言だった。
「名簿にはアリスという特定の人物は居ないようだ」
と、ダリルが列車関係者から受け取った名簿内を時間をたっぷりかけて調べあげた結果を知らせる。名簿にはアリスの名前はなかった。
「とは言え、その名簿にはセレモニー参加者と寝台車の予約者の名前しか載っていない。一般車両に乗っているならわからないぞ」
燕馬の言葉に、ダリルも頷き返す。
「だが、ここに書かれた名前から推測してアリスと呼ばれているであろう人物の名前はあった」
「わたしのことですか」
赤い聖服に身を包む、金色の髪を流す女性が入ってきた。
「わたしは修道士をやっています。アリスティア・マグダリアスともうします。親しき隣人からはアリスと呼ばれています」
すでに、《精神感応》にて彼女をここへと連れてくるように話はまとまっていた。彼女への説明も終えて、承諾も得ている。なにより、アリサ以外に当てはまる人物は彼女しか居なかった。
「わたしに用があるのでしたら、武器を納めてください」
誰もが思っていた。おそらく彼女ではないと。
しかし、彼は違った。彼女を見た瞬間、彼女の信仰の厚さと神々しさを感じ取った。
「あなたが……聖女(マリア)」
キングが恍惚と声を漏らす。
彼女の聖母のような信仰深い双眸に彼は魅了されていた。