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リアクション
サツキとフィーアがアリスティアの部屋に入った後――
桐ケ谷 煉が遅れてここ、寝台車に入ってきた。
「こっちで銃声がしたようだが!?」
廊下に残っていた車掌に尋ねるが、頭を振られる。
「いいえ、ボクは何も……」
「情報だとこのあたりのはずだが」
周りには他にいない。何も知らない素振りの車掌が怪しいが、――硝煙の匂いはしない。
「となると、どこかの部屋に隠れているのか」
「お客様!?」
煉も手当たり次第部屋を調べることにする。フィーアと違い強引に、問答無用にドアを開ける。鍵がかかっているならそこの車掌に頼むか壊せばいい。
鍵のかかっていない部屋に偶然手を掛ける。煉は警戒しつつも徐に扉をスライドさせた。
薄暗い部屋の中の光景が廊下の明かりに照らし出される。
「そんな……」
車掌が唖然とする。
明かりの灯っていない部屋の奥には、時限式の拳銃発砲装置で頭を打ち抜かれている女性。その死体。
そして壁に血で書かれている「@@@」のマーク――
「なんってことだ……!」
煉は遅かったと、はめられたと歯軋りした。
時限式と言うことは、犯行を行った時刻と装置を仕掛けた時刻が全く違うということだ。これが殺人鬼トレインジャックの仕業なら、そいつはすでに乗客に混じっていて誰かわからないということだ。加えて硝煙の匂いがするかどうかで判別するのもできない。
トレインジャックは自分の顔を晒したことはない。変装が得意と噂されてもいる。
仮に見つけられるとしたら、彼と同じ人間だけだろう。
「ねえ、どうかしたの?」
寝台車に入ってきた女性が立ち尽くす車掌に尋ねた。透乃だ。
車掌は振り返った先にある大胆なチューブトップの彼女を見て、貌を赤らめた。しかし、職務を全うしようと真面目に答えた。
「ここで人が死んでいたんです! それにこの先は危ないですから お客さんも席に戻ってください!」
車掌の注意に、透乃は「ああ、やっぱり」と呟く。
「ねぇ中の人、なにか手がかりとか落ちてなかった?」
訊かれた煉は頭を振る。
「残念だけど時間差トリックだ。犯人は分からない」
ふ〜ん、とどうでもよさそうに転がる死体を眺める透乃。
食堂での支払いを終えた陽子も来て、状況を確認する。
「セレモニー車両は取り込み中ですね。あちらに行くのは諦めましょう透乃ちゃん」
「あっちからも血の匂いがするんだけどなぁ」
残念そうに後方車両を見て、はたと何かに気づく。
「でも、なんでかなぁ」
透乃は車掌の胸元に鼻を近づける。
「車掌さんからも向こう(後方車両の)と同じ血の匂いがするんだけど……」
車掌が身を引く。食堂車へ。
「大当たりだね!」
透乃の【透煉の左拳】が車掌の――殺人鬼の胸を貫いた。