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リアクション
4章 「想いを貫く覚悟」
〜火山内部〜
「ぐぅああッ!!」
魔物の体重の乗った一撃がヒルフェを大きく吹き飛ばす。
辛うじて着地したものの、利き腕からは血が流れ、使い物にならないのは明らかであった。
数体の魔物がヒルフェを囲み、徐々ににじり寄っていく。
「くそ、ここまでか……」
ヒルフェは魔剣の柄を握り、引き抜こうとする。
「早まるのは、いけないことですねぇ……それでは、あまりに面白くない」
上空から、ソウルアベレイターのエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)が現れる。
背中から、肉の絡まった骨の翼、死骸翼「シャンタク」を生やし、魔力を込めて羽ばたいた。
巻き起こるブリザードが魔物達を凍り付かせていく。
凍り付く魔物に急接近すると、異形化左腕で魔物を容赦なく引き千切った。
辺りに激しく血飛沫が撒き散らされる。
その戦う姿は、とても救世主には見えなかった。
魔物を一掃し、静かになったのを確認すると、エッツェルは薄く笑いを浮かべながら、ヒルフェに近づいていく。
「待てッ! それ以上近づくな……お前は……何者だ! お前の狙いも、やはり魔剣なのか!?」
身構え、今にも魔剣を抜いて斬りかかってきそうなヒルフェを見て、笑いだすエッツェル。
「ふふふ……あっはっはっは! 私は魔剣には興味ありませんよ……興味があるのは、真実だけです。
ヒルフェさんが何故、リーゼさんを殺したのか……何故、火口に向かっているのか……とねぇ」
「それは……」
「まぁ、お待ちになってください、まずは説明しなくてはいけませんから、私が敵ではないという事をねぇ」
エッツェルが指し示した方向から、数人の契約者達が迫ってきていた。
「そこの、魔物ッ!! ヒルフェさんから離れるんだッ!!」
数分後、ヒルフェの説明もあり、戦闘になる前に彼らは和解することができた。
「も、申し訳ない! そのようなお姿でしたので、てっきり魔物かとばかり……」
広げられたシートに座り、エッツェルに頭を下げるコマンダーの男性源 鉄心(みなもと・てっしん)。
エッツェルは大して気にした様子もなく、異形化左腕で器用にカップを掴むと、出されたお茶を口に運んだ。
「いえ、気にしていませんよ。このような姿なのでね、よくあることです」
「あ、お茶ならおかわりがあるので、皆さん遠慮なく言ってくださいね」
そう微笑むのは、鉄心のパートナーのヴァルキリーで、シーアルジストのティー・ティー(てぃー・てぃー)。
彼女はエッツェルの姿に臆することも無く、お茶を注いだりしている。
対照的に、お菓子を渡すのも話すのも、おっかなびっくりになっている少女イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)。
イコナからお菓子を手渡され、微笑んでみるエッツェル。
しかし、あまりにもその微笑みは不気味すぎたようで。
「ひいいッ!!」
「こら! イコナ、失礼だろう!」
「だってぇ、だってぇ……うぅ」
何度目となるだろうか、構いませんよいつものことですからと、エッツェルがフォローするのは。
そんなやり取りを眺めていたヒルフェは、ゆっくりと語りだす。
「貴方達になら、話してもよさそうだ……魔剣を悪用しようという感じはしないし」
「ええ、俺達でよければ」
「実は、あの時……」
〜過去・ミューエの宿屋・リーゼの部屋〜
「リーゼ、お茶をもって来たよ。冷めないうちに……!? リーゼッ!!」
部屋に入ったヒルフェは床にうずくまるリーゼを見つけ、駆け寄った。
「ヒ……ルフェ……だ、め…来ちゃ」
リーゼの静止を聞かずにヒルフェはリーゼに近づく。
「もう、もたな……あああああアアああ嗚呼ああーーーッ!!」
激しい咆哮を上げ、魔剣を振り回すリーゼ。
放たれた剣閃が周囲の物を斬り裂いてズタズタにしていく。
「リーゼッ! くそ、使用限界が近いってのはわかってたが……あまりにも早すぎるッ!!」
「あああああああーーッッ!!!」
近づこうとするヒルフェに向かって幾度となく魔剣が振り下ろされる。
それを弾き返しながら、ヒルフェは考えていた。
(どうすればいい!? このままでは、完全に魔剣に飲まれてしまうッ! もし、そうなったら…)
「気を確かに持つんだ、リーゼッ!! そんな魔剣になんか負けるんじゃないッ!」
ヒルフェの弾いた剣が窓辺に置かれた布を斬り裂いた。
布が落ち、トルソーに着せられた純白のウェディングドレスがその姿を現す。
それを見たリーゼの目から涙が流れ、動きが止まった。
そのタイミングを逃すまいと、ヒルフェはリーゼを抱きしめる。
「リーゼ、戻ってきてくれたか!!」
「うう……ん。だめそう、きっとまた……私は、私じゃなくなっちゃう」
リーゼは必死に魔剣に抵抗しているらしく、その身体は小刻みに震えている。
「大丈夫だ、今、魔剣を手から離せば……」
そこまで言って、ヒルフェはあることに気づく。
魔剣とリーゼの腕が半分同化していることを。
「リーゼ……お前、これ……」
「だから、言った……でしょ。もう、だめだって……ねぇ、お願いが……あるの」
ヒルフェは答えない。答えたくなかった。何のお願いをしてくるか、わかっていたから。
リーゼは言葉を続けた。
「私が……私でいるうちに……貴方の手で――殺して」
「そんなことッ! できるわけ……できるわけ、ないだろ……」
歯を食いしばり、ヒルフェは涙を堪えている。
「お願い……魔物になんかなっちゃうの、嫌……だから、愛する人の手で……腕の中で」
「…………わかった、いくぞ……」
見つめ合うヒルフェとリーゼ。
「うん……ぐっ、うぅああッ!」
ヒルフェの剣がリーゼの胸を貫く。
口から、ごぼっと血を吐くリーゼ。しかし、その顔は穏やかであった。
「えへへ……ごめ、ん……ね? なんか、嫌な役回り……させちゃって」
「いいんだ……俺にしか、できないこと、だから」
ヒルフェの目から大粒の涙が零れる。
それを手で拭って見せるリーゼ。
「泣かないで……貴方のせいじゃ、ないんだから」
「だけど、だけど……うう、くっ」
しだいに瞼が重くなり、閉じていくリーゼ。
その視界の端に一度も袖を通していないウェディングドレスが映った。
「あーあ、けっきょ……く……着れな……かったな……ウェディン……グ、ドレ……」
リーゼの手が力なく垂れ下がった。
彼女の身体全体から、力が抜け一気に重くなる。
「リー……ゼ……。リーゼェェーーーッッ!!!」
〜火山内部〜
「そのあと……ミューエさんに見られたが、巻き込むわけにはいかなかったし、
宿屋を出て、俺は魔剣を持ってココへ来たんだ。完全に魔剣を破壊する為に」
「そう……だったんですか。あ、あの……もしよければ、俺達にお手伝いさせてもらえませんか。
キミのしようとしていることを」
「鉄心さん…………わかった。ここからは、貴方たちに協力を頼もう。よろしく頼む」
「ええ、こちらこそ」
鉄心とヒルフェは固く握手を交わした。
エッツェルは立ち上がりながら、戦闘態勢を取る。
「話は纏まったようですねぇ、それならば……先に行ってください」
「エッツェルさんはどうするんです?」
「少々、うるさいものが来たようですからねぇ……遊んであげようかと」
「それなら、俺達も残ります。ティー、イコナ戦闘の準備を!」
鉄心に指示され、戦闘体勢を取るティーとイコナ。
「わかりました、任せてください!」
「はいですの!」
ヒルフェと共に立ち上がるセイバーの少年とプリーストの少女。
「じゃ、鉄心、ヒルフェのことは任せてくれ」
「ちゃんとお守りしてみせますね!」
「ああ、任せた! あいつらを何とかしたら、必ず追いつくから」
矢雷 風翔(やらい・ふしょう)と守護天使の小野寺 裕香(おのでら・ゆうか)はヒルフェと共に火山の奥へと向かった。
鉄心達の元にモンクの未来人ウルディカ・ウォークライ(うるでぃか・うぉーくらい)が現れた。
「おい、魔剣の持ち主がいたはずだが……どこへ行った」
「それを貴方に……教える必要はありませんねぇ……」
「ほう、あくまで庇い立てするか……いいだろう、ここを通さないつもりなら、力づくで押し通るッ!!」
エッツェルに向かって走りながら右に跳躍、黒曜石の銃を放つ。
銃撃を受けても、エッツェルは怯むことなく不気味に微笑んでいる。
「効果がない!? ならば!!」
地面を蹴り、急接近するウルディカ。
しかし、その攻撃は鉄心によって弾かれてしまう。
「俺を忘れてもらっては、困るな……」
「くっ……!!」
距離を取ろうとするウルディカであったが、ティーの無光剣がそれを阻んだ。
咄嗟に防御姿勢を取ったものの、衝撃を完全に殺すことはできず、膝をつくウルディカ。
「ヒルフェさんの邪魔は絶対にさせませんッ!! エッツェルさん!!」
エッツェルはウルディカに急接近すると、異形化左腕で彼を掴みあげる。
「さて、貴方はなぜ……魔剣を狙うんですかねぇ……早く喋った方が身の為と思うんですが」
「うぐ……誰が、おまえなんかに……言うものか……ぐううあああ!」
徐々に異形化左腕がウルディカを締め上げていく。
「ウルディカアアーー!!」
何者かのエンドレス・ナイトメアによって周囲が暗黒に包まれた。
「く、なんだ……これは!」
「頭痛が……してきます……いた…い」
ソウルアベレイターのグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)は名も無き妖刀を振り下ろし、
エッツェルの異形化左腕にグレイシャルハザードを叩き込む。
衝撃と冷気によって異形化左腕は弾かれ、ウルディカを離す。
フェイタルリーパーのドラゴニュートゴルガイス・アラバンディット(ごるがいす・あらばんでぃっと)がウルディカを抱え、
その場を足早に去っていく。グラキエスもそれに追従する。
暗黒が晴れた時には、ウルディカ達の姿はその場になかった。
〜火山内部・岩場〜
「……この辺りでいいだろう」
ゴルガイスはウルディカをその場に下ろし、自らも手近な岩に腰掛ける。
「さて、貴公はなぜ……あのような場所で戦っていた?」
「……答える必要がない」
「でも、俺達が来なかったらウルディカはあぶな……ぐッ! ああああッ! ごふっ!」
急に呼吸が荒くなったグラキエスは、その場で吐血する。
呼吸を自ら整えようとするものの、呼吸は荒くなる一方であった。
「エンドロア……お前……! そんな身体で追いかけてきたのか!?
馬鹿者ッ! 少しは己を守ることを考えろッ!!」
口から血を流しながら、グラキエスはウルディカを見る。
「だって……ウルディカのことが、心配だったから……うぐッ!!」
「いいから、それ以上喋るなッ!」
(あれは、とても動ける状態でなかった。だからこそ、今度は追ってこないだろうと思っていたのだが。
まさか……あれは、己の身よりも俺を案じたというのか……ッ!!)
「このままここにいるわけにもいかんからな。町に戻るぞ」
「……もとよりそのつもりだ、グラキエスを運ぶのを手伝ってくれ」
「…………仕方ない、手を貸してやる」
ウルディカとゴルガイスは協力し、グラキエスを町まで運んで行った。