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リアクション
1章 「纏うは炎の衣」
熱気渦巻く火山の中、5人の契約者達がヒルフェを追っていた。
先頭はソウルアベレイターの御凪 真人(みなぎ・まこと)。ダークヴァルキリーの羽で向上した移動速度を生かし、
逃げるヒルフェに徐々に迫っていた。
その後ろには、パートナーのスカイレイダーセルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)。
ヴァルキリーである彼女の翼には、強化光翼が装着されていた。
さらに水上バイクのような形をしたホエールアヴァターラ・クラフトと小型飛空艇が続く。
ホエールアヴァターラ・クラフトに乗るウィザードの高崎 朋美(たかさき・ともみ)は言う。
「このままなら、問題なく追いつけそうね。なんとかして話を聞いてもらわないと」
「まぁ、アイツは乗り物に乗っていないからな。しかし……なんだ、この感覚は」
朋美の隣に乗っている強化人間のソルジャーウルスラーディ・シマック(うるすらーでぃ・しまっく)。
彼は、ヒルフェを追いかける真人達の背中を見ながら、そんなことを呟いた。
「え? 何か感じるの?」
「いや、感じるっていうか……嫌な予感が少しするだけだ。気にするな」
(……朋美にはああ言ったが、いつでも動けるようにはしておくか。
俺の取り越し苦労で済んだらいいんだが……)
ヒルフェは、声をかける真人達の方を振り返ることも無く、走っている。
道中には道を塞ぐかのように魔物が現れるのだが、真人達が対処する前にヒルフェは簡単にそれらを葬り、
その走る速度が落ちることは無かった。
「ヒルフェさんは……なかなかの剣の使い手のようですね」
「そうみたい……流れるような剣の動き、なかなかできるものではないわ……でも!」
セルファはヒルフェの前に出ようと、急加速を掛ける。
両者の距離は徐々に縮まっていく。もう少しで追いつくという所で狙い澄ましたかのように
天井から落下した複数の岩石がそれを邪魔した。
「っ!? きゃああああっ!?」
「危ねぇッ! おい朋美! 加速しろッ!」
「う、うんッ!!」
加速するホエールアヴァターラ・クラフトの上で、両手を落下する岩石に向かってかざすウルスラーディ。
精神を集中し、サイコキネシスを使用する。
落下する岩石は全て空中で静止し、セルファは無傷であった。
「あ、ありがとう……!」
「いいから……早く、そこから退け! 長くは止められない」
前方を見るも、ヒルフェの姿はない。仕方なくセルファは後方に下がり、真人と合流する。
「まったく、君は学習能力がないんですか! いつもいつも一人で突出して!」
「そ、そんな言い方しなくてもいいじゃないッ! ちょっとは……心配してくれても……!」
「しましたよッ! ええ、とても!」
「……え?」
真人はセルファの肩を掴み、真剣な顔で言葉を続ける。
「俺のせいで……君を危険な目に合わせて、あげく大けがをさせたんじゃないかとねッ!」
「真人……」
「……あんた達、甘いムードに入るには早いみたいだ。どうやら、敵さんのお出ましのようだからねぇ」
小型飛空艇に乗った小柄な英霊高崎 トメ(たかさき・とめ)。
ナイトである彼女は、落下してきた岩石を睨み付け、武器に手を掛けている。
岩石は静かに浮き上がると、くっつきあい、人ひとり分くらいの大きさになる。
拳を握り、小刻みに震えながら、いい雰囲気をぶち壊しにされた恨みを岩石の魔物に向けるセルファ。
「せっかく、いい所だったのにっ……お前なんか、お前なんか! 一撃で決めてやるーーーッ!!」
レーザーナギナタを構えると、地面を蹴って高く跳躍するセルファ。
振り下ろされたレーザーナギナタが岩石に当たる前に、岩石から炎の渦が吹き出し、セルファを吹き飛ばす。
「きゃああああっ!!」
咄嗟に防御姿勢を取り、直撃を避けたものの高い熱量と衝撃がセルファを襲った。
跳躍し空中でセルファを受け止め、地上に下ろす真人。
「あれは……一体!?」
「さあ、何かはわからない……けど、こっちに敵意を持っているのは確かなようだねぇ」
トメは武器を構え、身構える。他の者も敵の様子を見ていた。
岩石の魔物は、回転を始めると大きな炎の波を放つ。
各自防御姿勢を取り、炎の波を耐える。身体を燃やされるような熱量と
ハンマーで殴られたかのような衝撃が体力を奪っていった。
「ぐぅあああああッ!」
「うぅ、あぐッ!!」
「うおぉああああッ!」
炎の波が止んだ時、全員が膝をつき、熱による痛みで身動きが取れなかった。
岩石の魔物は様子を見るかのように、中空に静かに浮いている。
「こ、こののままじゃ、まず、いぞ……ぐっ、身動きが……取れない……」
痛みで痺れる身体を精神力のみで、無理やり動かして地に手を触れさせる真人。
「大地に流れる力よ、うぐッ! 呼びかけに……応え力と、なれ……我は紡ぐ地の讃頌!!」
真人を中心に魔法陣が広がっていき、辺りに柔らかい黄色い光が溢れる。
光に包まれ、契約者達の傷がみるみるうちに塞がっていった。
「あんたには借りができちまったねぇ、真人」
再び武器を構えて岩石の魔物との距離を測るトメ。
呼吸を整えながら、爽やかな笑顔で礼に答える真人。
「借り……というほどでも、ないですよ。それよりも、あの波をどう突破するか……それが問題です」
二人が会話している間に、朋美とウルスラーディが攻撃を仕掛けているものの、的確に攻撃を遮断する炎の渦と
炎の波による反撃によって、いまだ、岩石の魔物に効果的なダメージは与えられていなかった。
「くっそッ! なんなんだあの炎の渦は! こっちの攻撃を全て無効化しやがる……」
「これじゃ……僕達ばかり消耗しちゃうよ」
現に、朋美とウルスラーディの乗るホエールアヴァターラ・クラフトは、直撃こそ避けているものの
度重なる炎の波による攻撃で、その限界が近づいていた。
その時、岩石の魔物を注意深く観察していた真人は、魔物の隙に気づく。
「ッ!! 炎の波を放った後、数秒の隙がある……しかし、あまりにも短い……!」
悩む真人の隣から、セルファが飛び出していく。
「セルファッ! また君は突出して……!」
振り返らずに言葉を続けるセルファ。
「要は、炎の波を少しの間……無効化すればいいんでしょッ!」
「ですが……ッ!」
「いいから、私を信じてッッ!!」
セルファは真人の言葉を待たずに、岩石の魔物に向かっていく。
岩石の魔物の前に炎が揺らめき、炎の波が数発放たれる。周囲の岩や地面を焼きながら波はセルファに迫った。
「……はぁ。わかりました……セルファ! 君は背中を気にせず、思いっきりやってくださいッ!」
真人は地に自らの手をつけ、魔法陣を展開、いつでもフォローに回れる準備をする。
「うんッ! ……あなたが信じてくれるなら、私は誰にも負けないッッ!!!」
セルファは右手を天に向かって突き出す。紡がれる言葉から生み出された風が、彼女の手の平に収束していく。
「吹き荒れろッ! タービュランスッッ!!」
右手を中心に発生した風は、嵐のように暴れ狂い、乱気流となった。
乱気流にかき乱され、炎の波はまるで紙を破るかのように消え去っていく。
「よくやったッ! 後の始末は、あたしに任せなッ!!」
小型飛空艇を加速させ、岩石の魔物にトメは急接近する。加速による風で、機体が軋む。
岩石の魔物に向かって跳躍し、武器に全体重をかけ、勢いよく魔物目掛けて落下する。
武器が届く直前、炎の渦が発生、攻撃姿勢のままのトメを容赦なく焼いた。
「うぐうううッ!! だが……かかったねぇ」
焼かれ、衝撃で吹き飛びながらも、笑顔を見せるトメ。その視線の先には、朋美とウルラーディがいた。
トメに向かって炎の渦を吹き出し、まったくの無防備となった岩石のマモノに
ウルラーディのスプレーショットが撃ちこまれる。
「全弾持って行けええええッッ!!」
広げられた朋美の両手に氷塊の槍が生成された。
「お願いッ! 貫いてーッッ!!」
放たれた氷塊の槍は岩石の魔物を貫き、その身を粉々に砕いた。
魔物の絶命を確認した一同は、ほっと息を吐く。
「なんとか、なったか…………そうだ! ばーさん、生きてるかッ!?」
気を抜いていたウルスラーディだが、思い出したかのようにトメの方に駆け寄った。
朋美もそれに続く。
トメは、まともに炎の渦をうけたものの、真人による回復が早かった為にその身に傷という傷は
ほとんど残っておらず、むしろ少し肌も若々しくなったかのように見える。
「もう、心配したのよ……無事だったからよかったけど」
「あっはっはっはっは! あたしがそう簡単にくたばるわけないだろう?
さーて、時間を食ってしまったからねぇ……早くヒルフェを……ぐっ」
立ち上がろうとするトメだが、傷は回復したものの、その節々にはまだ痛みが残っている。
「トメさん、無理はいけませんよ。回復したとはいえ、体力までは戻らないのですから」
真人の言葉に続くように、隣に立っていたセルファが話す。
「みんな消耗してるみたいだし、このまま先には進めないよ」
「そうですね。ヒルフェさんを追いたいのはやまやまですが、それで全滅してしまったら、
何の意味もありません」
「僕も……そう思うよ。一旦町に戻って体制を整えないとかな……って」
「仕方ないな、ばーさんをフォローしつつ、町に戻ろう」
一行は、少し休憩した後、町に向かって火山を降りて行った。