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リアクション
第2章 108と846と48と92
「はい、はい、こちら846プロダクション。あー、話はうかがっとりますがな。え、どこからって……そりゃもう色々伝手はありまんでなぁ〜」
846プロダクションの事務所。
社長兼プロデューサーの日下部 社(くさかべ・やしろ)は怪しげな関西弁を駆使しつつ、携帯電話を片手に慌ただしく動き回っていた。
KKY108のアイドル大量サボタージュは業界にも少なくない影響を与えており、その穴埋めのため、846プロダクションにもKKY108の事務所から依頼が入っていた。
「まぁ、その娘達の気持も分からんでもないんで、ここはウチも協力するんで、その娘達には休日をあげたって事にしましょうや」
そこまで言うと、社は不安そうに社の様子を見ている新人アイドル、琳 鳳明(りん・ほうめい)をちらりと見た。
「ウチで一番フレッシュな売出し中のアイドルを派遣します。他にもぎょーさんお役にたつアイドルが勢揃いしとりますんで、お任せください」
携帯を切ると、社は鳳明に向き直る。
「ということで、鳳明ちゃんにも協力してもらう事になったんやけど、大丈夫やろか?」
「ま、任せてください! 歌うだけじゃない所を見せてあげます」
不安を振り払うように元気に胸を叩く鳳明。
しかしその声はかなり上ずっていた。
「よし、任せたで!」
「ボクも穴埋め要因で参加するよ。何事も勉強だしね」
「僕も、せっかくの大きな組織ですからマネジメントの勉強になると思います。チーム花音として参加します」
「おぉ、そりゃ助かる」
今まで様子を見ていた赤城 花音(あかぎ・かのん)とリュート・アコーディア(りゅーと・あこーでぃあ)の参加表明に、社は相好を崩す。
「よ、よかったぁ。知ってる人が一人でも多いと、安心だよ」
鳳明もほっとした笑顔を見せる。
「よし、あとは……もしもし、ジーナくん?」
社は満足気に頷くと、再び携帯を取り出し所属アイドルたちに連絡を入れ始めた。
「わ、社長! え、代役ぅ!? 分かりましたですよ。ここはワタシの出番でございやがりますね! ……バカマモ!、お仕事でございますよ!」
「なんだよぉ、じなぽん……え、えええ〜!?」
社から連絡を受け取ったのは、ジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)。
即座に了承すると、新谷 衛(しんたに・まもる)を返事も聞かず連れ出して小型飛空艇に押し込む。
本当は、一人で心細いので衛について来て欲しかったからなのだが、そんな乙女心を強引さで包み隠す。
衛はといえば、最初事情を聞いた時は戸惑ったものの。
「おういぇ、じゃあ会場に向かってる間にこの曲聞いて覚えよーぜ」
と実に素直に了承してついて来た。
「バカマモにしては、なんか素直で気持悪いでございやがりますね……」
「そりゃねーぜ、じなぽん。惚れた弱味ってやつでよぉ、好きなオンナノコの頼みは断れないんだぜ」
「え、バカマモ、今なんて……」
「ん?」
「え、えーっと、じなぽんて言うな! でやがりますわ!」
ジーナは赤面した顔を見られないように真正面を向くと、飛空艇のスピードをあげた。
「ここは、詩穂たち秋葉原四十八星華の出番ねっ☆」
「よーし、魔法少女アイドル マジカル☆カナ、がんばっちゃうよ! いいよね、羽純くん」
高々と腕を突き上げるのは、秋葉原四十八星華リーダーの騎沙良 詩穂(きさら・しほ)。
KKY108の事務所から連絡が来た時は一瞬驚いたものの、即座にこれはチャンスと理解し仕事を受ける。
同じく秋葉原四十八星華の遠野 歌菜(とおの・かな)も大きく頷くと、パートナーであり伴侶でもある月崎 羽純(つきざき・はすみ)の方を向く。
「ああ、俺もギタリストとしてサポートする」
笑顔で頷きながら、羽純は即座に頭の中でスケジュールを調整する。
(少し厳しいスケジュールだが、歌菜が気持ちよく歌えるようにしないとな……)
「ありがと、歌菜ちゃん、羽純ちゃん。サクラコちゃんは?」
歌菜の言葉に嬉しそうに頷いてから、詩穂はサクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)と白砂 司(しらすな・つかさ)の方を見る。
「もっちろん、参加します。KKYに秋葉原四十八星華のOGとして、ちやほやされるとはどういうことなのかばっちり見せつけてやりますよ! ……ん、司君、どーしました?」
「ちやほやって、子供か……あ、いや、サクラコなら大丈夫だろう。俺も協力する」
「んふ。ありがとうございます」
「よーし、秋葉原四十八星華の力、見せつけてやりましょう!」
詩穂の声に、おー! という元気な声が響き渡った。
KKY108に846プロに四十八星華。
それらに続いて新たな数字ユニットが誕生しようとしていた。
「これは、我ら雪だるま王国にとっても好機です! ここに、AKB92を発足します!」
雪だるま王国の中心で、クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)は宣言した。
「ま、まあ、王国民が増えるならアイドルをやってみてもいいのですが」
雪だるま王国女王赤羽 美央(あかばね・みお)は予想外の展開に戸惑いながらもなんとか頷いてみせる。
戸惑う理由の大半は、クロセルが差し出した水着。
(よ、よく分からないけどアイドルって水着を着るものなんでしょうか……ってそんなわけないとは思いますが、仕方ありませんね)
不承不承、水着を手に取る。
「そやなぁ。目立って目立って、雪だるま王国とついでにアイドルとしての自分もアピールやー」
火でも水でも飛持ってこい! といった勢いで奏輝 優奈(かなて・ゆうな)は気合を入れる。
「自分はアイドルというガラじゃないけー、プリン、頼むわ」
「メイスン様の頼みは断れませんわ」
「すまんなあ。846プロのこともあるじゃきに……」
「いいえ、とんでもない」
メイスン・ドットハック(めいすん・どっとはっく)の頼みを快く受け入れたのはルドウィク・プリン著 『妖蛆の秘密』(るどうぃくぷりんちょ・ようしゅのひみつ)。
先程から鳴っていた846プロからの電話を取る。
846プロからの依頼を、断るために。
今日だけは846プロのアイドルではなく、AKB92のメンバーとして活動するために。
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