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【じゃじゃ馬代王】飛空艇の墓場掃除!?

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【じゃじゃ馬代王】飛空艇の墓場掃除!?

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第3章 苦戦


 キラリッ――。
 空飛ぶ箒シュヴァルベに乗った魔物のような何かが、気流コントロールセンターの屋根に激突した。

「痛たた……、まさか、偽龍翼のような装置が故障するとは……。しかし、予定通り辿り着いたぞ。どうだ、光一郎?」

 動力源の機晶石の影響だろうか?
 偽龍翼が故障し、空飛ぶ箒シュヴァルベに乗った南臣 光一郎(みなみおみ・こういちろう)と、オットー・ハーマン(おっとー・はーまん)
 オットーは帽子を拾うと、パタパタを叩きながら言う。
 だが、その声を気にすることなく、光一郎は渋い表情を見せていた。

「ふぅむ。戦いはキロっちに任せたとは言え、アンバー・コフィンは何処に?」
(なっ、何ィー!!?)

 いつもなら、ここで歌でも歌いながら、一発ギャグを放つのが光一郎だが、今日は違った。
 彼は、懐より取り出した【雲海の地図】を見ながら、周囲を見渡し、渋い顔を見せていたのだ。
 そう言えば、横顔も随分と凛々しく見える。

「なぁ、気流コントロールセンター跡ってよ。アンバー・コフィンの眠りを妨げないように人為的に暴走させられてんじゃね?」
「お……、おぅ……。そうだな。」

 オットーは表面上は冷静に頷いたが、心の中では【まともな事を言っている!?】と驚いていた。

「でも、それがしは……。コフィンは樽の隠語。琥珀は樽で熟成させた色。眠りは熟成。つまり、お宝は五千年ものの蒸留酒だと思うぞ。」
「そうか、お前はそう思うのか? 俺様とは考えは違うようだな。フッ……。」
(フッ……て、何だ!?)

 いつもとは違う、知的な振る舞い。
 光一郎の中の、第六感がビンビンに反応している。
 ここには美女の香り……が、つまり、【琥珀の眠り姫】は必ず存在すると……。

「おっ、理子っちも、センターに着いたようだな。【雲海わたあめ】の糖分で、頭をスッキリしてもらうか。おーい!」
「…………。」

 今日の光一郎は、何かをやってくれそうな気がする。



 ☆     ☆     ☆



「ちっくしょう。箒って、普段から乗り慣れてねえからおっかねえな……。」

 普段乗りなれない【空飛ぶ箒スパロウ】上での戦闘の苦戦を、瀬島 壮太(せじま・そうた)はそう評した。
 しかも、左手に装着されたアーマーリングタイプのフリーダ・フォーゲルクロウ(ふりーだ・ふぉーげるくろう)は機晶姫。
 あまりセンターに近づくと、どんな影響が出るか気になってしまう。

「くぅ……。」

 周りでは、ペガサスやワイバーンに騎乗した者たちが、勇み戦っている。
 一方、壮太の方と言えば、地上では命中率抜群の銃弾が命中しない。

「あら、外れ。また外れだわ。そんなに空中戦が苦手なら、どうしてこの依頼に参加したの?」
「…………。」

 悪気があるのか、ないのか……、今はフリーダの声が憎い。
 タシガンには友人も多いし、彼らを訪ねる時に利用する、タシガン空峡は大事な空域だからだが、口にするのは何となく照れくさかったし、本当であれば、壮太も翼竜を乗りこなしたかった。

「くそう。オレに金があれば! もっと空中戦の練習が出来たのに……。」
「金はねーけど、金属ならやるぜ。」
「!!?」

 壮太は驚いて、背中を逸らした。
 目の前に現れたのは、一発の銃弾だった。
 質が良いのか悪いのかはわからないが、その威力はすさまじく、命中すれば命すら奪うであろう。

「ククッ、空に慣れていないようだな。坊主。」

 バンディッツが手を上げると、下卑た笑いを浮かべた賊らが周りを囲む。
 相手が弱そうに見えると強気に出る、卑怯な連中である。

「荷物と金を全部置いていけば、命だけは助けてやるぜ。ここから泳いで帰ればだがな。ヘヘヘッ。」
「ふざけんな!!!」

 その悪役らしい、敵の台詞に激高した壮太は、箒の速度をあげる。
 しかし、敵も速度を上げ、槍の一撃を食らわした。

「!!!!?」

 だが、次の瞬間、壮太の姿が箒ごと景色に溶け込んだではないか。

「隠形の術だと!? あじな真似を!!」

 そして、姿を消した壮太は、敵の武器を次々と払い落としていく。
 動きにいつものキレはないが、マスターニンジャの彼にとって、それは造作もない事だった。
 ――しかし、やはり慣れというものは怖い。
 急に気流の流れが変わり、思わず壮太も武器を落としてしまったではないか。

「ヒャッハー!! 馬鹿めぇ!! これで貴様は丸腰だ。荷物と金だけではなく、命も頂くぜぇ!!!」
「何てこったぁ!!?」

 賊らは、満面の笑みで腰からナイフを取り出すと、丸腰の壮太を襲う。
 壮太は顔を歪めて、リターニングダガーで弾くと火花が散った。

(マズい、マズい……)

 慣れない空での戦闘で敵に囲まれて、焦る壮太。
 だが、そんな彼の耳に、何かが聞こえてきた。
 大人の女性の囁くような声が――。

「そっか、オレには奥の手があったぜ!! 悪りぃ、姐さん!!!」

 壮太はチラリと左手の平を見ると、高々と上げた。
 すると、ブシュウウッーと言う大きな音とともに、指輪から白い煙が立ち昇っていく。

「アーマーリングの魔法語(ルーン)だとッ!? やばい!!!」

 バンディッツの一人が叫んだが、すでに遅かった。
 フリーダの放った【アシッドミスト】は、敵をすっぽりと包み込む。
 強い酸を帯びた雨は、敵の身体に襲いかかり、毛穴と毛穴から染み込みダメージを与える。

「ぎゃああぁっ、目が、目が染みるぅー!!」

 特に、目に与えたダメージが効果的だった様だ。
 しかし、それだけでは終わりそうにない。
 フリーダが、次なるスキルの詠唱に入ったからだ。

「退屈な日常よりずっとスリルがあって素敵よ。ゾクゾクしちゃうわ。酸の雨を乾かしてあげる!!」

 銀色の瞳がギラリと光ると、炎の嵐が噴き出した。

「アチチチチッ!!!」

 壮太は右手で左手を制御しながら、悲鳴をあげるが、敵に比べればまだマシな方である。
 視力を失い、炎の嵐に巻かれたバンディッツらは、次々と墜落したのだから……。

「ごめんなさいね。坊やたち、私はただのアクセサリーじゃないのよ。」
「あー、姐さん。連れて来ててよかったぜ。サンキュー。」

 壮太は感謝の気持ちを述べるが、戻ってきたのはフリーダによる強烈な駄目出しだった。
 ……え、こんな戦い方情けないって? ひでえよ姐さん。
 でも、自分でもちょっとそう思う。
 壮太はガックリと肩を落としたと言う。



 ☆     ☆     ☆



「すごいなぁ……。」

 南天 葛(なんてん・かずら)は思わず、ため息を漏らした。
 前に何もないが如く、キロス・コンモドゥス(きろす・こんもどぅす)は空を駆ける。
 ドラゴンライダーとしての彼の能力は噂どおり、否、それ以上にも見えた。
 葛も、キワノと言う名の【ブライトブレードドラゴン】に乗っているが、まだ上手く操る事ができない。

「師匠って、呼んでいい?」

 葛はモジモジしながら、集合時にキロスに聞いてみた。
 しかし、子供が苦手なキロスは「悪いな。オレは子供の相手は苦手なんだ。」と、冷たい言葉をかけられてしまう。
 だが、キロスに強い憧れを抱き、龍が大好きな葛は、何とかして龍の乗り手としての力を高めたかった。

「ここは戦場よ。気を抜かないで。」
「えっ?」

 そんな葛を護るようにダイア・セレスタイト(だいあ・せれすたいと)は、目の前に立ち塞がった。
 ダイアは、ブルーブレードドラゴンのプルーンの背に乗っている。
 その後ろに不機嫌そうなヴァルベリト・オブシディアン(う゛ぁるべりと・おびしでぃあん)も乗っていた。

「おい、ダイア! このドラゴンはレアなんだ。もっと丁寧に扱ってくれ……。ぎゃあああぁ! そこの敵!? 攻撃してくるんじゃねー!!」

 商人のヴァルベリトにとって、プルーンは金の成る木だった。
 だからこそ、敵の攻撃に生きた心地がしない。
 だが、ダイアも、実に上手くプルーンを乗りこなし、傷一つつけずに進んでいく。

「ベリー、あんまりギャーギャー騒ぐと振り落とすわよ。」

 ダイアはそう言いながら、ヴァルベリトを注意すると、プルーンに耳打ちをした。
 すると、プルーンは口を大きく広げて、周囲から水滴を巻き上げていく。

「こりゃ、やべぇー!」

 ヴァルベリトは頭を低く下げると、歯を食いしばった。
 周りの温度が一段と低くなり、キィィィンと言った耳鳴りが聞こえ、白雪のブレスが吹き荒れた。
 それは、敵を巻き込み、海上には氷の柱が作り出される。
 ダイアは「ここにいなさい。」と、ヴァルベリトに伝えると、氷柱の上を足場にし、戦闘を続ける。

「葛には指一本触れさせないわ。」

 相手の隙を突き、神経性の毒で敵を麻痺させる。
 ダイアは、実に理知的な戦いを繰り広げていた。
 だがその時、ヴァルベリトはあまりにプルーンを気にするあまり、自分の身に危機が迫っている事を気づいていなかったのだ。

「危ない!!」
「おっ、おおおおっ!!!?」

 葛が叫ぶと、その時にヴァルベリトは上空から近づいてくる影に気づく。
 なんと、彼の背負った風呂敷には、運悪く肉が詰まっており、その匂いに釣られたレッサーワイバーンが迫ってきたのだ。

「マジかぁ! プルーンが、レアモンスターが傷物にぃー!!」

 ヴァルベリトは急いで手綱を握るが、プルーンは言う事を聞いてくれない。
 それに気づいたダイアも、後ろを振り返るが間に合いそうになかった。

「キワノ! お願い、何とかして! 何とかして、皆が傷つかないように!!」

 葛はドラゴンに声をかけるが、それは無茶な願いと言うしかなかった。
 だが、ドラゴンは加速して翼竜の足に激突する。
 確かに皆はそう傷つかず、レッサーワイバーンも体勢を崩すに至った。
 しかしながら、ブライトブレードドラゴンのキワノは、大きな傷を負ってしまう。

「あ、あ……あ……。」

 葛はキワノの身体を労わるが、レッサーワイバーンは再び獲物を狙うべく、プルーンに迫っていく。



 ☆     ☆     ☆



「尋人、前方の敵を迎撃しろ!」

 掛け声とともに、キロス・コンモドゥス(きろす・こんもどぅす)の一隊が現れた。
 右翼に位置していた鬼院 尋人(きいん・ひろと)は、流体金属で造られた槍を振り回すと翼竜の攻撃を受け止める。
 翼竜は怒りの咆哮をあげるが、尋人は高位の龍の乗り手である。

「危ないな……。」

 まるで、生き物のように槍が動き、翼竜の翼に命中した。
 断末魔の叫びとともに、ワイバーンは落下していく。

「ふぅ、また一体倒した。それよりもコントロールセンターに向かった【遊び人の理子っち】は大丈夫だろうか?」

 尋人は額の汗を拭い取ると言った。
 代王【理子】と直接会って話したこともあるが、彼は【遊び人の理子っち】が同一人物だとは気がついていないようだ。

「それにしても、さすがはキロっち。龍の扱いに長けているな。」

 尋人はキロスの側で、彼の戦いぶりを見ていた。
 生まれながらに一匹狼の気質。
 危険な場所に自ら進み、彼に従いし小隊は、その危なっかしい動きに惹かれるように動く。
 ワザとやっているようには見えないが、結果的にそれが功を奏しているように思えた。

「いかん、いかん。彼の事をキロっちなどと。」

 尋人は友人のクリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)早川 呼雪(はやかわ・こゆき)らに感化されるように、キロスの事をキロっちと呼んでいた。
 呼雪らはそのあだ名が気に入っているらしく、口にするのでうつってしまったらしい。
 尋人は、キロスの方を見つめる。
 キロスは主戦場と思われる場所で、バンディッツ相手に剣を振るっていた。

「大将が戦っている今、オレも休むわけにはいかない。……薔薇の学舍の騎士は、気高さを失わない。」

 尋人は戦場に一礼すると、光の輝きを持つドラゴンの両翼を広げさせる。



 ☆     ☆     ☆



「ヒュー……。さすがはキロス、疾いな。」

 キロス・コンモドゥス(きろす・こんもどぅす)の速度に舌を巻いたのは、グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)だった。

「疲れたら、アルゲンテウスに任せて、ちゃんと休むんですよ。」

 グラキエスの隣で飛ぶ、ロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)はグラキエスの体調を気遣うように話しかける。
 確かに、キロスの速度は群を抜いていた。
 慣れていない空中戦なのに、テンポを併せていると疲労が蓄積してもおかしくはない。

「そうそう、俺が主の鎧になる故、休んでください!」

 アウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)は、ダークブレードドラゴンの上で槍を振り回した。
 金色の髪、褐色の肌は、黒いドラゴンに良く似合っている。

「では、言葉に甘えさせてもらうか。」

 グラキエスは一息つくと、腰に下げた水筒の蓋を開けて、口に含んだ。
 乾いた咽に染み渡るような、冷たい水が流れ込む。
 美味いと、思わず言葉が漏れるほど、水は彼の身体を癒す。
 そして、グラキエスは暫し、目を瞑ると、現在より、数刻ほど前の事を思い出す――。

「琥珀の眠り姫……? 前にアウレウスが言っていた空賊の秘宝の事か。」

 きっかけは、アウレウスの話だった。
 最初に聞いた時は、よくある都市伝説の一つだと思い、気にも留めなかった。
 ……が、それが確信に代わったのは、キロスの言葉だった。

「アンバー・コフィン? そりゃ、オレの獲物だぜ。」
「ほう。」

 キロスに、同行したのは先ほどである。
 グラキエスのスティリア(ブルーブレードドラゴン)。
 アウレウスのガディ(ダークブレードドラゴン)は、周りからでも目立つ存在だった。
 そんな、二頭のドラゴンにキロスは反応し、近づいてきたのだ。

「立派な龍だな。進化系か?」
「えぇ、前に……。」

 人当たりの良い、ロアはキロスに説明し、そのまま同行する事になったのだ。
 伝説なんて話はいくつも存在するが、眉唾モノは多い。
 当初は、グラキエスも疑ってかかっていた。
 言葉を司る言霊師たちは、人間にある種の希望を与えておくものだ。
 しかし、エリュシオンのキロスが動いたとなれば、信憑性が増してくる。

「アンバー・コフィンか……。実在しているなら見てみたいな。」

 グラキエスは思った。
 アウレウスが聞いたら、「主が俺の話したお伽噺を覚えていて下さった!」と喜ぶであろう。
 だが、ここは戦場である。
 彼は、アウレウスの怒号に目を覚ますと、キロスに従うようにドラゴンを飛ばす。



 ☆     ☆     ☆



「令嬢を乗せた飛空艇。……どんなお宝が眠ってるんだろう。やっぱり、凄いお宝なんだろうね!」

 蒼きドラゴンに跨る、スカイレイダーのルーシッド・オルフェール(るーしっど・おるふぇーる)は興奮した様子で、瀬乃 和深(せの・かずみ)に話しかけた。
 敵味方入り乱れてのこの状況では、否が応でも期待は高まってしまう。
 しかし、和深は撃ち続けた【イレイザーキャノン】の手入れをしながら、口を開く。

「俺はどちらかと言うと、眠り姫の方に興味があるな。……あわよくば、俺が王子様役を。」

 鼻の下を伸ばしながら照れる和深。
 いやらしい顔――。
 ルーシッドは、少しムッとしながら反対する。

「普通に考えたら、もうお亡くなりになってるでしょ。ついでに和深くんには、王子様なんて似合わないよ。」
「そんなに否定しなくても……。」

 和深は口を尖らせると、両手でしかっり握り締めた、イレイザーキャノンをぶっ放した。
 大地をも抉る強烈なビームに、遠くでバンディッツらが、慌てふためいている。

「でもさ、そこはコールドスリープとかで生きてるなんて、ロマンがあるんじゃないか。まぁ、王子様ってのが似合わないのは同意だけどね。」

 和深はルーシッドに声をかけると、近くで戦うキロス・コンモドゥス(きろす・こんもどぅす)の後ろに尾いた。

「とりあえず、俺たちの目的は周囲の露払いだろ。ルーシー! 準備はいいか?」

 和深の声に、ルーシッドは賛同するように【フュージョンガン】を抜いた。
 ちょうどその時、太陽の光が海を照らし、黄金色に輝いていた。

「琥珀色の海。もしかして、これがアンバー・コフィンとか……まさかね。」

 ルーシッドは龍の手綱を取ると、和深の脇を飛ぶ。

「あまり世話を焼かせないでね。和深くん。」
「はいはい。」

 和深は頷くと、遠くを見据えた。



 ☆     ☆     ☆



 見渡す限りの空、空、空……。
 見ている時は爽やかに見えるが、実際に空を飛んで戦うとなると話は別だった。
 下を見ると、あまりの高さに意識を失いそうになる。
 移動も、攻撃も、防御も、自由にいかない。

「わしともあろう者が、何をしておるのだ!!」

 夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)は震えていた。
 だが、それは戦いの為の武者震いではない。
 ギリッ――。
 甚五郎は、奥歯を噛み締めながらフライングポニーから飛び降りる。

『ダンッ!!!』

 彼が降り立ったのは、気流コントロールセンターの屋根の上であった。

「気合満々に引き受けたが、空の上なんかで戦えるかぁあぁ!!」

 甚五郎は2メートルはあるであろう、トゥーハンディッドソードを振り上げると、そのまま振り下ろす。
 風が唸り、木の葉が舞う。
 地面に立った時より、彼の震えは止まっていた。

「やはり、慣れない事はするもんじゃないのう。このまま、センター内部の敵の排除してくれよう。羽純! ホリイ!!」

 甚五郎はパートナーらに声をかける。
 だが、草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)の姿は見当たらない。
 そして、残されたホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)が、罰悪そうに口を開いた。

「ワタシ止めたんだけど、羽純は内部に行っちゃったんです。」
「何っ!?」

 羽純の事だ。
 好奇心のままに、部屋を探索しまくるに違いない。
 危険すぎるッ!!
 甚五郎は後を追おうと、足を踏み出した――が、その動きはピタリと止まる。

「まずは、こいつを倒した後じゃな。」

 甚五郎は片目を瞑ると、目の前で前足を前後に動かす茶褐色のドラゴンを睨み付けた。
 レッサー格と言えど、龍は龍。
 その大きさは約2メートル60センチほどで、人間を遥かに凌駕していた。

「甚五郎! ド、ドラゴンですよ。」
「わかっとる!!!」

 甚五郎は一気に飛び出すと、地面を引きずるように持って行った大剣で切りつける。
 だが龍は、尻尾で甚五郎を弾き飛ばした。
 その威力は、キュイラス(胴鎧)を拉げさせるほどの衝撃で、甚五郎はゴロゴロと後ろに転がされてしまう。

「じ、甚五郎!?」

 ホリイは急いで、甚五郎の元へ向かうとヒールを唱える。
 甚五郎は、苦痛に顔を歪めながら立ち上がると……。

「気合が足りないなぁ! 気合がぁ!」

 ……と嘯(うそぶ)いた。
 しかし、敵は思ったより強敵である。
 立ち向かおうとする甚五郎を心配したホリイは、辺りを見渡した。

『認証コードを答えよ』

 警告が聞こえ、機晶キャノンがこちらの方角に向いている。

「おおっ!? 流石ワタシ!?」

 ホリイは甚五郎の腕を引っ張ると、頭を低く押える。
 ドラゴンも何かに気づいたように飛び立った。

「おせぇ!!!」

 だが、時すでに遅く、砲弾は龍に命中する。
 そして、その一撃は、反撃の狼煙となっていく。