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大嵐を起こすために顔を洗う妖怪猫又

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第3章 長屋のお天気は台風並み!? Story3

「今、買出しに行ったら確実に服が濡れそうだ…。長屋に到着した時よりも、雨や風が酷くなっているな」
 外の様子を見ようと矢雷 風翔(やらい・ふしょう)は丸窓を開ける。
「俺が作るデザートは作るのに時間かからないし、嵐が止まった後で雑貨屋に行くか」
 猫又の怒りが静まるのを待つか…と窓を閉めた。
「璃央さんは石臼を使っているんですね…」
 小野寺 裕香(おのでら・ゆうか)は畳の上に座り、石臼でもち米とうるち米を挽いている様子を眺める。
「なんだか、とても時間がかりそうです」
「こうして丁寧に作ったほうが、猫又も喜ぶかと思いまして…。そちらはどんな料理を作る予定ですか?」
「風翔さんはデザートを作るみたいです。私の方は、作り置きのマタタビ酒を持ってきました。手作りは3ヶ月ほどかかってしまいますから」
「ピンク色…ですね?」
「見なかったことにしてくれ。(俺も見ないようにしよう…)」
 マタタビ酒がこんな色をしていただろうか、と首を傾げる璃央に風翔が言う。
「私もデザートを作ろう♪どんなお菓子がいいかなー…?」
「その前に頭を拭け」
 住人にタオルを借りた月崎 羽純(つきざき・はすみ)が、遠野 歌菜(とおの・かな)の頭にバサッと被せる。
「もうちょっと優しく渡してよね」
「さっさと拭かないと風邪ひくぞ。俺が拭いてやろうか?」
「きゃー、やめて!ヘアースタイルがぐちゃぐちゃになっちゃう」
 わしゃわしゃと髪の毛を拭かれ、髪型を台無しにされてしまう。
「それにしても、酷い雨風だったわね」
 カティヤ・セラート(かてぃや・せらーと)も髪の毛を借りたタオルで拭き、玄関に置いた壊れた傘を見ながら言う。
「私のみらくるレシピの、虹色スイーツを作ってあげようかな♪」
「歌菜、スイーツっていってもいろいろあるんじゃないか?」
 どんなお菓子を作るか決めていのか?と歌菜に聞く。
「う〜ん…、何にしよう……」
「向かいの民家に、弥十郎さんたちがいましたよ」
「やっぱり来てるんですね。何か思いつくかもしれないし、行ってみます!」
 ベアトリーチェに彼がそこにいるのを教えてもらい、歌菜たちは向かいの民家へ行ってみることにした。
「あ…っ、こんにちは!」
「歌菜さんも、何作るか決まった?」
「虹色スイーツを作ろうと考えているんですけど、その何にしようか考えているんです」
「んー…、お菓子のレシピはいっぱいあるからね…。満足するかは別として、心を込めて作ればいいと思うよ」
「はい、そうします!それじゃあ、カティヤさん。お使いよろしくお願いします♪」
「ぇ、わ…私が行くの!?そういうのは、羽純がやるものじゃないの!ほら、行ってきなさいよ」
 財布と買い物袋を渡された彼女は、ぶんぶんとかぶりを振り、隣にいる羽純に押し付けようとする。
「羽純くんが行っちゃうと、猫又ちゃんが来た時に分からないんですよ」
「というわけで、カティヤが行ってこい」
「カティヤさん…お願いします♪紙に欲しい材料の書いておきました」
「う…歌菜の頼みだし、仕方ないわね。あぁ〜…またずぶ濡れになるのね」
 ブツブツと文句を言いながら返されたものを受け取り、しぶしぶ買出しに行く。
「卵もいるの?2個でいいわね。それとお魚屋さん…、お魚屋さんはどこかしら?…あったわ!かつおぶしと、乾燥桜えびちょうだい」
「はい、ありがとうね」
「んー、他のは雑貨屋にありそうね。どうせ雨で髪とか濡れちゃってるし…、バーストダッシュして、パーッと買い物を終わらせようかしらね♪」
 代金を渡して買い物袋に放り込み、雑貨屋を目指して走る。
「残りは小麦粉と砂糖、それに猫ちゃん用のミルクね。これと、これも…後それも必要なのね」
 カティヤは歌菜が書いたメモを見ながら、材料を買い物カゴに入れ店主に渡す。
「えっと、お金を渡さなきゃ」
「これ、お釣りね」
「―…ちゃんと合ってるわね。早く歌菜たちのところへ戻らないと…。ああもうっ、傘が壊れちゃったわ、風速何メートルなのよ…」
「娘さん、大丈夫かい?」
「もうびしょびしょだから、これ以上濡れても平気よ。お腹を空かせて怒っている猫又ちゃんのためにも、早く戻らないとね♪」
 釣銭を財布に入れると、向かい風の流れに逆らいながらバーストダッシュのスピードを利用し、猫又のために急いで材料をパートナーに届ける。
「買ってきたわよ、歌菜」
「ありがとうございます!」
「…なんか、妖怪みたいな感じになっているな。しかも怖い系の…」
「ふっ、これも猫又ちゃんのためだもの。タオル借りるわね」
 服の端を掴み玄関で水気を絞りながら言い、住人の方へ顔を向けてタオルを借りたカティヤは、髪色の長い髪を丁寧に拭く。
「私は…料理を手伝いましょうか♪」
「カティヤ、お前は料理はしないでいい」
 お前は台所に入るなという態度で、羽純が立ちはだかる。
「って、羽純。何でそこまで嫌がるのよ…。確かに私は料理は苦手だけど、火を使わなければ焦がす事はないのよ?…たぶん」
「本当に止めてくれ、大変なことになるから」
「分かった、料理はしないわ。私は物陰に隠れて…猫又ちゃんが現れるのを待つことにするわね」
 棚の陰に身を隠し、妖怪の少女がやってくるのを待つカティアは、片手をにぎにぎとグーパーさせ、ちょっと怖いお姉さんの姿になっている。



 葦原の長屋へ遊びに来た綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)は、大嵐の事件に巻き込まれてしまい、自宅に帰ることが出来ず、民家の中へ避難している。
「これは当分、帰れそうにないわ…」
 丸窓を開け、暴風雨を眺めながら嘆息する。
「お供え物をあげれば、嵐を止めてくれるのかしら?ったく……グルメな猫ちゃんねえ……」
「買出しに行くの?」
「少し風速が弱まってからにするわ、コレットさん。先に材料を買いに行った人が、何人かいるみたいだし」
「すぐ用意出来る感じ?」
「そうね…。時間がかかるものは、ご飯炊きだけね。あ、そのお米、少しもらえる?お金払うから。2合でいいわ」
「いいよ。5kg分買ってきてもらってよかった。重い物持って、嵐の中をうろうろするのは大変だからね」
 コレットは笊に分けてやり、さゆみに渡す。
「ありがとう。これ、代金分ね」
「うん。お米、だいぶ減ったかな?この量なら、持って帰らずに使い切れるね」
 猫又にお供え物をあげる分だけでなく、長屋の住民や皆にも料理を食べてもらうことを計算に入れ、2種類の酢飯を作ろうとボウルに入れる。
「いつでも炊けるように、洗っておこうっと」
「あら、釜戸が足りないわね」
「隣の民家の台所は、誰も使ってないみたいだよ」
「じゃあ、そこを借りるわ。ご飯くらいは炊いておかないとね。わぁっ、凄い風!傘が壊れちゃいそうね…」
 笊の上にビニールを被せたさゆみは、隣の民家へ駆け込んだ。
「ぬかくさくならないように、最初の水はサッと流さなきゃいけないのよね。この次期なのに、水が冷たいわね…。大雨の影響で気温が下がって、冷えているのかしら?」
 水の冷たさに耐えながら米を手早く研ぐ。
「せっかく釜で炊くんだし、米粒を傷つけたら、本来の美味しさがなくなるもの…」
 泡だて器などの道具は使わず、丁寧に研いだ米を釜に入れる。
「湿っているのもあるわね…。内側に積まれている薪を使わせてもらうわ」
 さゆみは乾いている薪を選び、釜戸にくべて火をおこす。
「炊く時間は20分未満ね。蒸らすことも考えたら、40分くらいかしら」
 携帯で炊き上がりまでの時間をチェックしながら、茶の間で待つ。



「ご飯を炊き始めている人がいるね、私も炊き始めたほうがいいかな?」
 丸窓を開けて外の様子を見ていた終夏が、他の民家の格子から出る煙を発見する。
「その前に…、スーちゃんを呼ぼう」
 地面に魔方陣を描き、聖杯を掲げる
 ―…後は、覚えている手順の通り行い、白色のカスミソウのような、花のワンピースを纏った少女を呼び出す。
「やっほー、おりりん」
「スーちゃん。近くに何か感じないか、見ていてくれる?」
「なにかって…、ねこまたのことー?」
 血の情報で友達の考えていることがすぐに分かり、確認するように言う。
「うん、女の子の妖怪だよ」
「アタシはたんちしたり、見えないあいてを見たりすることはできないよー。そーゆうのは、あのアイデアじゅつじゃないとムリだねー」
「―…んー、そうなんだね」
「もし見つけたら、おしえてあげる」
 不可視状態でない視覚で見えたら教えてあげようと、彼女の頭に飛び乗る。
「おりりん、ごはんっておいしーの?」
「好みによるけど。ご飯が好きな人はこういうので炊くと、美味しいって思ったりすることもあるんだよ」
 飯ごうに洗った米と水を入れながら、頭の上に乗っているスーに言う。
「そうなのー?」
「好みは人それぞれだからね。スーちゃんたちもそうじゃないの?」
 外見や性格が違うなら、食べ物の好みも違うのかな、と聞いてみる。
「んー…。ちょーっと、ちがうこともあるかもねー」
「なるほど…。…あっ、アニューラスが戻ってきた」
「んもぅ、全身びしょ濡れよ」
「傘、壊れちゃったんだね」
 玄関にボッキリと折れた傘を視線に移し、そんなに荒れているんだ…と目を丸くする。
「家の外で炊いたら、雨に濡れちゃうね」
「戸を開けて、玄関で炊けばいんじゃないの?私は七輪を借りて、戸の近くで焼くわ。雨でびしょ濡れになった魚なんか、食べたくないないと思うし」
「そうしようか」
 終夏は火術で炊き始める。