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リアクション
第5章 大雨・落雷・突風…ときどき…ヒトが玩具にされるでしょう? Story1
大嵐のせいで、長屋の住人たちはテンションをダウンさせているのだが…。
麻篭 由紀也(あさかご・ゆきや)は壊れそうな傘を手に、テンションを上げている。
「雨がざーざー、嵐は吹きすさぶ…。何というかちょっとテンション上る…。とはいえ農作物への被害はあるわけだし、のんびりしたことも言ってられないな!」
「上がるのでしょうか…?」
本当は瀬田 沙耶(せた・さや)もテンションを上げてしまっているが、煽りも状況を治める気もない。
「剣の修行にもならないのに、なぜ関わるんですか?」
猫又を捕まえたとしても修行にならないのでは…、と和泉 暮流(いずみ・くれる)がため息をつく。
「のんびりしたことを言っている場合じゃないな。よし、沙耶ちゃん、暮流!3人で猫又っ子を壁際に追い込み作戦を決行だ!」
「それ…作戦でも何でもない気がしますけれど。わたくしはパスですわ」
「奇遇ですね。私も同じく今回の案件手助けする気は起きません」
「って2人ともやらないのかよ!何か思うんだけど2人とも吃驚するほど、人助けとかに興味ないよね!?」
即答で拒否され、収穫が出来なくなりそうで困っている人々がいても、どうでもいいのか!と大声を上げる。
「食料?そんなのシャンバラの各都市から買うこともできるでしょう?」
「収穫出来ないと、ここに住んでいる人が生活に困るじゃないか」
「何故この者たちの農産物生産を助けなければもごっ」
沙耶に智杖を頬に押し付けられ、セリフを強制終了させられる。
「協力を拒否すれば、今度は…その頭を殴りますわよ?」
由紀也だけに任せようと思ったが、面倒事でも校長がいる葦原の土地に住む者を、放っておくわけにもいかない。
校長のファンとして、由紀也に協力してやる気になったようだ。
「沙耶…あれほど2メートル以内に近づくなと言っておいたでしょう!」
暮流は女性が近づくと、アレルギー反応が出てしまうほど苦手で、ガリガリと腕を掻く。
「第一猫又も少女だと言う話なのに、私が近づけるわけなかったんですよ」
「ヒトガタになっていなくても、反応するんですの?そうではないなら、手伝いなさい」
「ち…近づかないでくださいよっ」
反応領域に踏み込まれたせいで痒みが酷くなりササッと離れる。
「(杖でぐりぐりするのも、近づくのもやめてあげて…って言いけど。ムリだろうな…)」
由紀也がとめようとしても、葦原の土地だろうと他人事に言う暮流への仕置きを、沙耶が簡単にやめてくれるはずもない。
“沙耶ちゃんは人数として数えられそうだけど、暮流は…無理に頼むのはやめておこう…。”
「俺が【幻槍モノケロス】で猫又が走って、行こうとする先の地面を猫又自体に、当たらないように突く。そうしながら、沙耶ちゃんの居るほうへ追い込むのはどう?」
「…えっ?はい…」
自分の方へ来た猫又が噛みついたり、引っ掻くんじゃないかと思ったが、これも校長のためだと頷くしかなかった。
だが、その餌食になるつもりはない。
追いかけるところまでは手伝ってやるつもりだが、そこから先は由紀也だけにやらせようと考えている。
「ご飯の匂いがするにゃー」
風に流れてくるご飯の匂いを嗅ぎつけ、とことこと小さな猫が歩く。
「あれじゃないか?行くぞーー!!」
「なんにゃ、お前っ。こっちくるにゃぁあ」
槍で突っつかれると思い、猛スピードで逃走する。
「早っ!?」
「―…あー、これは追いつけそうにないですわ」
「(沙耶ちゃん、本当に…校長のファンなのか、それともそうじゃないのか分からないっ)」
さっそくやる気が失せた態度を取る彼女をちらりと見る。
「袋小路に追い詰めよう!沙耶ちゃん…あれ、いないっ!?」
「フゥウウウーーーッ」
「イッたぁああ!!噛まれたーーーっ」
怒った猫又に反撃され、腕にガブリと噛まれる。
「ありゃ…、いない…っ。どこいったんだ!?」
ぶんぶんと腕を振り回し猫又が離れたが、その姿を見失ってしまう。
不可視化した妖怪の少女は激怒し、顔を洗って天候をさらに荒れさせる。
「2人とも戻ってきませんね、捕まえたんでしょうか?まぁ、どうでもいいですが…」
暮流は道端に取り残され、何分待ってもパートナーが戻ってこない。
「あー…、いやですね。ゴロゴロ音が鳴っていますし…。何か…光がこっちに近づいてくるんですけ…どぉおおお!?」
猫又の怒りの雷が、暮流に直撃する。
「しびしびびびびれぇえええええ!!!?…ぐふっ」
真っ黒に焦げた彼は、泥の上に倒れてしまった。
「あら…、ただの物体になってしまいましたわね。転がしながら運んでやりますわ」
ただの物体に成り果てた暮流を、沙耶が杖で転がしながら運んでやる。
「待っているヤツが、こういう目に遭う確立って超高いよな…」
転がされている彼を、由紀也は哀れむような目で見つめる。
「悲鳴がふたつ目…っと。お天気が大荒れっていうことで、魔法的なものよりもアレなのよね…。命中した人、無事だといいけど…。笑いに近いシーンなら、きっと気絶か焦げる程度ね」
リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)はパートナーであるまたたび 明日風(またたび・あすか)をエサ代わりに、猫又が釣れるのを民家の中で待っている。
手にしているそれは、彼が常備している釣竿を拝借したようだ。
「リカイン、これは道案内しているように見えるか?」
「全然」
「別の聞き方をしましょう。この状態で、あっしが道案内が出来ると思ってます?」
「ううん、無理だと思う」
騙したことを謝る気もなく、かぶりを振って釣りを続ける。
ちょっとエサになってくれない?っと言われて、“いいですよ”なんて言う仏のような者は、ほぼいないだろう。
「ねーねー、仲間っぽく見える?」
明日風を心配する様子を見せず、サンドラ・キャッツアイ(さんどら・きゃっつあい)は頭に琴音の耳、お尻に琴音のしっぽを2本つけた姿を2人に見せる。
「どうかしらね。まぁ、敵意はないと思ってくれるかもね?」
「あのー…もしもし?あっし釣りは好きですがエサにされる趣味はありませんよ」
「暴力的なことは、さらに怒らせるだから。友好的に接してあげるほうがいいわよね」
「はぁ〜…聞いてませんね」
抗議の声を上げるが無視されてしまい、酷い扱いに泣きたくなる…。
諦めたのか顔を俯かせていると、どこからか…“にゃー、にゃぉ〜ん”と猫の鳴き声が聞こえてきた。
「尻尾が1本の猫ばかりみたいですが?」
「あらら、野良猫が寄ってきちゃったわね」
「こ、来ないで…こっち来ないでくださいっ。あぁあああ、ぎゃぁあーーーーっ」
パニック状態になった明日風は絶叫し、ビームレンズからビームを乱射する。
しかし、殺傷能力がなく、猫たちに目晦ましにもならない。
「しっしっ!寄らないでくださいっ。イッたぁあ!?噛んだ、猫が噛みつきましたーっ」
「ここに、またたびがあるわ。猫まっしぐらだと思わない?」
本命の猫又を呼び寄せるために、サンドラはわざとらしく大きな声で言う。
「またたび…」
「(来たっ!)私と一緒に、がじがじしながらお話しない?」
「がじがじって、サンドラ…。何を言っているんですかっ」
「これもお話するためよ」
「そうよ、たまには犠牲になりなさいよ」
「リカイン、さりげに酷いこと言ってませんか…?」
「フフッ、気のせい…気のせいよ」
びくびくと怯えている彼にリカインが微笑を向ける。
「だ、誰かーっ。た…たたた助けてください!!!」
「泣いても叫んでも、助けなんて来ないわ。来たとしても、またたびが散っただけと言っておくし」
「うぐぐ…酷い、酷すぎる……。あんまりです…」
サンドラには齧られなかったが、猫又にはガジガジと噛まれ、身も心もズタボロにされてしまう。
「―…ほんと、お笑いシーンでよかったわね」
沈んでいる彼を見つめ、リカインは他人事のように言う。
「猫又さん、私とお話を…」
「ひっく…むしゃくしゃしている気分がとまらないにゃ…」
「酒乱…っ!?あぁっ、待ってぇえっ。あわわ、どうしよう…」
酔っ払った猫又は気分を晴らそうと走り去ってしまった。
「猫又が大暴れしてる、何とかして下さいって依頼受けて来たんはえぇけど、何かあのぬこ娘とは相性悪い予感が…」
何かが暴れているから助けてください、というものはよく聞くが、今回の相手は七枷 陣(ななかせ・じん)と相性が悪い。
それも2度目のような気がし、いやなフラグが頭に立っていそうな気がする。
「他に大嵐を起こしそうなやつといえば…あいつらとかやね」
室内型の台風たちのことを思い出した陣は、魂が抜けそうなほどため息をつく。
「げっ、傘がぶっ壊れたっ」
「ボクのはまだ無事だね。早くもアレかもね」
リーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)は顔をにやつかせ、わざとらしく言葉を伏せる。
「うっさい。いざとなったら、天の炎をぶっぱして雨粒を全部蒸発させたるわ」
「まっ、一応援護はしてあげるけど。魔法を使いすぎて、いきなりアレにならないようにね」
「この宝石は悪天候と無縁やっ」
今のオレは焔だけやないっ!という態度で、ペンダントの中にある2つの宝石を見せ付ける。
「じゃあー怒らないよーに、集中しなきゃね♪」
「…ぅ、わかっとるわっ」
いじられた怒りを沈め、猫又を発見しようと集中する。
「いたっ!あの壁の近くにいるみたいや」
ふらふらと歩いている猫又の傍に、ゆっくりと寄る。
「何にゃお前。にゃーが見えるのかにゃ、ひっく…」
「―…ありゃっ。何だか喋り方がおかしくない?陣くん」
「ん〜…顔が真っ赤やね?元々赤いっていうーわけじゃなさそうやけど…」
「えっ、それって酔っ払ってるのかな?」
「怒りながらまたたび齧りにいくなんてことあるんか?」
「フゥウウ…。にゃぅうううっ」
明日風のまたたびに酔った猫又が風速を強める。
「おわっ!?リ…リーズッ」
「うん、分かってるっ」
タービュランスの乱気流を起こし、暴風を相殺しようとする。
「ぬこ娘、お供え物ならな…」
「ゥウウ〜…にゃーーーーっ」
猫又は2本の尻尾を膨らませ、雷を落としまくる。
「100パーセント、落ちてくるっていうわけでもないんやね」
「陣くん、雷がっ」
「対電フィールドで緩和されるから平気…おぁあっ!?」
炭になったり焦がされることはないが、直撃をくらった陣は手足がビリビリと痺れる。
「あのな…、ぬこ娘。…お供え物がほしいなら…」
「(陣くん…ロボットみたい。でも。怒らせたら宝石の効力に影響でちゃうし。あぁ、でも…おいしい笑いの時間ももったいない気が…っ)」
錆びたロボットのように、ギシギシと動く陣をいじりたい気持ちを必死に堪える。
「猫又ちゃんが行っちゃうよ。陣くん、早く追いかけなきゃっ。んー…っ、不発マッチにならないでよね」
ハイドシーカーで探しながら、カレシの服を掴んで運ぶ。
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