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リアクション
第7章 大雨・落雷・突風…ときどき…ヒトが玩具にされるでしょう? Story3
「風がだんだん弱くなってきたね」
数十分前まで、風速20メートル以上ありそうな風が弱まっている。
「誰かが、猫又の機嫌を直す手伝いをしているのかな?とはいっても、まだ雨は強いね。猫又…どこにいるんだろう」
「セル、あれじゃないんですか?」
御影と手をつないで走っている少女を、リンゼイ・アリス(りんぜい・ありす)が指差す。
「尻尾が2本あるね。あの子に間違いないよ」
その少女の姿をセルマ・アリス(せるま・ありす)も見る。
「こっちに気づいたみたい、逃げちゃったよ。あの子、足早いね…」
「セルマさんたちも、猫又さんを追いかけてるんだね?」
「そうだよ。でも、追いかけるスピードが速くなるスキルがないと、なかなか捕まえられないと思う」
「うん、全然追いつけないんだよね」
清泉 北都(いずみ・ほくと)は白銀 昶(しろがね・あきら)と協力して、まずは話を聞いてみようと追いかけているが、すぐに逃げられてしまい追いつかない。
「おーい、北都。お供え物を作っているヤツがいるから、そこに誘導しようぜ。長屋の人間が、何もくれないって怒ってるんだし」
「うん、そうしようか」
「ひーさん。あたしたちも玩具をまいて、ご飯があるところに連れて行ってあげよう」
「お腹が空いて機嫌が悪いようですからね」
練と秘色も誘導に参加する。
「ついに猫耳幼女に会えるのか…」
一の発言に陣は…。
「(怖っ、超怖っ。全力で逃げて、ぬこ娘!!)」
…と、心の中で叫んだ。
「ゴットスピードのスキルがない人は、俺がスピードアップしてあげるよ」
「はいはーい、あたしたちないよっ」
「カズちゃん、かけてもらってほしいの」
「追いつかれちゃいけないんだったな」
足を早くしてもらったほうがいいとリンに言われ、一もかけてもらう。
「僕たちはここまでで大丈夫だよ」
「3人の足を早くすればいいんだね?」
セルマが一と練、秘色の足を早くしてやると、皆は猫又を探しに向かう。
「しかし、セル。確かに移動速度は速くなりましたが、貴方は何だか焦ってないように見えます。どうされましたか?」
他に策があるようにも思えず、猫又を追いかけようとしないセルマに、リンゼイ・アリスが言う。
「焦ってないように見える?ああー、それはたぶん…。リンに兄として誇れる人間になれって言われたけど、焦っても結局足元浮いたままじゃいつまで経っても誇れる自分には辿りつけない気がしたから。少しずつでも確実に歩こうって思っただけだよ」
「誇れる…確かに言いましたね」
「後は自分で何でもやろうとしないかな?」
「私も貴方も今まで自分を見失いすぎていました。強化人間は依存的との事ですが、結局私は憎しみの感情で貴方に依存していただけかもしれません。兄妹の仲に憎しみと罪悪感だけが募っているなんて普通の状態ではありませんよね…」
「ともかく俺たちも猫又を追いかけよう。皆で追えば何とかなる気がするしね」
「えぇ…、自分が…と主張するよりも、協力し合うことが大切ですから」
この追いかけっこを距離感を取り戻す足掛けにさせて頂きましょう…と、セルマの後に続き、リンゼイも猫又を追いかける。
「―…妖怪とは昔から退治されてこそなんぼのもの。まっ、パラミタの妖怪が退治するほど、全て悪とは限らんしなぁ」
妖怪絡みのこの事件に興味をもった瀬山 裕輝(せやま・ひろき)は、長屋にやってきた。
今回は住人に非があり、嫌がらせをして遊びたという悪ではないため、退治するわけじゃない。
猫又には何か習性などがあるのだろか。
情報を集めようと長屋に住む者たちの話を聞いてみる。
「嵐を起こしているっていう猫又の習性とか知ってたら、教えてほしいんやけど」
「いやぁ、わからんねぇ。かつおぶしと肉が好きっていうことくらいだなぁ」
「(ここの連中は、ご利益もらっている妖怪に興味ないんか…)」
見ただけで硬直するほど犬猫嫌いで、役立たずになりそうだ…と思っていたが、早くもソレになってしまった。
「お供え物あげるほど忘れてるんだし、記憶にないっていうこともあるんじゃない?」
「なんや、その“記憶にございません”っていう、どっかの政治家みたいなセリフはっ」
「税上げますん、どっちなの?って思うセリフよりマシよ。あはははっ」
「それはとりあえず隅っこに置いて、猫又がいそうな場所がわからんなぁ」
「お腹空いているなら、民家の中を覗いたりしているのかもね」
「待ち構えてればいいってことやね。…でもオレ、発見してもフリーズするかもしれん」
東方妖怪伝奇録 『霊奇譚』(とうほうようかいでんきろく・れいきたん)の言葉に、なるほど…と頷くが、探しに行く気になれない。
「うん、探しに行きなよ」
「あのー…オレの話、聞いてなかったんか?」
「聞いてたわよ。だから、猫又探しに行ってね」
嫌がる彼に無理やり探させようと、くすくすっと黒い笑みを浮かべた。
「大丈夫よ。死に水をちゃんとあげるし、雷が落ちても灰くらいは拾ってあげるからね」
「(死亡フラグ立てられたーーーっ!?)」
「じゃ、頑張って。気が向いたら応援してあげるから、頑張ってね」
沈みかかっている裕輝に追い討ちをかけるように、にっこりと微笑んで言う。
「はーーー…行ってくる…」
裕輝はじめじめしたオーラを漂わせ、民家の外へ出た。
「ワタシは、猫又がやっているコトの手伝いを…。ん?ぇーっと…ぁー違う違う。皆の様子でも見に行こうっと」
パートナーをほったらかし、隙あらば脅かしたりイタズラしちゃろうと邪気を放つ。
「ターゲット発見ー。くくくっ…ねこじゃらしに色をつけた尻尾で、ガッカリさせちゃおう」
霊奇譚は第一の犠牲者とする者を探し、リンを背負って走らされている一を見つけた。
建物の陰に隠れ、尻尾もどきをちらつかせる。
「カズちゃん猫のしっぽが見えるの、2本あるみたいなの!」
「猫耳の幼女か?よし、おじちゃんが遊んでやるぞ」
「きたきた…、ぷぷぷっ、ダミーと知らず、ばっかみたぁーい」
「あ…。カズちゃんがおいかけるんじゃないの!ネコマタの女の子が、おもちゃをおいかけるの!とまるの、カズちゃん!とまるのっ!」
リンがおでこをぺしぺし叩いてもハチマキを引っ張っても止まらない。
「なんか…表情が、ヤバイんだけど…。いやーー、来ないで!!」
猛スピードで迫る一から逃げようと、霊奇譚は悲鳴を上げて逃走する。
「…何かあったんか?いや、放っておくか」
パートナーのことろへ行ったら、猫又を発見せず戻ってたのかと叱られるだろうと思い、放置することにした。
「なんや、顔になんかつっくい…たっ!?」
強風で飛んできた猫の毛が、ベタッと裕輝の顔についた。
「はわわわ…くっつくな。このっこのっ」
顔についた毛を手の平で叩いて落とし、泥に落ちたそれを踏みつける。
「にゃーん」
「の、野良猫!?あっちいけ、しっしっ」
他人が見たら“コイツ最悪!”と思うほど、蹴るマネをして猫を追い払う。
「殺気が…っ、まさか猫又なんか?」
「猫をいじめたのかにゃ」
「動物を追いはらうなんて、ヒドイやつにゃ」
「(に…2匹!?)」
片方は御影なのだが、どっちにしろ猫が2匹いるというだけで、かなりピンチだ。
「来るな…っ、うわぁあああっ」
せかっく猫又を発見をしたのだが、その目的を忘れるほど叫び声を上げ、神速で逃げようとする。
「猫が…猫が追いかけてくるーーーー」
叫びながら民家に逃げ込み、押入れの中に入るが…。
「ね、猫が…来る。猫がやってくる…」
カリカリカリカリ…。
何かがふすまを引っ掻き、開けようとする。
「(き、来たーーーーーっ)」
無理やり開けられ、4つの怒りに満ちた目が光る。
「見つけたにゃ…。フゥウウッ!!」
「ひぃいいいっ」
情けない声を上げ押入れの中から出た彼は、別の部屋に逃げる。
ふすまを開けるとそこには、“不遇”と呼ばれた者が、両手を縛られてぶらーん…と吊るされている。
「ここでいったい、何があったんや…」
「―…ぅう…助けて……。毛玉ちゃんと妖怪の女の子が、戻ってくる前に…っ」
「そんな暇ない、無理っ。オレ、超狙われているから」
他人を助けるよりも我が身を守るほうを優先させて、見捨ててしまった。
「ぇえ…っ。あぁ…戻っきちゃったんだね」
「あいつ、どこに逃げたにゃ!?」
「猫又ちゃん、不遇さんで遊んでいくにゃ」
「気が済むまで、すきなだけどーぞなのです♪」
「にゃん!」
「ほぎゃぁーーーー!?」
引っ掻かれ…牙の餌食にされ…原型が何か分からなくなってしまった。
「だいじょーぶですか、不遇さん。もしもーし?」
小さい子には見せられないような、映像的にモザイクがかかるくらい、危険なことになっている彼を指でつっつくが…。
返事がない…。
屍になりかけているようだ。
逃亡している裕輝は、袋小路に追い詰められてしまっている。
「や、…やめ……っ。いぎゃぁあああぁあ゛!?」
猫又による自然の雷が、彼の脳天に落ちる。
「ぁ…ぁあ゛っ。ぐふっ」
指で壁に“ネコキライ”と、血文字を書いて力尽きてしまった。
白砂 司(しらすな・つかさ)は葦原でたまには休暇と洒落込みたかったが…。
久しぶりにきてみれば、天気は最悪だ。
突風・落雷・大雨の三連コンボ。
ここに到着したばかりの時は、息がしづらいほど酷い暴風だった。
「この雨は猫又が起こしているのか…」
「どうします?せっかくの休暇が、悪天候騒ぎで終わってしまいますよ」
「それも困るが。何もせずに動物に好かれるとか、そんな神秘的な力があるわけではない。自身を上の存在や仲間だと認めさせる手段を取り、その結果として共存できるものだ」
初めて会ったのに、いきなり友達…なんてことはありえない。
ドルイドでも初対面の相手と、すぐ仲良くなるなんて不可能に近い。
それが妖怪なら、理解することがさらに難しくなる。
「えぇまぁ、それはそうですけど…」
「……ということで、餅は餅屋。猫又と話をするというなら、サクラコ、お前が適任だろう」
猫の素早さにはサクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)との付き合いで慣れている。
だが、全力を出してまで追いかける気はなく、無理やり捕まえても説得するのは厳しいだろう。
雨も降っているし、探すのはサクラコに任せることにした。
「―…獣系どころか、人の匂いもしませんね。うーん、どこにいるんでしょう?」
どしゃぶちの雨のせいで匂いが消えてしまい、超感覚で探すことも出来ない。
「雷ピカピカしてて怖いっ」
猫又と仲良くなりたいが、魔法じゃない自然の落雷で灰になりたくはない…。
大嵐の影響ですでに何人も、犠牲者が出てしまっている。
それらを目にするまでは悪天候でも平気だった。
眉をへの字にしてルカルカ・ルー(るかるか・るー)は少女を探す。
「反応がないな」
夏侯 淵(かこう・えん)はハイドシーカーで探してみるが、まだ発見出来ない。
「きゃーっ、またどこかに落ちたわ!」
「うーむ、何人か犠牲になってしまっているようだな」
「炭になった人とか、原型のない人もいたわね。…怖いっ」
「そもそも猫は、発見した獲物をじっくり遊ぶこともあるのだからな」
「え…獲物っ!?」
座敷わらしと違って、怒ると直接的ダメージをくらわす妖怪なのだ。
狙われちゃったらどうしよう…と、めそっと涙目になる。
「ルカ、頑丈だろう?ちょっと落とされてみてはどうだ」
「いや、絶対いやーっ。か弱い乙女なのよ、ルカ頑丈じゃないもん」
「冗談だ、冗談」
「むぅー…」
からかわれたとわかり、ルカルカは頬を膨らませる。
「ぁ…、食欲を刺激してあげるのはどう?チョコパウダー機からチョコ粉を流して、風術で操作するの」
「チョコの匂いがしたら、逆に逃げるのではないか?食べられないものなのだからな」
「そっか。猫ちゃん猫ちゃん。猫娘ー♪」
「猫又だぞ」
名前を間違えてしまっては、誰のことを呼んでいるのか分からぬぞと、淵がルカルカに言う。
「じゃあ、又ちゃんやーい」
「又は止めぬか」
「…リバイアさん元気かな?」
「葦原にきてなぜその名を…。それに、あの御仁はレヴィアだと…何度言えば分かるんだ」
「そうだった、てへっ」
ルカルカは呼びたいように呼ぶ、変なクセがあるようだ。
「むっ、ハイドシーカーに反応が…」
「どこどこ!?」
「屋根の上だ」
「んじゃ、行こう♪猫又ちゃんのところへびゅびゅーん」
空飛ぶ魔法で屋根に乗り、ゴッドスピードで追いかける。
「お前もにゃーを捕まえにきたやつらかにゃ?」
「ううん。猫又ちゃんと追いかけっこしたいの」
「2匹いるぞ。どいうことだ…」
黒猫の御影も猫又と一緒に、なぜか逃げている。
「みかげにゃん、あいつら追いついてこようとするにゃ。にゃーは追いつかれたくないにゃ」
「狭い路地に逃げ込むにゃ、猫又ちゃん」
2匹は猫の姿のまま、路地に飛び降りる。
「猫ちゃん、めーっけ♪」
行動予測で先回りしたルカルカが、塀からニョッキリと現われる。
「いやにゃん」
しかし猫又はプンッとそっぽを向き、銭湯の中に駆け込む。
「この中にいるのはわかってるのよ♪」
「俺は入れないな…」
さすがに女湯に突入する勇気はなく、淵はルカルカたちが出てくるのを、出入口の辺りで待っている。
「うぅ、びちょびちょ…。でもっ、猫又ちゃんに嵐をとめてもらうまで我慢♪」
ルカルカは猫娘のつもりで猫耳と猫しっぽをつけてきたが、巫女服はすっかりびしょ濡れになっている。
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