蒼空学園へ

イルミンスール魔法学校

校長室

シャンバラ教導団へ

シャンバラ大荒野にほえろ!

リアクション公開中!

シャンバラ大荒野にほえろ!

リアクション

 


「えっ、のるるちゃんも行方不明なの!?」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が慌てたように声を上げた。
 状況の変化が著しい上に情報をまとめる筈の依頼者が行方不明で、警察に駆けつけた協力者の間でも事態の把握に差がある状態だった。
 連絡係を買って出たリカインは、直接現場へ調査に向かった面々に情報を回す仕事に追われることになった。
「じゃ、依頼の件は……」
 心配そうに声を潜めるセレンに、クロス・クロノスが微笑む。
「それは承知してるって、藤堂係長さんが仰ってくれてます。とりあえず、西園寺さんのローカルから、ざっとチェックしてみようと思って」
 二人は並んで、のるるのデスクに向かった。
 新人らしい几帳面さと、若い女の子の感覚の混在するデスクに置かれたノートPCを開き、起動する。
 藤堂から聞いた準管理者権限のパスワードでログインすると、一係の刑事たちのリストが表示された。
「それ、西園寺刑事の報告ですか?」
 駆けつけたばかりのマイト・レストレイド(まいと・れすとれいど)が覗き込んで訊いた。
 仕立てのいいスーツを着こなし、若干若すぎることを除けば空京警察の刑事で十分通用する外見だ。
「ええ、かなり詳細に報告が入ってますね。目を通せばだいたいの行動が掴めそうです」
 視線をモニターに固定したまま、クロスは答える。高速でページを移動しながら、必要な情報をチェックしているようだ。
「……真面目な人みたいですね、定時報告もマメだし」
「富田林刑事の報告は?」
「それがねぇ……」
 セレンが困ったように笑って、隣の端末を操作する。
 画面の報告リストの中に、登録されたユーザー名と報告数が並んでいる。その中の「富田林 耕一」の横には、「1」という文字が申し訳なさそうに表示されていた。
「これよ。着任時の登録報告以来、ひとつも無し」
「うーん」
 マイトが呻いた。
 自他ともに認める「刑事馬鹿」のマイトとしては、依頼から読み取れる富田林耕一という人物像に、密かに共感めいたものを感じている。傍若無人にみえる行動にも、刑事としての信念のようなものがあるのだと思いたかった。
 だとしたら……この報告状況は納得が行かない。有り体に言って、イメージがそぐわないのだ。
「ちょっと、デスクを調べますね」
 奥の藤堂に声をかけて、マイトは富田林が与えられていた窓際のデスクに歩み寄った。
 ほとんどここにじっとしている時間はなかったのだろう。デスクの上には私物らしいものはく、端末とキーボードもきっちりと所定の位置に置かれ、手を触れた形跡もない。
 それで、マイトは確信を深めた。
 彼のイメージする富田林は、命令を無視して単独行動を取ったとしても、報告や伝達の義務をおろそかにする筈がない。
 自分に何かあっても、自分が掴んだことは残す……それが、刑事というものだ。
 だが、伝え聞くような人物であれば……。
 引き出しを開けてみる。中は備品の文具が整然と並んでいる。
 椅子を引いて、腰を下ろしてみる。
 ちょうど深く腰を下ろして背を伸ばした視線の先、ファイルとファイルの間に、薄汚れたノートが一冊差し込んであった。
 そう。伝え聞くような人物であれば、デジタル端末の操作が苦手で、入力を後回しにしていてもおかしくない。
「……あった」
 マイトは満足そうに笑って、それを引っ張り出した。
 使い込まれた様子見て、彼の私物だろう。ぱらぱらと開いてみると、東京での自分の勤務記録から、調査内容、費用の明細までぎっしりと書き込まれている。
 そして、最後の見開きには、空京での行動がボールペンで克明に記されていた。




「支社長を名指しして、例のオフィスに連日押し掛けていたようです。聞き込みというより、圧力をかけて動きを誘う目的だったみたいですね」
 マイトの言葉に、窓際に立っていた藤堂が深いため息をついた。
「まったく、あの人にも困ったもんだ」
 苦りきったようにそう言って、顔をしかめる。
「ウィルスの所在を確認するまで、あそこには迂闊に手を出さないように言ってあったんだが……な」
 富田林の連絡が絶えたのが昨日の夜の定時連絡の後。その直後に大きく事態が動いた。
 その意味で、富田林の目的は十分に達したと言っていい。ただ、あまり好ましい動きとは言えなかった。
 富田林自身の失踪、テロ予告、そして西園寺のるるの失踪。
 テロリストがウィルスを入手したと言っている以上、警察はいっそう表立って動きにくくなってしまった。
「……あ」
 手を止めて、クロスが顔を上げた。
「西園寺さんの未処理の報告があります。ええと……富田林刑事が空京から出てシャンバラ大荒野に向かった可能性あり、追跡します」
「ええっ」
「馬鹿な」
 藤堂が僅かに顔を青ざめて声を上げた。
「これ以上暴走させないように、彼には結界装置を渡していない。空京を出られる筈が……」
「小型結界装置の支給の申請書もあります。ただ、正式な申請の前にキャンセルされています」
「どういうことだ?」
「……申請が通るのを待っていたら間に合わない、と判断したのかもしれないわね」
 セレンの言葉に、思わず全員が顔を見合わせる。
 最初に我に返ったのはマイトだった。
「すぐに救助に向かおう!」
「私はここに残って、協力者の皆さんとの情報の共有の基地役をやります。他からの情報も、すぐそちらに回しますから」
 リカインの言葉にクロスがうなずく。
「わかった、お願いするね。こっちも随時、連絡を入れるね」
「はい、お気をつけて!」

 飛び出していく協力者達の背中を見送って、藤堂は息をついた。
 そして、窓の前に立つと、そっとブラインドの間から外を見遣る。
「シャンバラ大荒原、か……」